危険な魔法陣
カラカラと、馬車が山道を下っていく。
「わぁ……………。」
ようやく森を抜け、開けた壮大な街の光景は、まるで西洋の街並みを形どったような、映画の中の一幕。太陽に照らされた、煉瓦造りの美しい家々は、ガタガタとした山道を、ようやく乗り越えた3人に新たな冒険の予感を、感じさせた。
ドカーンッ!!!!!
街の東側の大きな建物が、爆発によって吹き飛んだ。モクモクと煙が上がっている。
「な、なな、なんですの!?」
「な、なに!?」
「何かあったようだな。」
もうしばらく坂を下り、いよいよ街の入り口へと立ち入る。門を潜ったその先には、活気に溢れた人々が、石畳の整えられた道の上を、往来している。多くの商人が道脇で露店を開き、ガヤガヤと、賑やかな様子だ。
「たくさんの食べ物…………気になるけど。」
いまだにモクモクと上がっている、あの爆発があった場所が気になる。
「面倒ごとは御免被りたいが…………一応向かってみるか?」
「うん!」
「ですの!」
そうして、私たちは爆発のあった場所へと向かう。気になるのは、あれほどの爆発と、高く立ち昇る煙があったにも関わらず、人々が気にもかけていないことだ。
(一体、何があったんだろう。)
私たちが煙の立ち昇った場所へと向かうと、そこには、白衣を着た少女が、ボロボロになって、倒れていた。
「ケホッ、ケホッ……………。」
プスプスと音を立てた、身体で何とか起き上がり、彼女は言った。
「いやぁー!また失敗しましたね!!」
すると、通りすがりのおじさんが、心配するように、私達に声をかける。
「あんまり関わらない方がいいよ。巻き込まれたら、えらいことになる。」
すると、起き上がったその少女は、私たちの方を見るなり、目を見開いて、こちらにズンズンと歩み寄ってきた。
「う、うわあぁぁぁーー!!!!!」
お爺さんは、恐れ慄くように、一目散に逃げ出し、離れて行った。私達も、なんだか不安になり、やってきた彼女の方を、そろりと見る。彼女は、私たちの前で、爛々と目を輝かせていた。
「私は、アジル・ルードナ。」
彼女は、私達に言った。
「実験に…………付き合っていただけませんか?」
「急いでいるのだが。」
「時間は取らせませんからッ!!」
彼女は手際良く、準備を整えていく。黒焦げになった煤の中から、不思議な碧の光に覆われた、本を取り出し、ササッと地面を払い、魔法陣をペンで描き込んでいく。
「これをこうして、と……………。」
魔法陣を描き終わった彼女は、額に流れる汗を拭う。そして、一通り小さな魔法陣を描き終えた後、こう言った。
「それでは、魔物が出てきますので、あとはお願いします!!」
「はっ?」
「へ?」
「はい…………ですの!?」
ジジジ…………と魔法陣から光が漏れ出て、ズズ………とそれは不気味に姿を現した。
『フスゥ……………。』
ミレイユはそれを見て、驚いたように言う。
「ミノタウロス!?」
「牛の化け物ですの!!?」
「私がやるわ!!」
まこは変身して、瞬時に間合いを詰め、足を勢いよく、その魔物に向かって、蹴り上げた。
ドガッ!!
『ブモッ!?』
魔物は勢いよく打ち上がり、気づけば、キランと星となって消えていた。まこは、青褪める。
「や、やばい………やりすぎちゃったかも。」
「いや、まこ。大丈夫だ。」
気づけば、魔法陣が再び光り輝き、紋章が中心に、現れた。そして、『パッパラパー!』と奇怪な音が鳴り響き、戻ってきた彼女が、ピースをしながら、嬉しそうに言った。
「ゲームクリアです!!やったぁー!!!」
ガツンッ!!
ミレイユの拳が、その少女の頭に突き刺さった。そして、たんこぶを押さえた彼女は痛そうにしながら、言った。
「いったぁーい!何するんですか!?」
「これは昔から禁じられている、度胸試しの、馬鹿が発明した危険な遊びだ。報酬は、ランダム。あまりにも中毒性の高いこと、そしてたまに魔力の制御が外れて加減が効かなくなることから、怪我人が続出した。数週間で廃版となり、封じられたはずの、これを何故貴様が持っている!?」
「そ、それは……………。」
彼女は、テヘッと、悪戯気に舌を出しながら、言った。
「これは、私が作ったものだから。」
「なっ!?」
「……………ってことは、こんな危ないものを作った、張本人ってことですの!?」
「そういうこと!!」
彼女は、魔法陣に手を翳し、再びジジジッ、と魔力の光が漏れ出た。
「一気に行くわよ!禁階八門!!ロック鳥!!!」
キィィィーーーーッッ!!!!
