番外編 この機械を作った男の話
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。
なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
商店街の古い人たちは、ときどきこんなことを言う。
「あの店、昔からあるわけじゃないんだよ」
「え?」
初めて聞く人は必ず驚く。
あの店は、
まるで最初からそこにあったような顔をしている。
しかし実際には――
ある日、突然できた店だった。
それは十年前の、雨の夜だった。
商店街の街灯がポツポツと灯る頃、
一台の軽トラックがゆっくりと入ってきた。
運転していたのは、
三十代くらいの男。
黒いコートを着て、
妙に落ち着いた目をしていた。
彼は商店街の空き店舗の前で車を止めると、
荷台から大きな機械を下ろし始めた。
それが――
あの自動たこ焼き機だった。
隣の八百屋の主人が声をかけた。
「兄ちゃん、何やってんの?」
男は少し笑った。
「店を開こうと思いまして」
「たこ焼き屋?」
「ええ」
八百屋は機械を見て首をかしげた。
「変な機械だな」
男は静かに言った。
「これは時間を焼く機械です。」
八百屋は笑った。
「はは、面白い冗談だ」
だが男は笑っていなかった。
その夜、男は一晩で店を作った。
看板を付け、
電源をつなぎ、
機械を設置する。
すべて終わると、男は機械を軽く叩いた。
すると――
カコン。
一粒のたこ焼きが落ちた。
まだ生地も入れていないのに。
男はそれを見て、満足そうにうなずいた。
翌朝。
商店街の人が店を見に来たとき、
そこにはすでに店長がいた。
今の店長だ。
しかし奇妙なことがある。
誰も店長が来た瞬間を見ていない。
気づいたら、
そこにいたのだ。
そしてもう一つ。
機械を運んできた男は、その日から一度も見られていない。
数年後。
店長に、ある常連が聞いた。
「この機械、誰が作ったの?」
店長は答えた。
「さぁ」
「俺が来たときには、もうあった」
「?」
常連は首をかしげた。
「店長が作ったんじゃないの?」
店長は笑った。
「俺、機械とか苦手でね」
だが。
ある日、店の裏を掃除していた三宅が
古い箱を見つけた。
中には設計図が入っていた。
見たこともない文字。
しかしタイトルだけは読めた。
『時間調理装置 試作型 2054』
三宅は言った。
「2054?」
「未来の年じゃないか」
さらに紙の端には、小さく書いてあった。
『過去に設置することで時間収集を行う』
『目的:未来の時間不足対策』
つまり。
この機械は――
未来の人間が作ったものだった。
その夜。
店長は一人で機械の前に座っていた。
カコン。
たこ焼きが落ちる。
店長はそれを見て、ぽつりと言った。
「今日も時間、集まってるな」
誰もいないのに、
機械が小さく鳴った。
カコン。
もし未来が本当にあるのなら。
この店で消えた時間は、
どこかの未来で――
誰かの人生を少しだけ長くしているのかもしれない。




