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たこ焼き 八粒堂  作者: さんご


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7/7

たい焼き屋になった少年

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

数年後の話


商店街のたこ焼き屋「八粒堂」。


今日も機械は、静かに回っている。


ぽと。


五分に一粒。


店主はいつものように新聞を読んでいた。


その時だった。


店の前に、一台の小さな屋台が止まった。


木の看板。


鉄板。


そして——


たい焼きの型。


常連の一人が言う。


「おや?」


屋台の主は若い男だった。


白い作務衣。

落ち着いた目。


だが店主は、その顔を見て少しだけ首をかしげた。


どこかで見たような気がする。


男は屋台の火をつけながら、こちらを見た。


そして軽く頭を下げた。


「お久しぶりです」


店主は言った。


「……どこかで?」


男は笑った。


「開店の日に、たこ焼きを買った中学生です」


店主は新聞を閉じた。


そして思い出した。


参考書を広げた少年。


ぽと。


たこ焼きが落ちる。


あの日の光景。


店主は言った。


「ああ……」


少し笑う。


「勉強してた子か」


男はうなずいた。


「はい」


常連が聞いた。


「で、今は何してるの?」


男は少し空を見た。


そして答えた。


「たい焼き屋です」


店の中が静かになった。


常連が笑った。


「え?」


別の客が言う。


「もっとすごい仕事かと思った」


男は穏やかに言った。


「一応」


少し照れながら。


「難関高校に入りました」


「それから大学も」


「いい会社にも入りました」


常連がうなずく。


「やっぱり」


男は続けた。


「でも、ある日気づいたんです」


たい焼きの生地を流しながら。


「全部」


鉄板を閉じる。


「親の言う通りだった」


常連が黙る。


男は静かに言った。


「高校も」


「大学も」


「会社も」


少し笑う。


「悪くはなかったんです」


「でも」


たい焼きをひっくり返す。


香ばしい匂いが広がる。


「自分がなかった」


店主は何も言わない。


男は続ける。


「その時、思い出したんです」


視線は、たこ焼き機へ。


ゆっくり回る鉄板。


そして——


ぽと。


落ちるたこ焼き。


男は言った。


「この店」


「時間がゆっくりで」


「初めて」


少し笑う。


「自分で時間を使った気がした」


店主はトングを回した。


「それで、たい焼き屋?」


男はうなずいた。


「はい」


店主は

「そうか」とだけ言ったが、少しだけ嬉しそうだった


たい焼きを袋に入れる。


「たこ焼きはあなたがいる」


「だから」


袋を差し出す。


「私はたい焼き」


常連が聞く。


「なんで、たい焼きなんだ?」


男は少し考えた。


そして言った。


「丸は、終わってる形だから」


常連が首をかしげる。


男は笑う。


「たこ焼きは丸い」


「完成してる形です」


そしてたい焼きを持ち上げる。


「でもたい焼きは」


魚の形。


尾びれ。


口。


「ちょっと自由なんです」


その時——


ぽと。


たこ焼きが落ちる。


そして


カタン。


たい焼きが焼き上がる。


焼き上がった二つから、湯気が上がる。


常連が言った。


「面白いな」


店主も笑った。


「商店街に」


たこ焼き屋と、たい焼き屋。


男は静かに言った。


「ここで焼くのは」


たい焼きを見つめる。


「時間じゃないです」


常連が聞く。


「じゃあ何?」


男は答えた。


「人生です」


店主は笑った。


「大げさだな」


男も笑った。


「かもしれません」


商店街に夜が降りる。


そして今日も——


ぽと。


たこ焼きが落ちる。


その隣で。


カタン。


たい焼きが焼き上がる。

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