地響きが鳴り、太陽の光を、暗い影が覆う。現れたのは、体長5メートル近い巨体。その獲物を狙う、鋭い眼は少女アジルを捕らえていた。
「あ、やばいかも。」
ヒュッ!!と豪風が吹き荒れる。あまりの勢いに顔を覆っていると、気づけば隣にいたアジルがいなくなっていた。
「あそこだ!!」
ミレイユが指をさすと、はるか上空で、アジルがジタバタと腕と足を振って、足掻いていた。ロック鳥に身体を脚で、ガッシリと掴まれているようだった。
「ふぎぎぎッ!!フヌーッ!!……………あっ、ダメだ。もう爆発しかないね。」
キュイーンッ…………と空に光が瞬いたかと思うと、彼女のいた場所が、けたたましい音を上げ始める。
「ちょっと、待ちなさいよ。」
「ん?」
彼女は詠唱をキャンセルする。後ろを振り返ると、なんとそこにはまこがいた。
「危ないからって、すぐに諦めんじゃないわよ。」
まこはロック鳥の脚に掴まり、その脚から無理やり、アジルを引き剥がした。そしてその巨大を蹴り上げる。
キィィィーーーーッ!!!!!
ロック鳥は咆哮を上げ、さらに空高くへと上昇した。そして、その姿は次第に、青い光の粒となって、空中へと消えていった。
「もう大丈夫。」
そして、まこはアジルを抱き抱える。そして、ヒュルルルと、音を立てるように高所からの勢いをつけて、落下していく。
「「まこ!!」」
2人は落下地点へとひた走る。そして、街の中に人だかりができているのを、見つけた。
ミレイユは、ドクンと心臓が高鳴った。
(いくらまこでも、あんな高所から落下してしまったら………………。)
「まこ…………ッ!!」
「報酬のアイテムがなかったら、あぶなかったね。」
アジルは悪戯な笑みを浮かべながら、木の枝を振るっていた。ほんの数センチ、まことアジルは浮かび、そのままゆっくりと地上へと降り立った。
「ふぅ…………も、もう、ダメかと思った。」
ガクガクとまこの足が震えている。実は、まこは高所恐怖症であった。苦手なものは、どれだけ力があっても、苦手なままなのだ。
「大丈夫か!!まこ!!!」
ミレイユは思わず、まこに抱きついた。
「あははっ、大丈夫だよ。ミレイユ。」
「あ〜な〜た〜ッ!!!」
チルノは怒髪天の表情を浮かべる。アベルは流石にまずいと思ったのか、後退り、ポトンと彼女の後ろに落ちた、謎の腕輪を手に取って言った。
「こ、これをあげるから許してくれ!!貴重なアイテムだ!!!」
「なんですの、これ?」
「それは、魔力の腕輪だよ。たった一度きりだけど、凄まじい魔力の力を与えてくれる。」
「……………どうしますの?」
「まこを危険な目に合わせた、お前は許せん。」
「わ、私は、大丈夫だけどね。」
すると、周囲に集まっていた人々が、ザッと、アベルの元へ寄ってきて、何か言いたげな表情をしている。
「そんなものがあるなら、これまでの被害総額、きっちり払ってもらうよ。」
「へっ?」
「爆風による、数十回にも及ぶ、被害。しめて、550万リラーだ。」
「ご、550万リラーッ!!?」
まこは不思議そうな顔をして尋ねる。
「それってどれくらい?」
ミレイユは答えた。
「一軒家が、軽く建つくらいの値段だな。」
「なかなかのもんですの。」
「そ、そっか。」
アベルは、フルフルと震え、そしてバッと身体を起こし、逃げ出した。
「あっ!!こら!待てーッ!!!」
人々がアベルを追いかける。そうして、辺りは閑散としてしまった。
「……………行くか。」
「行きますの。」
「うん。」
こうして、街を後にした3人は、露店から持ち帰った美味しいお土産を食べながら、その日を終えた。




