『神話と不毛の大地』
――呼び起こしてはならないモノ…
神話の時代、植物の守護精霊として生まれこの地を守った古い精霊、キーノ。
かつて瑞々しく輝いていた姿は消え、どす黒く周囲に呪いを振りまく醜悪な堕精霊としてキーノ=デシェードに復活した。
しかし長い年月を経て憎悪の影にも僅かに光がさしていた。
それは同じ名を持った幼い精霊に現れている。
逃げ込んだ人々を救った慈愛の精霊“キーノ”と堕ちた古い精霊“キーノ”は元は同じ精霊だった。
神との争いに敗れ封印される直前に善意の欠片を水から分離させたキーノは時間をかけ新たな精霊として肉体を得、再びこの地に舞い戻ったのだ。
宿り木と同化することにより地下深くに封印されていた本体と木の根を通じて合体し、普族の願いと絶望の声で目覚めた。
蘇っていた“楽園”は再び絶望を振りまく“呪われた楽園”へと振り出しに戻る。
キーノは分かっていた。
自分こそがこの地を楽園から遠ざけている存在だと。
しかし自身の底から湧く憎悪はかつての神を超えあらゆる存在、世界そのものに対して向けられて行く。
止められない。長い封印を経ても消え去ることができなかった。
キーノはこの世界に生まれて初めて“神”に懇願した。
封印ではなく自身を消滅させてほしいと。
始祖神の時代から生きる古い精霊はなまじ力が強く、へたな神よりも強大な存在であった。
ゆえに消滅させることはできず、“封印”させることしかできなかったのである。
そんなキーノが懇願した“神”とは始祖神よりもはるか昔の“神”。世界を創造した創造神だった。
生まれてすぐに理解した“神”と“創造神”の格の違い。
創造神を知る身であるからこそまがいものの“神”がどうしても許せなかった。
神に懇願する時、必ず必要になるのは“神の名前”だ。
しかし創造神を知るキーノでさへ創造神の姿はおろか名前は知らない。ただ存在を理解していただけだ。
この世界に生きる生物及び精霊、そして神は創造神を“知らない”
届かない願い、想い。
憎悪は深く淀み地上をめぐる。
自我が保てるのも時間の問題であった…――
――キーノ=デシェードは憎悪による瘴気で黒い砂漠に変化していた。
何もない深淵の闇がその場にとどまっている。
自我の消滅がまじかに迫った時、キーノは意識の下層で光を見た。
何の光か分からない。しかし懐かしい光だと感じた。
淀むキーノを包み込む柔らかい感触。
身を焼かれそうになるほどの強烈な光は浄化する如く瘴気を飲み込んでゆく。
最古の国消滅から一年
憎悪に堕ちる堕精霊キーノは望み通り消滅の時を迎えた。
その深い爪痕を残して…――
ソルは最後の記述を指でなぞりながら見終える。
この地での大まかな歴史の流れ見てきたが最後はなんだかあっけないもので締めくくられている。
結局堕精霊キーノは誰の手によって消滅出来たのか、そこに関する記述はない。
一応女神様のお力で記載された情報だから嘘はないだろうけども、書かれていないとなると他の本に描かれているのだろうか?
女神様経由の情報だけでなくこの世界で出版されている本もこの書斎には詰め込まれている。しかしどれがその本かの分別は分からない。
同じ様な言い分や筆跡で書かれているのもだから余計区分がつかないのである。
この世界で出版されている一般の書籍は情報の誤りや誤解も描かれていることがある。だからそのまま鵜呑みにしてしまうの史実と違うことになり正当な情報と混ざって分からなくなるのだ。
“あらゆる情報”と云ってしまったが故の弊害だ。一応一般書籍も“情報”の一部に入っている。それが真か嘘かは別にして…
この『神話と不毛の大地』も一般書籍なのか女神様の情報書籍なかの区別は分からない。
多少物語り調であるため歴史書や文献をもとにした創造上のものとして描かれた一般書物なのかもしれない。
この本だけではなく他の本も複数読み比べた方が良いだろう。
ただ…これだけの蔵書から限定キーワードの書かれた書籍を探すのは途方もない時間が必要だとソルはため息をつき愚痴る。
(パソコンの検索なんかがあれば簡単なんだが…)
無い物ねだりというものだ。
時刻はすでに午前二時を過ぎている。
いい加減寝ないと朝起きれないと思い、書籍をそのままに書斎室から出る。
明日というよりも今日、改めて調べなおそうとソルはあくびをかみ殺し自室のベットに横になった。




