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たこ焼き 八粒堂  作者: さんご


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8/13

未来のたこ焼きを食べてみた

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

商店街のたこ焼き屋「八粒堂」。


ここには、妙な噂がある。


千個に一粒、未来のたこ焼きがある。


それを食べた者は、

ほんの一瞬だけ未来を見る。


事故を避けたり、

偶然を引き寄せたり、

人生の小さな分岐を知ることができる——


そんな噂だ。


最初は常連の冗談だった。


しかし噂というものは、

尾びれをつけて泳ぎだす。


町へ。


県へ。


そして——


地域中へ。


ある日、商店街に見慣れないカメラが現れた。


三脚。


ライト。


そして派手な声。


「はいどうもー!」


常連が振り向く。


若い男だった。


派手な服。

元気な声。


今、ネットで話題のYouTuberだった。


カメラに向かって言う。


「今日はですね!」


指さす。


「未来が見えるたこ焼きを食べてみたいと思います!」


常連が小さくつぶやく。


「来たか……」


店主は新聞をめくるだけだった。


YouTuberは続ける。


「なんとこの店!」


機械を映す。


ゆっくり回る鉄板。


「千個に一個!」


「未来のたこ焼きがあるらしいです!」


スタッフが聞く。


「何個買います?」


YouTuberは笑った。


「全部!」


常連が吹き出した。


「無理だよ」


しかし本当に買った。


一箱。


二箱。


三箱。


撮影は続く。


「今から食べます!」


「未来見えるかな!?」


ぽと。


たこ焼きが落ちる。


YouTuberは食べる。


「普通!」


また食べる。


「これも普通!」


また食べる。


「まだ普通!」


店の前には、たこ焼きの箱が積み上がっていく。


四十個。


八十個。


百二十個。


それでも——


未来のたこ焼きは出ない。


常連が言う。


「だから言ったろ」


店主は静かに言う。


「千個ってのは」


トングを回す。


「ただの噂です」


YouTuberは笑う。


「じゃあ二千個までいきます!」


常連が首を振る。


だが機械は変わらない。


ぽと。


五分に一粒。


ゆっくり。


気まぐれに。


夜になり、撮影は終わった。


結果は——


未来のたこ焼きゼロ。


YouTuberはカメラに向かって言った。


「噂でした!」


笑顔で締めた。


「でも美味しかった!」


動画は公開された。


再生数は伸びた。


コメントも増えた。


常連たちは数日その話をした。


だがすぐ忘れた。


この店ではよくあることだからだ。


それから——


数ヶ月後。


店主は新聞を読んでいた。


小さな記事。


YouTuberの名前。


見出し。


「過剰撮影トラブルで逮捕」


無許可撮影。


迷惑行為。


いくつもの問題があったらしい。


店主は新聞を畳んだ。


常連が聞いた。


「どうした?」


店主は言った。


「例のYouTuber」


記事を見せる。


常連が言う。


「へえ……」


店主は機械を見た。


ゆっくり回る鉄板。


そして——


ぽと。


たこ焼きが落ちる。


店主は静かに言った。


「もしかしたら…」


常連が聞く。


「何が?」


店主は少し笑う。


「あの人、未来のたこ焼き食べてたのかも」


常連が首をかしげる。


「でも未来見てないじゃん」


店主は言った。


「いや」


トングを動かす。


「見たんですよ」


そして続ける。


「未来がない未来を」


常連は少し黙った。


店主は、小さく笑った。


「だから、出なかった」


店の外では今日も人が通る。


商店街は賑やかだ。


そしてこの店では——


ぽと。


また一粒。


時間が焼き上がる。

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