狼
パクパク、モグモグ……………
「美味しいですわ〜!!」
「本当に、美味しいね。」
「あぁ。」
3人は、心地よい風の吹く草原で、優雅に紅茶を片手に、パイを頬張っていた。
「もぐもぐ………ゴクンッ!ご馳走様ですの!!」
「少し物足りないかも………なんて。」ボソッ
「ん?まこ、何か言ったか?」
「いいや!何にも!大丈夫!!」
楽しいひと時を過ごしていた、その時だった。背後からグルルルル…………と獣の唸り声が聞こえた。
「むっ、狼か。しっしっ。あっちへ行け。」
ミレイユは追い払うように、手をサッサッと、振る。しかし、狼はまったく動じず、寧ろ口から涎を垂らし、今にも襲い掛からんとする勢いで、ジリジリと距離を詰めてくる。
「ハァ…………仕方がないな。まこ、チルノ。下がっていろ。」
ミレイユは、片手を前に出し、構えを取る。私たちは、飢えた狼に寒気を覚えながら、コクリと頷いて、後ろへと下がった。
『グルォアッ!!!』
狼たちはミレイユに一斉に襲いかかる。
「ほら。」
ミレイユは一番に飛びかかってきた、狼の前脚を優しく掠め取り、ゆっくりと転倒させる。次に右から襲いかかってきた、狼の口を手で掴み、その目を強く睨んだ。
「…………………ッッ!!」
狼は酷く怯え、地面に伏せる。それから後ろに控えてきたもう二匹が、同時に勢い良く飛びかかってくるが、ミレイユは軽くしゃがみ、その身体をガッシリと両肩に乗せるように、首周りに腕を回して掴む。そして、2匹の耳元で呟いた。
「命は大切にすることだ。次はないぞ。」
すると、ゾワッとニ匹の身体からは冷や汗が吹き出し、慌てて肩から跳び降りて、他と狼とともに逃げ出していった。
「よし!!終わったぞ。」
ミレイユは手をパンパンッと払い、まことチルノのいる後ろへと振り返る。まことチルノは、驚いた声をあげた。
「す、すごいですの。」
「か、かっこいいね、ミレイユ。」
すると、ミレイユは頬を染めて、少し恥ずかしがるように、顔を逸らした。
「ま、まぁ、たいしたことはないがな。」
そうして、一難を逃れた3人は、馬車に乗ってガタガタした道を、暫く進んだ後、今度は馬車を降り、河原で晩御飯を食べることになった。
「荒れた道でそれほど進まなかったな。」
「仕方ないよ。ゴツゴツした大きな石が沢山あって、まともに前に進めなかったんだから。」
「その上ぬかるんでいましたの。お馬さんの苦労がうかがい知れますわ。」
すると、ジャリ、ジャリッと音を立てながら、背後から何者かが近づく音がした。
「何者…………!?」
『クゥン……………。』
見ると、昼間に追い払った狼たちがいた。彼らは、やはりお腹を空かせているようで、寄り縋るような眼差しでこちらを見つめていた。
「……………本当はダメなんだがな。」
「このままだと、この子達お腹を空かせて、倒れてしまいますの。」
「そうだね。」
3人で思案した結果、一度追い払って、元いた場所に食料を置いておき、後から自分たちで取りに来させることにした。これが正しいかどうかは、分からないけれど、直接物をあげるよりは、まだマシだろう。そう、私たちは結論づけた。
ガタンガタンと、馬車に揺られながら、私たちは暗くなった道を進んでいく。
「無事ならいいですのにね。」
私たちは、暗がりのなか少し、心配気な気持ちで、話しをしていた。ミレイユは、言う。
「そうだな。しかし、本来の自然の掟からすれば、してはならないことだろう。彼らが救かることでまた、失われる命もある。これは私たちの我儘だ。」
私は頷く。
「えぇ、そうね。でも、彼等が私たちと出会ったことも、偶然とはいえ、何か縁に近いものがあったのかもしれないわ。元気でいてくれることを、祈りましょう。」
「あぁ。」
「えぇ。」
その後は、しばらく3人で今日あったことを思い出しながら、談笑し合い、ゆっくりと眠りについた。
「この2人に出会えて、よかったよ。」
ミレイユは、優しく微笑んだ。これまで人を信じることのできていなかった心が、段々と溶かされていくような感じがした。胸の奥が、暖かみを帯びる。
「ありがとう。」
彼女は満点の星空を見上げた。




