村までの道のり
ソルは道なき道を歩いていた。
街道はなく獣道を沿って覚束ない足取りでそれでも前へと進む。
日差しの暑さに疲弊しながらも額の汗を拭い未だ続く森の先を見つめた。
首元にはひんやりした冷たさを感じつつその元を眺め見る。そこにはルビが巻きついて暢気に眠りこけている。どんな現象なのか到底理解できない漫画のような無駄にデカイ鼻ちょうちん付きで。
見た目からは首を絞められている様子であるのだが勿論首は絞められていないしひんやりした身体は冷却効果で暑さ対策にもってこいでとても重宝していた。
最初暑さでバテバテだったソルを見かねてルビが首に巻きついてきたのだがその時は案の定悲鳴を上げた。しかしすぐに冷たさで感謝感激の涙を誘ったものだ…
方角的には確かに合っているはずなのだが歩けど一向に町や村の姿はおろか街道すら見当たらない状況にソルは場所を間違えたのかと焦り始めていた。
ソルの焦りは杞憂だった。キーノ=デシェードの近郊には人の集落は一切存在しない。特に一番キーノ=デシェードに近いバーレシア王国では西側に街が集中しており東側には殆ど街が無いのだ。差別される亜人たちの集落でも東側には無い。最も近い村でも大凡二日はかかる距離にある。そこまで行かなければ人には出会えないのだ。
その事を知らないソルは無駄に不安になり進む速度も格段に落ちていた。
ソルは周りの森を眺めながらスウェンの言っていたことが本当だったと彼の言葉を思い出していた。
スウェンはキーノ=デシェードの森は『良い意味での異常』だと言っていた。
国境を越えたあたりから見る森は全て枯れているかと思うほど細い森ばかり。栄養の欠乏した痩せた森はスウェンの言うとおりこの場所だけではないのかもしれない。そう判断するには情報は乏しいがソルは何故か納得している自分が居た。
虚しい眼差しを向けながら痩せた森と荒野と何も変わらない荒れた大地を踏みしめる。
太陽が真上に辿り着く
空腹が音を立てて主張し出す頃、ソルはとうとう足を止めてしまった。
先の見えない途方もない道に嫌気と無視続けた足の痛みがピークに来てしまったのだ。
靴を脱いで足の裏を見てみる。赤く爛れたようにヒリヒリと熱が膿む。腫れも脚全体に広がってコレ以上徒歩で進むのは無理だった。
どうやらソルの体力は前の体に比べても脆弱のようで疲れた頭の端で体力の減退の理由を探す。
たしかモチーフになった両方のキャラクターはどちらも体力は低く設定していた。それは補って余るほどの能力の強さを強調した弊害であるのだが、それを考慮してもこの体力の無さは酷過ぎる。
もしや両方の低すぎる体力を平均化したのではなくマイナスに足してしまったのだろうか…
そこまで思考してその先を考えるのを放棄したソル。
コレ以上は精神面でもダメージを受けると判断した。しかしその時点でも相当のダメージを受けていたため無駄な抵抗のような気がして疲弊を訴えるソルだった。
歩くことが出来ず進むことも困難になったソルは悩む。
早くスウェンに追いつかなけばならないのにどうしようもない状況にジレンマを起こす。
(這ってでも行くべきか?いや、それも焼け石に水だろう…)
ソルが空を見上げ空を飛べたらと出来もしない事を思い浮かべて時だった。首に巻きついていたルビが居眠りから目覚め立ち止っているソルを不思議がっている。
ルビの視線を受け苦笑い気味に「歩けないんだ」と情けなく言葉をかける。
ルビは頭を持ち上げ、慰めるようにソルの頬にすり寄って身体を地面に下ろす。
「どうした?」
ソルがルビの不審な行動に訝しげながら問いかけた時
ルビの体がみるみる大きくなってゆく。しかし元の巨大さとまではいかず大凡その半分ほどで止まる。
ルビはおもむろにソルの体を持ち上げ己の上体にソルを下ろす。
「まさか、私を乗せて森を進むつもりか?」
ルビは上下に首を振る。焦るソルを後目にゆっくりと痩せた木々を縫って進むルビ。
速度は何も障害物が無かった荒野を奔ったような早さはなく、それでもソルが進んだ速さと比べられないほどの速さを持ってずんずんと進む。
ソルは思った。
こんなことならさっさとルビに運んでもらえば良かったっと。
項垂れ気味に思ったソルは少々いじけていた。
* * *
日が傾き始める頃には変わり映えのない痩せた森に変化が訪れた。
僅かに開いた道に出たのだ。
街道といえるかどうか微妙だが人の手が入った獣道の隣のような道だった。
ルビの蛇上で薬を塗りながら体力の回復に努めすっかり傷が癒えたソルはルビから降りる。
人の手が入った道に出たことで近場に集落もしくは村があるのではないかと推測したのだ。このままルビに乗って進むのはソルにとっては楽で良いのだがこれから会うであろう現地人を無為に驚かせそうなルビには悪いが小さくなって隠れてもらうことにしたのだ。
此処から村までどれほどの距離かわからないが先ほどまでの長い距離とは考えられないためソルでも充分歩きつけると判断した。
そこから数時間後
日も落ち、暗くなり始めた森の間の道を進んでいくと視線の先に人工的な光を見つけた。
ソルは初めて訪れた最初の村『サマド』にやってきた。




