レディナス
おっ久しぶりです!!
一カ月ぶりの更新です。お待たせしてすみません(≧≦)
次回以降週一~二ぐらいで投稿していこうと思います。
煙が燻る焼けた森の真ん中で青年はゆっくりと立ち上がる。
痛み軋む身体に鞭打って立った青年は裂傷が激しい右足を引きずり、右腕から滴る血を左手で押えながら変わり果てた自分に従っていた者たちの亡骸を眺め見てゆく。
顔の判別はおろか性別さえあやしい程に黒焦げた死体。辛うじて人間の形を留めたその躯に向かって青年は悲痛な表情を浮かべ声もあげず泣き崩れた。
青年の名をレディナス・シーザ・バーレシア。
バーレシア王国第一王位継承者の王太子。その彼がなぜこのような惨状の最中にあるのか。
それは数時間前に遡る…――
隣国のペラエス国に式典の国王代理の大使として赴くため国を出発したのが二日前だった。
大勢での移動に時間を取られることを避けるため護衛及び使用人を含め十数名での旅路であった。
最も信を置く直臣であり乳母兄弟のアルノルドとともに馬車に揺れ国境境に来た頃、なれぬ旅路に疲弊した体を少しでも休めるため仮眠をとっていた。
「…殿下、殿下。起きてください」
「…んぅ…なんだ?」
己を呼ぶ声に目を覚ます。眠気眼のまま呼び起こしたであろう同乗者であるアルノルドを見る。
アルノルドは普段の柔和な表情を強張らせレディナスの正面に座っている。
「…何があった?」
アルノルドの表情を見たレディナスは瞬時に状況の異常をを感じ問いかける。
アルノルドは声を潜め、しきりに外の様子を気にしている。
「殿下、数分前にペラエス国との国境を越えました。しかし普段常駐しているはずのペラエス側の兵が姿を見せず、国からの連絡が途絶えました」
「何?ではペラエス国との連絡は」
「先ほどから何度も応答を試みてはいるのですが何せ‘キーノ=デシェード’に近いこともあってか魔具の調子も思わしくなく…その事を度外したとしても他国との連絡は取れずとも自国との連絡が取れないのはおかしすぎます」
「たしかに…で、外の様子はどうだ?」
「今のところ目立った変化はありませんが先ほど申したようにペラエス国の兵がおらず、先触として兵が引率する予定でしたので先に進むこともままならず現在道中にて止まっている次第です。如何為さいますか?」
アルノルドの問いかけにレディナスはしばし巡考する。
このままペラエス国に向かうことは現状無理だろう。双方の国と連絡がつかないのは何かしらの問題が興ったとみていいだろう。魔具の不調もこの場所所以だが仮にも王族が使う魔具が早々に壊れるとは考えにくい。
此処はひとまず国元に引き返し問題の調査に当たるのが良いかもしれない。
本来この場所にいるはずだったのは外交に才のある第三王子のバレンだった。
第一隣国とはいえ王位後継者の筆頭である王太子のレディナスが外交として赴くのにはいささか問題があったのだ。
諸外国に王太子は病弱として流布しており、表舞台に立つことは殆どなかった。表だっての理由として前記のように病弱としていたのもあったのだが本当は違う。
レディナスは身体の線は細く色白で病弱そうな体格であるものの今まで病らしきものに罹ったこともない至って健康体だ。
しかし彼をそのまま表だって立つことには国として問題があったのだ。
バーレシア王国の方針、『人間至上主義』にレディナスは王族として唯一疑問を抱いていた。
この方針はバーレシア王国に限った事ではなく周辺諸国は程すべて同等の認識を持ちその筆頭がバーレシア王国だったのだ。
それを率いるべき王族であり次期王となる王太子が真っ当から反対意思を持っている等諸外国から忌諱の目で見られるは事請け合い。
そうなれば王国は孤立してしまう。なにより時期が悪い。
今現在王国は北のスヴェア皇国と緊張状況にありいつ戦争が始まってもおかしくない状況なのだ。その中諸外国との亀裂は避けたい。王国の法として死亡以外に廃嫡されることはかなわないためレディナスが王になるのはほぼ決まったようなものである。
時間稼ぎの為に病弱を装い政から遠ざけ実権を握るのが第二王子のオーエンになるのが貴族院の狙いで、云わばレディナスはお飾りの王になるはずなのだ。
貴族院の思惑を知り自分の権威復興に向けて動く直臣たちを後目にレディナス自身はすでに諦めの境地にいた。権威を取り戻すには王国の掲げる人間至上主義を認めなければならないからだ。
レディナスは嘘でもそれを認めることが嫌でしかなかった。彼は優しすぎたのだ。
異種族であっても意思があり心がある。姿かたちは違っても何ら人間と変わりない。そんな彼らを虐げる人間の方に幼少期から嫌悪感を抱いていた。
何故という問いかけは周りの大人たちから揉み消され「異種族は劣悪」「人間はどの種族よりも優秀」などと諭される。
頑なに拒絶を繰り返すレディナスをいつしか周囲は『異物』として蔑むようになった。
王族であるため表だって批判することはないが彼らの目には確かな侮蔑を含み、次第にレディナスは自身の宮から出ることも少なくなり気心の知れた乳母兄弟のアルノルドしか逢わなくなっていた。
アルノルドはレディナスを理解し周囲に認めてもらえるように働きかけていた。そのおかげか僅かながらに理解を示す者たちを臣下として向かい入れた。
しかし彼らは庶民の出が多く貴族の出であっても地位は最も低いものだった。その彼らの発言力など無いも同等でありいくら周りを論した所で身分の低さに取り合ってもらえ訳もなく、その彼らを臣下とするレディナスの評価は依然と低いままだったのである。
その状況下でペラエス国との重要式典に本来行くはずのバレンが急に病を患い出席を見合わせ代わりの者にレディナスが抜擢されたのだ。
レディナスにしてみれば今更外交に出ることなどあり得なかった。
アルノルドら臣下たちは喜んだがレディナスは憂鬱だった。
「殿下、引き返しますか?」
アルノルドはレディナスに問う。巡考していたレディナスは同意を示すため目線をアルノルドに向ける。
「あぁ、そのように…」
その時突然の爆音と強烈な光が襲った。




