子どもが来ない店
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
商店街のたこ焼き屋「八粒堂」。
今日も機械は、ゆっくり回っている。
ぽと。
五分に一粒。
この店では、時間が丸く焼き上がる。
常連たちはそれを静かに待つ。
だが——
ある日、常連の一人がふと気づいた。
「そういえばさ」
湯気を見ながら言う。
「この店……」
少し首をかしげる。
「子ども来ないよな」
確かにそうだった。
たこ焼き屋といえば、普通は子どもが来る。
小銭を握りしめて、
「ソース多め!」
などと言う。
だがこの店では、見たことがない。
来るのは
・仕事帰りの大人
・常連の老人
・疲れた会社員
そんな人ばかりだ。
店主は新聞をめくりながら言った。
「来ないですね。でも、気づいてはいるみたいです」
それだけだった。
常連は少し考えた。
「でも変だよな」
「ここ、商店街の真ん中だぜ?」
その時だった。
ぽと。
たこ焼きが落ちる。
それを見ながら、常連の老人がぽつりと言った。
「理由、知ってるよ」
みんなが顔を上げた。
老人はゆっくり言う。
「子どもはね」
機械を見る。
回る鉄板。
膨らむ生地。
そして落ちる丸い球。
「まだ間に合っているんだよ」
店内が静かになる。
老人は続ける。
「大人はな」
「時間を持ってるのに、使えなくなるんだよ」
「使う前に、意味を考えるからな」
「この店はさ」
箱からたこ焼きを一つ取り、口に運ぶ。
年甲斐もなくかっこつけて、竹串でたこ焼きをくるりと回しながら
「時間を形にする機械がある」
常連がうなずく。
「だから大人が来る」
店主が小さく笑う。
「なるほど」
老人は言った。
「子どもは違う」
「外で遊んでる一時間も」
「友達と話す三十分も」
「全部、ちゃんと自分の時間だ」
そしてたこ焼きを食べる。
「だからこの店の時間は」
少し湯気を見つめる。
「まだ必要ないんだよ」
その時、店の前を小学生が走っていった。
笑いながら。
風みたいな速さで。
そして店の前で一瞬だけ立ち止まった。
機械を見る。
ぽと。
たこ焼きが落ちる。
子どもは少し笑った。
「おもしろ」
でも店には入らない。
すぐにまた走っていった。
常連が言う。
「ほらな」
店主は新聞を閉じた。
「まあ、そのうち来ますよ」
「いつです?」
店主は少し考えた。
そして言った。
「時間が足りなくなった頃に」
店の中では今日も——
ぽと。
丸い時間が焼き上がる。
外では子どもたちが走り回っている。
そしてこの店は、静かに待っている。
いつかその子たちが、
その日を、機械だけが知っている。




