村の少年
ソルの目の前には寂れた雰囲気の村が見えた。
暗闇の中に僅かに灯る光りもどこか朧気だ。魔物や動物の侵入を防ぐために人の背丈よりも高い塀で村を囲っているがその塀は強固なものではなく簡易の木材を繋げて並べた様なお粗末なものだ。
村に入る門には見張りのような人影はなくひっそりとしており自由に出入りが出来るようだが不用心のようにも思える。
周りの侘しい森に合わせてコレが普通の村の姿なのかと錯覚してしまいそうだ。
ソルは早速村の中へと入ってゆく。
まずこんな時間帯に外に出ることなどほとんどないのか人影は皆無だ。
ここは片田舎の寂れた寒村とはいえ人間至上主義国家であるバーレシア王国内にある村だ。隠れ住む獣人族の居場所を知っているとは思えないし街道沿いにある村がその獣人族の集落とは考え難い。そんな村に立ち寄る理由などはっきり言ってないのだが、少し異世界人の村に興味があった。
もっと言うなら数の多い“人間”と接触してみたいと思ったのだ。獣人であり最初の異世界人であるスウェンからも多少なりとも情勢なんかを聞いてみたり女神の情報本からもある程度の世界観を知ることはできた。
しかしソルは一方的な視点だけではなく別視点から知ることも大事だと思ったのだ。
そんな理由から村入りを決断した。
誰も外に出ていないが各家からは灯りが零れ僅かに話声も聞こえてくる。
時間帯として夕食時と考えていいだろう。
ソルはまずどうやって村人に自分の存在を認識させるのか悩んだ。
無駄に騒ぎを起こしたくない。何しろ自分の妖しさは十分理解しているのだ。
まずこんな時間帯に、こんな外れの寒村にやってくる人物など妖しさしかない。
ソレどうやって友好的にすればいいのか。幸いソルの見た目は人間だ。しかも成人前の少年。
多少見た目で警戒を緩めてもらえればいいのだが此方の価値観で警戒を緩めるか逆に強めるかは今の時点では不明。
楽観視するなら子供だからというので緩めてくれるのを期待している。
まぁ、そんなに簡単にはいかないのだけれど…
「さて…どうしたものか」
ソルは独り呟く。
その呟きの後進行方向の先にある一軒の家のドアが勢いよく開く。
ドアの先から出てきたのはソルと同年代頃の褐色肌の活発そうな少年。
その少年が乱暴に出てきた後ろで怒鳴り声が響く。
距離と家との壁で中からの声は何と言っているのはソルにはいまいちわからない。しかし家に向かって振り向いた少年の表情から喧嘩のようなモノと判断。
「こんなくそみたいな村なんて出っててやるよ!!」
絶え間ない怒号に少年も負けじと怒鳴り声で応酬する。
内側の怒号が終わらない内にドアを閉め切る。
バタン!!
壊れるんじゃないかという強烈な音を響かせとじられたドアの内側から僅かな声が聞こえるが扉が再び開く様子はない。
怒り心頭の顔立ちをした少年は家を一瞥した後呆然と立ち止るソルの方へと目線が動いた。
そこでようやくソルの存在を認識した。
少年は一瞬動きが止まる。
大きくなる目は緋色に藍が混じる不思議な色合いをしていた。
「お前…誰だ?」
なっかなか話が進まない…