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平凡希望しかし現実苦し  作者: 澤木弘志
第一章 優しき愚者 ~朱ノ篇~
33/56

キーノ=デシェード


――不毛の大地には生命が生まれぬばかりではなく世界をめぐるマナの気流さへも廻らなくなっていった。

そのためその大地にはマナ枯渇状態であり世界のどこにでも存在する生命力の強い魔物すらその地には近寄ることはなかった。

コレは精霊の呪いではなく、神の怒りの影響によるものだ。


その地には生命が生まれず、マナが無いため魔力を練り解き放つ“魔法”が使えない

その不毛の大地を守護精霊だった古い精霊の名を取って『キーノ=デシェード』、“呪われし楽園”と呼ぶ――




ソルは読み進めるにつれ神話の世界へと引き込まれてゆく。元々感情移入しやすい性質だったせいか時間を忘れ没頭した。

ページをめくる音だけが夜の帳に響く。



神話の時代から時は流れる。

人々は混沌の時代へと移り変わっていた。


――…南の大河から文明が生まれ、人々の流れが大陸中に広まった頃。その時代には四つの種族が陸海空の主権を争っていた。


緋色の目に燃える体を持つ大鳥の姿をした『ザガ』

全身を刃のような鋭い皮膚に覆われ白い蛇のような姿をしている『ラータ』

黒い霧のような膜を持った巨体生物『ゴモ』

頭部にねじれ角を持ち雪のように白く冷たい体毛に覆われた大狼『ミュダ』


それぞれの種族は互いに牽制しながらあらゆる種族の頂点へと昇り詰めていた。


しかしどの種族も彼の地には決して近寄らない。

生けし者の全てにとってその地は恐怖で有り明確な“死”を象徴する場所だったからだ。――




――彼の大地が表舞台に初めて登場するのは神々の地上からの喪失から約八千年過ぎた頃

繁栄を極め生物の頂点にあった四つの種族が力を失い別の種へと移り変わり、姿を消して久しくなった地上では生命力が強くあらゆる場所に蔓延しつつあった魔物の活発期に入っていた。


強い四種族が消え天敵がいない魔物は増えるばかり、その他の種族も対抗するも魔物の勢いには敵わず徐々に数を失い種の滅亡を迎えた種族も少なくない。


勢力拡大を万進続ける魔物だったがキーノ=デシェードだけは一匹たりともいなかった。

逃げまどう種族が生きつく場所はそこしか残されていなかったのだ。


そこで不毛の大地は魔物に唯一脅かされることのない“楽園”として表舞台に登場した。




生命の生まれないキーノ=デシェード。

元凶たる古の精霊の呪いも長い年月を経て薄れてきたのか僅かであるがその地にも生命が生まれるようになっていた。

しかし神の怒りによるマナの枯渇は依然として解消されることはなかった。

その地では魔法は使えない。だが脅威となる魔物もまたその地には寄り付かない。そのため攻撃手段の主であった魔法は人々に知識から消えてゆこうとしていた。


魔法を失いながらも人々は脅かされることのないその地であらゆる種が混合された国を創ることになる。




国名のないその国は誰もが“楽園”と呼び、以後六百年の間平穏な時代を過ごすことになる。











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