道化師は嗤う
強烈な光を受け視界が真っ白に染まる。
僅かな時差をつけ爆風によって身体を叩きつけられた。馬車に乗っていたため直接衝撃を受けることはなかったがそれでも馬車内部でシャッフルされる程の衝撃の後外へと叩きだされる。
馬車はすでに本来の形を失いただの木片が辺りを散らばっているばかり、知らぬものが見たらコレが馬車だったとは気付かないだろう。
外へ叩きだされた衝撃か身体の至る所が擦り切れて裂傷がはしる。
軽く脳震盪を起こし気絶しかけるが身体の痛みを感じて、から苦も意識を失うことはなかった。
一緒に乗っていたアルノルドを探すと数メートル先の木々にぶつかってうつ伏せに倒れている姿が発見できた。
身動きしていないアルノルドを見たレディナスは彼の傍に駆け寄る。
僅かに胸が上下しているのを確認し気を失っているだけだと安心する。しかしアルノルドの体もレディナス同様身体の至る所に傷を負っている。特にアルノルドは外に出された際に木に左半身を強打したことにより左腕から肋骨に至る箇所を複雑骨折しており左腕に至ってはあり得ない方向に捻じり曲がっている。
すぐに治療することも叶わず、かといってヘタに動かすことも出来ない。
レディナスは周りを見渡し助けを求めた。
この時初めてレディナスは外の惨状を認識した。
焼き爛れた様に赤く燃える地面に周囲の木々は薙ぎ倒され見渡すかぎり荒野が広がる。視界の端に僅かに見えた森の距離から少なく見積もっても半径十数メートルはすっかり森がなくなったことになる。
それだけの衝撃を受けながらよく無事だったと内心冷や汗を流し、レディナスは共に従っていた護衛たちの姿を探す。これほどまでの衝撃を受けて外にいた者が無事だったとは到底思えなかったがそれでもレディナスは自分を慕ってくれている彼らをどんな姿であろうと見つけたかった。
最悪の状況を念頭に置いていたレディナスだったがその思惑は外れることになる。
馬車や護衛たちが身に着けていた武具などが跡形もなく消し飛ばされる衝撃だったにもかかわらずほぼ中心地に固まって彼らは横たわっていた。
誰もが少なからず傷を負っているものの致命傷になるであろう傷もなく皆生存していたのだ。
深い傷はないとはいえ骨折などで安易に動ける状況ではない者ばかりそんな横たわる彼らに近寄って傷の具合を見るのは唯一動けるレディナスのみだった。
レディナスは皆が生きていることに驚きそれと同時に安堵した。
だが腑に落ちない。
回りを荒野に変えるほどの衝撃を受けなぜ生身の人間が生きていられるのか…。
レディナスは焦燥する。
何かがおかしいと。
倒れている者が僅かに喚く声と木々を焼く音だけが響く中、場違いな程静かに響く足音がレディナスに迫っていた。
パチパチパチ…
拍手する音が響く。こんな状況下で拍手などあり得ない。
一体誰が?
レディナスは音のする方へ振りむく。
荒野の中に佇むのは黒いローブ姿の深くかぶるフードで顔の窺えない長身の人物。
どこか俗物的な雰囲気を醸し出し僅かに覗く口元からクックッっと妖しげに笑う。両手は未だに拍手を繰り返し場違いな音を響かせレディナスに近寄った。
レディナスは不気味なその人物を注視する。どこか見知った風貌に既視感を覚えながら警戒を強め声をかけた。
「何者だ」
「コレはこれは殿下御自らからお声をかけてくだされるなど光栄の極み♪」
「戯言を!コレは貴様が企てたことか」
レディナスは語調を強める。フードの人物は男とも女とも取れぬ不可解な声の響きでおどけた様に振る舞う。その様子はまるで道化のようであり思考が読めない。
「フフフお怒りは御尤もですが冷静に冷静に…コレはちょっとした前座でございますよ?」
「前座…?どういうことだ」
「ワタクシとある方にご依頼されましてね、普通ではつまらないのでワタクシなりの“お遊び”を加えさせて頂いたのですよ♪」
レディナスは絶句する。コレが“遊び”だとでもいうのかと目を見開いて呆然とフードの人物を見つめた。
フードの人物は玉乗りするように左右に身体を動かしながら両手を広げる。
「おぉっとワタクシとした事が名乗り出るのが遅れてしまいました」
動きをピタリっと止め楽しげな声色で右手を胸に抱き大げさに曲げる動作をする。まさしく道化のようにたった一人の観客に名乗り出した。
「ワタクシは【死狂い道化師】アルーブと申すものです。どうぞお見知りおきを♪」
次ぐらいでレディナス過去篇終了です




