未来のたこ焼きと人生のたい焼きを同時に食べた男
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
商店街には二つの不思議な店がある。
一つは、
五分に一粒落ちてくるたこ焼き屋。
もう一つは、
人生を焼くたい焼き屋。
その二つの店の距離は、
歩いて三十歩。
商店街では有名な話だった。
「片方だけでも不思議なのに」
常連が言う。
「二つ並んでるのが一番おかしい」
そんなある日。
一人の男がやってきた。
スーツ姿。
少し疲れた顔。
しかし目は妙に真剣だ。
男はまずたこ焼き屋に入った。
「一パックください」
店主はうなずく。
「はいよ」
機械が回る。
ぽと。
五分。
男は腕時計を見ながら待っている。
そして四十分後。
たこ焼きが完成した。
男は一つ口に入れる。
その瞬間だった。
景色が変わる。
未来のたこ焼きだった。
男の目の前に映像が流れる。
自分が歩いている。
商店街。
そして——
たい焼き屋に入る自分。
男は驚いた。
「なるほど」
つぶやく。
「未来を見た」
つまりこういうことだ。
このあと自分は、
たい焼きを買う未来がある。
男は少し得意げになる。
「未来予知か」
残りのたこ焼きを見つめる。
「よし」
男は立ち上がった。
そして未来通り、
たい焼き屋に入る。
屋台の店主が笑う。
「いらっしゃい」
男は言う。
「たい焼き一つ」
店主は聞いた。
「どんな人生にします?」
男は少し考える。
そして言う。
「成功する人生」
店主はうなずいた。
「いいですね」
鉄板に生地を流す。
あんこを入れる。
そして焼く。
香ばしい匂い。
数分後、
たい焼きが完成した。
男は一口かじる。
その瞬間——
また景色が変わる。
男は未来を見た。
そこには自分がいる。
商店街。
たこ焼き屋。
そして——
たこ焼きを食べている。
男は固まった。
「……あれ?」
もう一口たい焼きを食べる。
また未来が見える。
やっぱり同じ。
たこ焼きを食べている。
男は混乱する。
「え?」
たい焼きを見る。
「成功する人生じゃないのか?」
もう一口。
未来。
やっぱり同じ。
たこ焼き。
また。
たこ焼き。
また。
たこ焼き。
男は叫んだ。
「たこ焼きしか出てこない!」
たい焼き屋の店主が笑った。
「そりゃそうです」
男は言う。
「なんで?」
店主は指をさす。
商店街の向こう。
たこ焼き屋。
「さっき未来見たでしょう」
男はうなずく。
「ああ」
店主は言った。
「その未来を信じて」
「あなたはここに来た」
男はハッとする。
店主は続ける。
「そして今」
たい焼きを指す。
「このたい焼きで見た未来を信じて」
たこ焼き屋を見る。
「また戻る」
男は黙る。
店主は少し笑う。
「つまり」
鉄板を閉じる。
「あなたの未来は」
少し間を置く。
「自分で未来を見て、自分でその通り動く人生です」
男はしばらく考えた。
そして言った。
「それって……」
たい焼きを見つめる。
「成功なのか?」
店主は肩をすくめた。
「少なくとも」
たこ焼き屋を見る。
「商店街は繁盛しますね」
男は笑ってしまった。
そして結局、
またたこ焼き屋に戻った。
常連が言う。
「また来た」
男は座る。
「未来なんで」
機械が回る。
ぽと。
常連がつぶやく。
「この店」
「未来が見える人ほど」
少し笑う。
「同じ未来をぐるぐる回るよな」
店主は言う。
「たこ焼きみたいにですね」
商店街には今日も、
少しおかしな未来が焼けている。
この話のテーマは少し哲学です。
未来予知には
一つの落とし穴があります。
それは
未来を見たことで
その未来を実行してしまうこと。
つまり
未来を見る
それを信じる
その通り行動する
未来が当たる
という無限ループ。
たこ焼きが丸く回るように、
人生も時々ぐるぐる回る。
でも不思議なことに、
それでも人は
また次の未来を見たくなる。
まるで、
もう一個たこ焼きを食べるみたいに。




