夜食
ザッ、ザッ…………
茂みの中を、少女が歩く。
「これ、食べてみたかったんですの。」
それは、パイ。中にベリーのジャムの入った、サクサク食感がこだわりの、東オーベルト産の土産物だった。昼間に、馬車の中の、食糧を漁っていると、たったひとつだけ、それが紛れ込んでいるのが見えた。
「バレたら、やばいんですの。」
出発してから、はや数日。元々同行する予定のなかった、自分にも食糧を分けてもらえているなかで、こっそりとおやつを食べていることなんて、知れたら、どうどやされるかわからない。
『お前は、いい加減!!王女としての自覚を持て!!!』
仲間のミレイユの叱咤する声が頭に浮かび上がる。しかし、これだけは…………これだけは、譲れないのだ。
(長年待ち望んで食べられなかった、私の大好物。)
パカッ
チルノは箱を開ける。
そこには燦然と輝く、宝石のようなパイが、入っていた。
(わぁ…………っ!!)
「おい、大丈夫か?」
「びゃあぁーーーッ!!!!」
背後からの突然の声に、チルノは跳び上がる。その様子に、ミレイユは訝しんだ。
「なんだ、そんなに驚いて。」
「い、いや、なんでもないんですの。」
「……………………。」
ミレイユは目を細める。みると、チルノが背後に何かを隠しているようだった。
「何を隠している?」
「な、何も……………。」
「怪しいな。」
ミレイユはぐるっと回り込んで、チルノの背後に隠しているものを確認しようとする。しかし、それと同時にチルノもぐるぐると回り、いつまで経っても、その正体はミレイユには分からなかった。
「………………っ。」
眉間に青筋を浮かべた、ミレイユはさらに早く回り込もうとする。しかし、チルノはそれに負けじと、さらにグルグルと回る。
「な、何してるの?」
まこが、心配になって見にくると、ゼェゼェと息をする、2人の姿があった。
「わ、私は三半規管が弱いんだ。いい加減、隠しているものを見せろ。」
「い、いやですの。」
「あれ……………?」
まこがひょいと覗くと、チルノの後ろに隠しているものの正体が見えた。
「それ、今ミレイユと一緒に食べようとしてた、パイじゃない?」
「へっ…………?」
チルノは気の抜けたような声を、出す。
「むっ。」
ミレイユも覗き込んで見ると、確かにまこと荷台の奥を漁り、取り出した、オーベルト産の有名なパイだった。
「なんだ、そんなものを隠していたのか?」
「うぅ……………。」
「ほら、チルノも!こっちにきて一緒に食べましょう!」
まこは手招きして、チルノを誘う。草原の上に、花の柄の描かれたシートが敷かれ、紅茶のカップを用意されていた。御者…………馬車の操手が、元執事のお爺さんで、手際よく、パチンと指を鳴らし、その魔法で出した火で、お湯を沸かして、紅茶を入れてくれた。
私たちはそれを飲んで、ひと息をつく。
「美味しいですの!」
「あぁ。」
「美味しいね!!」
チルノは、反省する。
(最初から、分けようと思っていれば、もっともっと美味しく食べられたんですの。)
チルノは、しょんぼりとしているが、その様子を見かねてか、ミレイユは言った。
「コホンッ、チルノ。そう気に病むことはないぞ。」
ミレイユは言った。
「実はパイは、もともと6つ入っていてな。先日、お前が寝ている間に、2つをまこが食べて、もうひとつを私が食べたんだ。その、何だ。それほど好きなものとは知らず…………すまなかったな。」
その言葉に、チルノはポカンと口を開ける。それから段々と言葉を咀嚼して、理解し、我慢しきれずに彼女は、叫んだ。
「ずるいんですのーーーッ!!!!!」
声が広々とした草原と、その奥にある森の中へと響き渡る。その森の奥からは、キラリと光る幾つかの目が、まこたちを見つめていた。




