未来のたこ焼きを食べてみた
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
商店街のたこ焼き屋「八粒堂」。
ここには、妙な噂がある。
千個に一粒、未来のたこ焼きがある。
それを食べた者は、
ほんの一瞬だけ未来を見る。
事故を避けたり、
偶然を引き寄せたり、
人生の小さな分岐を知ることができる——
そんな噂だ。
最初は常連の冗談だった。
しかし噂というものは、
尾びれをつけて泳ぎだす。
町へ。
県へ。
そして——
地域中へ。
ある日、商店街に見慣れないカメラが現れた。
三脚。
ライト。
そして派手な声。
「はいどうもー!」
常連が振り向く。
若い男だった。
派手な服。
元気な声。
今、ネットで話題のYouTuberだった。
カメラに向かって言う。
「今日はですね!」
指さす。
「未来が見えるたこ焼きを食べてみたいと思います!」
常連が小さくつぶやく。
「来たか……」
店主は新聞をめくるだけだった。
YouTuberは続ける。
「なんとこの店!」
機械を映す。
ゆっくり回る鉄板。
「千個に一個!」
「未来のたこ焼きがあるらしいです!」
スタッフが聞く。
「何個買います?」
YouTuberは笑った。
「全部!」
常連が吹き出した。
「無理だよ」
しかし本当に買った。
一箱。
二箱。
三箱。
撮影は続く。
「今から食べます!」
「未来見えるかな!?」
ぽと。
たこ焼きが落ちる。
YouTuberは食べる。
「普通!」
また食べる。
「これも普通!」
また食べる。
「まだ普通!」
店の前には、たこ焼きの箱が積み上がっていく。
四十個。
八十個。
百二十個。
それでも——
未来のたこ焼きは出ない。
常連が言う。
「だから言ったろ」
店主は静かに言う。
「千個ってのは」
トングを回す。
「ただの噂です」
YouTuberは笑う。
「じゃあ二千個までいきます!」
常連が首を振る。
だが機械は変わらない。
ぽと。
五分に一粒。
ゆっくり。
気まぐれに。
夜になり、撮影は終わった。
結果は——
未来のたこ焼きゼロ。
YouTuberはカメラに向かって言った。
「噂でした!」
笑顔で締めた。
「でも美味しかった!」
動画は公開された。
再生数は伸びた。
コメントも増えた。
常連たちは数日その話をした。
だがすぐ忘れた。
この店ではよくあることだからだ。
それから——
数ヶ月後。
店主は新聞を読んでいた。
小さな記事。
YouTuberの名前。
見出し。
「過剰撮影トラブルで逮捕」
無許可撮影。
迷惑行為。
いくつもの問題があったらしい。
店主は新聞を畳んだ。
常連が聞いた。
「どうした?」
店主は言った。
「例のYouTuber」
記事を見せる。
常連が言う。
「へえ……」
店主は機械を見た。
ゆっくり回る鉄板。
そして——
ぽと。
たこ焼きが落ちる。
店主は静かに言った。
「もしかしたら…」
常連が聞く。
「何が?」
店主は少し笑う。
「あの人、未来のたこ焼き食べてたのかも」
常連が首をかしげる。
「でも未来見てないじゃん」
店主は言った。
「いや」
トングを動かす。
「見たんですよ」
そして続ける。
「未来がない未来を」
常連は少し黙った。
店主は、小さく笑った。
「だから、出なかった」
店の外では今日も人が通る。
商店街は賑やかだ。
そしてこの店では——
ぽと。
また一粒。
時間が焼き上がる。




