第一の試練“強欲の扉” 1
お待たせしました!めちゃくちゃ時間かかった…
青白い炎が歪みをたゆたせ燃えている。
空虚な眼窩に灯りはじめた炎は揺らぎを伴いソルとバルバを睨みつける。
禍々しい程の重圧感を感じながら見据えるとカタカタと沈黙だった骨が動き出した。
声帯の無いはずの骸骨から聞えて来たのは重低音の重苦しい声。
女でも男でもなく若くもあり老いている声でもある不思議な響きだ。
<汝、先を求む者か>
短い言葉は呆気に取られていた二人の耳に数秒遅れて届く。
先に反応したのはバルバだった。
「あぁ!求める」
意思強い声はハッキリと目の前の骸骨に向かって声高らかに宣言した。
ソルは迷宮とはこんな応答から始まるのかと我に返って最初に思った場違いな事を考えながらバルバと同じく骸骨を見る。
骸骨は何故か再び同じ質問をなげかけた。
<汝、先を求む者か>
困惑するソル。バルバは短気のせいか同じ質問を問われたことで若干苛立っている。
そこでふと気がつく。
もしやこの骸骨は二回目の質問をソルに投げ掛けているのではないかと。骸骨が質問した時答えたのはバルバのみ。ソルは傍観に徹して言葉を発していない。
まさかと思いながらもソルは骸骨に向かって言葉を返した。
「私も求める者だ」
ソルが言葉を返すと同時に鍵穴を護っていた骸骨が青い炎を纏い目の前で消滅した。
突然の出来事に反応が遅れた二人に扉は重い音を響かせゆっくり開いてゆく。
進めと告げるかのように一歩踏み出すと壁に掛けられたランタンに火が灯り扉の先を照らす。
「コレは…」
「行こうぜ!迷宮への第一歩ってやつだ」
躊躇するソルを引きずりつつバルバは豪快に歩きだした。
歩きだす二人の背後の扉がゆっくり閉まる。閉まる直前に声が聞こえた。
<その先行く者、七つの試練を成さねばならぬ。七つの偽り、七つの理、七つの記憶…戻れぬ、戻れぬ>
<心せよ。深淵は望む者こそ囚われる。心せよ。その道は希望ではない>
意味深な言葉をあの不思議な音を持つ声がソルを立ち止らせた。
気にした風でもないバルバはあの忠告が聞えなかったようだ。立ち止るソルを置いてずんずんと進む。
長い廊下をどれくらい歩いたのか。
先が暗くて見えず、終わりが無いように見えて仕方ない。意気揚々としたバルバでさえ若干の不安さを抱き始め、ソルに至っては外見は無表情で冷静そうに見えて内心震え上がって最早帰りたくなっていた。
冷静そうなソルを見てバルバは自身を奮い立たせているというのに内情はなんとも情けない。
「どこまで続くんだろうな」
「…」
不安な精神疲労がバルバの問いかけに咄嗟に反応できないでいるソル。
返事をさほど気にしていなかったのかバルバは再び問いかける。
「何が居るんだろう?どんな罠が待ち受けてんのかな?」
「…少なくとも七つの試練はあるんだろう」
「七つ?」
「先ほど七つの試練があると言っていただろう?」
初耳とばかりに見開いたバルバがソルに振り向いた。
「いつだよ!俺は聞いてないぞ」
「最初の門をくぐった辺りで後ろから言われた。声の響きからして最初の質問をなげかけたあの骸骨じゃないかな」
「はあぁ?あの骸骨は扉が開く直前に目の前で消えただろうが」
訝しげに問い返すバルバに内心バルバの顔が怖くて直視できないソルは冷静を装い自身の論を話した。
「此処は迷宮。神の試練場だ。何が起こっても不思議ではないだろう。あの骸骨にしても本当に消えたのかどうかなんて確認しようがない」
「…確かに、そうだな」
納得したのかバルバは目線を前に戻して睨みつけるように歩く。この先を警戒しての事だろう。ソルの言葉でここが一筋縄ではいかない“迷宮”だと再認識したようだ。
そうこうするうちに灯りに変化が見られた。
普通のランタンに灯るオレンジ色の炎が青白い熱い火に変わる。温かみのある色合いから灯る火は通常より高いというのに冷たい色合いへと景色が一変。
ソルは無意識に身震いする。感覚が“此処だ”と告げた。
バルバもその雰囲気を感じ取ったのか険しい顔つきで眼前を据える。
見えたのはいびつに曲がりくねった門の跡。
その門は骨が積み上げられて作られたような不気味なモノ。辛うじて門の形を残してはいるが入り口付近は崩れており通り抜けれる程の隙間もない。
門の周りは山積みになった瓦礫で溢れその先に行けそうもない。一本道であったがどこかで道でも別れてあったかと引き返すべくソルは後ろに振り向く。
「な、道が…無い!」
後ろに道はなくレンガを組んだ壁が背後に迫っている。
驚愕のまま固まるソルは言葉を詰まらせた。
ソルの言葉を聞いたバルバは過ぎに後ろを振り向き壁を殴った。
