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たこ焼き 八粒堂  作者: さんご


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12/13

たこ焼きが一粒も落ちてこなかった日

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

その日は、朝から妙だった。


商店街はいつものようにシャッターが上がり、八百屋の呼び声が響き、魚屋の氷がカランと鳴る。

そして、例の店の前にも、いつものように人が並び始めていた。


あの――

五分に一つ、たこ焼きが落ちてくる店である。


カコン。


普通なら、開店から五分で一粒落ちる。

それが、この店の「時間のリズム」だった。


しかし。


五分経っても、

十分快ても、

十五分経っても――


落ちない。


機械は静かに回っている。

店長もいつものように椅子に座っている。


ただ、

たこ焼きだけが落ちてこない。


最初に口を開いたのは常連の三宅だった。


「……今日は、機嫌悪いのかね」


隣の今井が腕時計を見る。


「いや、壊れてるんじゃないか?」


北川はのんびりと笑う。


「この店に“壊れる”なんて概念あるのか?」


たしかにそうだ。

この店は、時間がおかしい店なのだ。


三十分。


一時間。


二時間。


それでも、

一粒も落ちない。


客は不思議と帰らない。

なぜか誰も怒らない。


むしろ、店の前には妙な空気が漂い始めていた。


誰かが本を読み、

誰かが昼寝し、

誰かが仕事の資料を広げている。


気づけば、店の前は――


小さな公園のような空間になっていた。


三時間目。


ついに誰かが店長に聞いた。


「店長、今日は作らないの?」


店長は湯のみを置き、機械を見上げた。


そして、のんびり答えた。


「今日はなぁ」


少し笑って言った。


「時間が足りてないらしい。」


「?」


誰も意味がわからない。


そのとき。


カコン。


音が鳴った。


皆が振り向く。


しかし落ちてきたのは――


たこ焼きではなかった。


ぽと。


落ちてきたのは、

小さな紙だった。


店長が拾う。


そこにはこう書いてあった。


『今日はみんな、急いでないから焼く必要がない』


客たちは顔を見合わせた。


確かにそうだった。


今日は誰も急いでいない。

誰もイライラしていない。

誰も「早くしろ」と言っていない。


この店の機械は、

時間を食べる機械だと言われている。


つまり今日は――


食べる時間がなかったのだ。


店長は紙をポケットに入れる。


そして、客に言った。


「今日はたこ焼き休みだな」


誰も文句を言わなかった。


むしろ三宅が笑った。


「たまにはいいな」


今井が伸びをする。


「今日は時間が得した気分だ」


北川は言った。


「この店、たこ焼き屋じゃないな」


その日、

たこ焼きは一粒も焼かれなかった。


だが。


不思議なことに、

誰も損をした気分にはならなかった。


むしろ、皆こう思った。


「今日はいい一日だった」


と。


そして夜。


店長が店を閉めると、

機械が小さくつぶやいた。


カコン。


ぽと。


落ちてきたのは――


一粒のたこ焼き。


店長はそれを食べて言った。


「うん」


「今日はうまいな」


理由は誰にもわからない。

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