祠の迷宮
「キーノの…祠…?」
ソルは聞き覚えのある名称に戸惑う。
“キーノ”とはキーノ=デシェードに深い由縁のある名前だと女神の書籍で知っている。
それがなぜあの場所から離れた所でその名を聞くことになるのだろう。
「キーノっているのは“呪い”て意味だ。この言葉は東の国特有のものらしいから南から来たお前からしたら変に聞えたかもな」
意味が分からないと思ったバルバはソルに目線を合わせ応える。思いのほか物騒な意味で少しばかり引いてしまうがキーノ=デシェードにしても「呪われた大地」と云う意味だったのであながち的外れではない。
「…どうして“キーノ”が呪いって意味なんだ?」
「?」
「いや、“キーノ”が何だか名前のように思えたものだから…」
ソルは訝しげるバルバに誤魔化しながら返す。バルバは少し考えるそぶりをするとソルの質問に答えた。
「あぁ、そう言えばなんかの名前が由来だって村の年寄りたちが言ってたな」
やはりとソルは思った。
おそらくあの精霊が由来なのだろう。最も近い国だからこそその名の意味を知っていたのか。
「…それでその“呪われた”祠に何の用なんだ?」
「この祠自体なんで呪われたなんて名付けられてんのか俺は知らないんだけどさ、この奥に迷宮があるだ」
「迷宮?」
「そう。村から出るって息を巻いたは良いんだけどあんな寂れた村だから金もあんまし溜まらなくてな。迷宮ってのは昔から財宝の穴蔵って言われてるくらいだから入れば簡単に稼げると思って。っとはいえ独りで迷宮に入るだなんて自殺行為をするつもりもなくて諦めてたんだ。そこにあんたが現れた」
「私?もしかしなくても一緒に迷宮に入るために此処に来たっていうのか」
「分かってんじゃん!村の連中は何故か知らんがあの村に固執してる奴等ばかりの上にこの祠も近寄ろうともしない臆病者で一緒に入る奴が見つからなかったんだよ。お前も旅人だから金の工面には困ってるだろう?なら好都合だ」
ソルは嫌な予感をひしひし感じながら喜顔のバルバを横目で見る。名案だとばかりに迷宮に誘い込む様は戦闘経験のないソルにとって不安要素しか浮かばない。なによりバルバと云う少年も戦闘経験などあるのかどうか疑問だ。
迷宮と云えばバルバの言うとおり財宝が多く眠っている代名詞でもあろうしかし財宝に行きつくまでに何が起こるか分からない。ゲームや物語のように巧妙な罠や蔓延る魔物が行く手を阻むかもしれないし下手すれば死んでしまう。ソルはバルバのように財宝に興味はない。衣食住が揃った理想郷はすでに持っているためはっきり言って財宝など不要なのだ。
なによりソルの目的はスウェンの捜索及び確保だ。こんなところで道草を食っている場合ではない。スウェンとの差はこの時も広がっているのだから。
ソルは断ろうと意気揚々なバルバに向かって言葉を発しようとするが喉元まで出かかった言葉はバルバの何気ない言葉で押し止まった。
「この祠の迷宮の出口は王都近くにあるらしいからな。迷宮は地上と時間がずれてるらしくて地上で王都目指すより早く辿り着けるし過程で財宝持てい入れられて一石二鳥だ!」
――迷宮
はるか昔、神々が眷属を選別するために創ったとされる試練の場。
迷宮内ではあらゆる試練が立ち並び挑戦者を待ちうける。迷宮では眷属の為に神々が創ったとされる宝物が眠っておりそれを手にした者は神々に並ぶほどの力を得るという…
巨大な化石が鎮座する巨石の真下に鈍く光る石板に触れると石板が割れその下から階下に繋がる階段が姿を現す。
階段を下りる二人の少年。
進むたびに左右の壁に掛かる松明が自動的に着火する。それでも薄暗く先の見えない暗闇はその先の未来を暗示しているかのような不気味さで二人を迎える。
二人の少年の表情は対照的だった。
褐色肌に鈍い金色の髪を持つ少年は興奮冷めやらぬと言った喜色を湛えている。
一方紫混じりの黒髪の少年は無表情で紺碧色の瞳は雄弁に緊張をにじませている。
階下に辿り着いた二人の目の前には骨と岩石で造られたであろう禍々しい雰囲気を漂わす巨大な扉。
二人の背丈をはるかに超える巨大な扉の中央には不似合いなほどに小さい鍵穴とそれを護るように周りを人の手のような骨が鍵穴を覆い隠している。
その真下に頭部に一本角がある骸骨が空洞な眼窩を二人に向けていた。
空洞な眼窩に青白い炎が宿った時最初の試練が始まる。