「なんだよコレ!なんで道がなくなってんだよ!!前にも後ろにも行けないんじゃどうしろってんだ」
「まさか…コレが“試練”だとでも言うのか?」
「ふざけんな!何が試練だ。ここで何を試すって言うんだよ!穴でも掘って先に進めってか」
バルバはいらだち壁を殴るが壁はびくともしない。
ソルは思案しながら崩れた門に近づく。門の骨に触れる直前、あの声が響いた。
<左手は老いる者の杯。右手は若き者の剣。繋がり果てる命の炎は正面へ>
重低音の響きで緊張が奔る。
謎かけのような言葉を残し沈黙した。
「…どういうことだ?ソル、お前さっきの言葉の意味分かったか?」
「いや、私も意味は分からない。でもあの言葉が先に進むヒントなのだろう。答えを出さねば此処で生き埋めだ」
「これが“試練”かよ。頭使う試練なんて思いもしなかったぜ」
溜息混じりにその場に座り込むバルバ。
謎かけを解かない限り進むことも帰ることも出来ないがモンスターが襲ってくるという脅威は感じられないため此処は思案の場として安全が保障されているのだろう。
制限時間は死ぬまでと云ったところか。迷宮と地上の時間がずれていることに感謝すべきだろう。
ソルもバルバに習いその場に座る。
早く謎かけを解かなければ。
「左手は老いる者……あの門の事を指しているのか?」
「でも全部骨だぜ?何が老いて何が若いのかなんて分かりようがねぇ」
「確かに…ん?そう言えば杯と剣と云っていなかったか」
「何か持ってるようには見えねぇぞ?」
バルバは立ち上がり門の左に回り調べていく。見た限り何かを持っているようには見えない。ソルもバルバも門を凝視するが何の妙案も浮かばない。
「くっそ!何にもわかんねぇ!!」
「落ちつけバルバ。焦っても答えは出せない」
「落ち着けって言っても学が無い俺じゃ頭使って時間かけても解けやしねぇよ…」
落ち込みガシガシ頭を掻くバルバ。迷宮ときたら戦闘がメインだと思っていた彼にとって頭脳を使い突破する試練等考えてもいなかった弊害だった。
「バルバ、学が無くても関係ないよ。“閃き”が一番重要なんだ。学があればそれに縛られる。寧ろない方が自由な発想が出来るはずだ」
「そうは言うが…」
二人は門の前に居座ってああでもない、こうでもないと頭を捻らせなんとか突破口を探ろうとする。
しかし無情にもただただ時間だけが過ぎてゆく。
そんな時バルバが何気なく呟いた一言にソルが興味をひいた。
「こんな時“陣術”が使えたらなぁ」
「陣術?」
「ん?ソル知らねぇのか?」
「あぁ良くわからなくて…どういうものなんだ?」
「俺も詳しく知らないから説明と云ってもあやふやなもんだしな。それでもいいか?」
ソルは頷いて承諾する。バルバはソルに向き直して拙い説明ながら身振り手振りで話す。
「陣術っていうのは神の御技を真似て創られたってやつで、ことわりだったかな?そいつに作用して発動させるらしいんだ。火石とかなくても願うだけで火柱を生みだしたり、水気の無い場所だって滝のごとく水を出せたりするんだ。といっても本人の力量によるらしいけどな。で、それを使えるのは才能でなんて言ったかな『ギフト』ってやつでそいつを持ってない奴は一生使えない。たとえそれがある奴でもそういう知識とかがなければまったく発動も出来ないって聞いた」
バルバの説明を聞いて最初に思ったのは<魔法じゃねぇ?>だった。
何もない所から火や水を生みだすのは魔法だ。世界が違えば表する言葉も違うのだろうが聞く限りではソルの知る魔法そのモノのように思えた。
「バルバはそのギフトが無いのか?」
「いや、ギフト自体は持ってる」
バルバはそう言って髪を掻き上げ自身の右耳の裏をソルに見せる。その場所にはうっすらと花弁に似た青い<…>痣があった。
「ギフト持ちは身体のどこかに“何かに似た”痣があるんだ。しかもその痣の色が自然には出にくい色をしているのが特徴でな」
確かにバルバの痣は自然に出てくるような色をしていない。それが特徴なのか。
「何かに似たってどういうことだ?」
「ギフトの痣は神の象徴なんだと。俺は花の形してるだろう?花の象徴を持つ神は夏神ヴァイスだ。ギフトはその象徴を持つ神の加護だって言う話もある」
「なるほど…」
「ソルには無いのか?」
「…残念ながらそんな痣はない」
バルバのような痣<ギフト>はないが陣術ににた力なら使える。それをバルバに言っていいものかソルは躊躇する。
「俺もギフトがあってもそれを使う“技”がないから宝の持ち腐れってやつだな…」
虚しそうな横顔をソルは無言で見つめた。
そこから転機が訪れたのは再びあの声がした時だった。
次話も少し時間かかりそうです…
後半訂正及び追加しました 5/21




