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平凡希望しかし現実苦し  作者: 澤木弘志
第一章 優しき愚者 ~朱ノ篇~
32/56

修正不可能な黒歴史を見られていたことに悶えていたソルだったがいつまでも悶え続けるわけにはいかない。

ソルの奇行に呆然とし、うろたえているスウェンを流し見て先ほどの奇行が無かったように振る舞った。


「…」


「え!?あ、あの…?」


本気で何事もなかったように澄まし顔でスウェンと向き合うソルに困惑して言葉がたじろぐ。

そんなスウェンをも無視して話を進めた。


「…この森は私が生みだしたものだ。先ほどまで誤魔化したのは到底信じられないと判断したからだ」


「それは…」


「それに、この森を創ったのが私だからとて何かあるというのか?」


静かに疑問をこぼすソル。

純粋な疑問で森が生まれ理由を知りたいと思うのは分からないでもない。だがそれを誰が生みだしたかなんてはっきり言えばどうでもいいことなのではないかと思ってしまう。


「…この大地にははるか昔から噂される逸話があるのです」


「?」


スウェンは目線を反らす。

肩に停まっていた小鳥は飛び立ち窓辺に飛び降りて毛づくろいをしている。

中々言葉を出そうとしないスウェンに業を煮やしたのか席から立ち上がるソル。


「今日はもう遅い。話は明日だ」


食器をシンクに置いて上階へと上がるソルの後ろからスウェンが物言いたがげな表情をして見送る。

出しかけた言葉はついに口に出ることもなくソルは退出してしまった。


それからしばらくスウェンは動けなかった。






ソルは二階の自室ではなく三階の書斎室にいた。

スウェンが言いかけた噂が気になって眠れなかったのだ。


(噂、噂…土地の項目から探した方が良いのかな?)


背表紙を指でなぞりながら探してゆく。曖昧な情報から探すのは骨が折れた。

指でなぞっていた箇所にあったある本を取り出す。


本題は『神話と不毛の大地』



――神話の時代、原初の神アルキスが大地を、ノビルが大空を創り世界のもとを創った。

アニキスの汗からは水が生まれ大海原となり、血から最初の生命である植物が生まれた。

ノビルの喜びの感情から春が生まれ、怒りから夏に、楽しみから秋が生まれ、悲しみから冬が生まれた。

そして原初の神が混じり合い大地と大空に溶け込んだことにより、多くの神が生まれ、最初の生命である植物からは精霊という種が誕生する。


これが創世である…――


――…混沌の神から分離したアバスという神がいた。奔放でいささか自尊心の高い神であった。

アバスは地上で最も豊かな森が生まれていた東の果ての大地を気にいり、その地に自分の神殿を造ろうと思った。しかしその大地にはその地を守護する精霊がいた。原初神の時代から存在する古い精霊の名をキーノという。

森を象徴とする精霊であるキーノは自分以外の高位存在がこの地にいることを許容出来なかった。本来神という存在を快く思っていなかったキーノにとってアバスの来訪に怒りを表す。

アバスも精霊を毛嫌いしていた神の一柱だった。その二つの存在はその大地にてぶつかる。

衝撃により豊潤な森は姿を消し大地は抉れ荒廃した。

アバスの怒りによりキーノは守護していたその大地に封印され、怨を発したキーノは堕精霊となり封印した大地に呪いが蔓延した。

大地は生命が生まれぬ呪われた不毛の大地になった――









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