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平凡希望しかし現実苦し  作者: 澤木弘志
第一章 優しき愚者 ~朱ノ篇~
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消滅の日

ソルは一度本から目を離し眉間を揉み、肩を回す。

室内は照明の淡い光に照らされている。窓の外を見ると漆黒の闇が広がっていた。


柱に掛けられた時計代わりの『導きの木』の実が深夜0時を示している。

この実は完全な球体形で半分に割ると見たままの“時計”が現れる。長針や、短針だけでなく秒針まである。さすがに文字は書かれていないが、文字の無い時計と同じく12時、3時、6時、9時の四か所に黒い模様があってソレで時間が分かる。

普通の時計と大差ない仕上がり具合だ。



読み進めてゆくと今存在する全種族はそのほとんどがキーノ=デシェードに逃げ込んだ末裔らしい。

キーノ=デシェード外にいた種族は竜族を除いてほぼ絶滅。

キーノ=デシェードに逃げ込んだ種族も当時そのままの種が生き残っているわけではなく進化、退化の過程を経て一部の能力だけを引き継いだり、他の種族をかけ合わせた様な種に変化したりと様々だ。

その中で当時からほとんど変わらない種族もいる。つまり殆ど完成された種のようでドワーフやエルフなんかがそれに当たる。

その二種族以外にもう一つ。

脆弱な肉体と貪欲な繁殖能力をもつ『普族』。現在は人族もしくは人間と名を変え、この世界の覇権の頂点へと躍り出ている。

他にも普族よりも強靭で知能高い種族はいたはずだ。それなのになぜ彼らは表舞台から姿を消し、はるかに弱い個体である普族、人間が出てきたのか。


その過程はこの『神話と不毛の大地』には描かれていない。


ソルは再び本に目を向け読み進めてゆく








――最古の国『キーノ』は最も文明が栄え、発達したユーブル期までその名を残す。

しかし、ある時期を境にあらゆる歴史書や文献から姿を消した。


魔物の活発期、後の世はこの時期を『暗黒期』と呼び、その終焉を経て残った種族たちが次々と国を興してゆく。この時代はあらゆる文明の隆起が起き、魔術及び技術がとびぬけて発達した時代だった。

この時代に生まれ、著しい魔術の発展が起こった文明の中心地だった大国の名を取って、この繁栄期を“ユーブル期”と呼ばれるようになる。

キーノは暗黒期をまたいで建国された唯一の国だった。

キーノで生まれた魔法、技術が各地に散らばった同胞の国家の基となる。ゆえにキーノを国の基礎とも言われ各国に尊敬の念を抱かれるようになる。


そのキーノに影がさすのは十九代目の王アルバスの時代だった。

キーノは単一の種族を王にしているわけではなく、八つの種族から選ばれた長が王に選出されていた。

十八、十九と二代続けて王になったのは魔人族だった。


キーノ=デシェードに逃げ込んだ種の中で体内にマナを宿していた唯一の種族であり、この特徴ゆえマナ枯渇期においても魔人族だけは魔法が使えた。

魔人族は魔法だけではなく統括力においても群を抜いていた。そのため王に選出されることも多く最多の四回。そして最も少ないのが普族の一回だった。

王に選出される理由には統括力以外にも在位期間も影響があったとされる。


魔人族はエルフ族に次いで長命で約二百五十年。

巨人族とドワーフ族の百八十年が続き、獣人種、翼族、人魚族が百五十年。最も短い寿命が普族の六十年だった。

在位は産まれてすぐ着任するわけではないため普族の王の在位期間は僅か十年だった。

その他の種族が最低でも百年あったのに比べると圧倒的に短いのが分かるだろう。在位期間が長ければ長いほど安定した政権が続く。ゆえに長命種族に王が集まっていたのだ。それは高位の役員も同じだった。


時が経つにつれ種族同士の溝が深くなってゆく。

初期には曖昧だった階級も次第に明確化され王の選出数はおろか役員の数の多さで優劣が決まり、殆ど選ばれることもなく種自体脆弱な普族は他種族から劣等種として蔑まれるようになる。

先々代王の時代にそれは最も顕著になり、アルバスの時代になると普族はすでに奴隷同然の生活を送るようになっていた。


普族の不満はある日爆発する。

その時の普族の長アメーシア=リルが高官に謀殺されたことから始まる。この事件には五種族の高官、官吏が関与しており、はては公平であるはずの王までもが画策していたというのだ。

それをしった普族は各地で暴動を起こした。しかし圧倒的な種族差で瞬時に沈静、粛清される。

普族は最後の手段として国の象徴であり守護神の大木精霊“キーノ”に懇願した。

かつて困窮から救いに手を差し伸べた慈愛の精霊に普族は頼ったのだ。


しかしキーノは宿り木と同化して以来人々の前から姿を現すことはなく、この騒動においても沈黙を守ったままであった。




普族は絶望のあまり呼び出してはいけない者をこの世に呼び戻してしまう。






そこからは本当に一瞬の間であった。

緑溢れた豊潤な大地は一瞬にして蒸発し、全てを消し去った。

残ったものは守護精霊キーノが宿った大木の僅かな一枝のみ。その残った枝木も強烈な砂嵐によって砂深く埋まっていった。



何が起こったのか、理解した者はいなかっただろう、元凶を呼びだした普族でさへも。






国が興ってから七百二十三年、この日を境に最古の国キーノは消滅した――














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