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たこ焼き 八粒堂  作者: さんご


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10/13

九個目のたこ焼き

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

商店街のたこ焼き屋「八粒堂」。


この店のルールは、とても単純だ。


たこ焼きは八個で一パック。


五分に一粒。


四十分で一箱。


常連なら誰でも知っている。


今日も機械はゆっくり回っている。


ぽと。


五分。


ぽと。


十分。


店主は少し元気がなかった。


風邪というほどではないが、

体が重い。


新聞も今日は読まず、

ただ椅子に座っている。


その時、年配の女性が店に来た。


常連ではない。


しかしどこか懐かしい雰囲気の人だった。


「たこ焼き一つください」


店主は小さくうなずいた。


「はいよ」


機械はいつものように回る。


ぽと。


一粒。


ぽと。


二粒。


女性は静かにベンチに座って待っていた。


スマホも見ない。


ただ商店街を眺めている。


三十分ほどたった頃。


女性がぽつりと言った。


「昔ね」


店主は聞いているのかいないのか、

静かにしている。


女性は続けた。


「主人がたこ焼き好きで」


少し笑う。


「よく買って帰ったんです」


ぽと。


七粒目。


女性は言う。


「二人で半分ずつ」


少し遠い目をする。


「四つずつ食べるんです」


そして四十分。


ぽと。


八粒目。


店主が動く。


トングで集め、

いつものパックに入れる。


その時だった。


ぽと。


もう一粒落ちた。


常連なら首をかしげる光景だ。


たこ焼きは八個のはずだ。


だが今日は——


九個あった。


店主は少しぼんやりしていた。


何も不思議に思わず、


九個をそのまま入れようとした。


しかしパックは八個用。


どうやっても収まらない。


少し押してみる。


すると不思議なことに、


九個全部がきれいに入った。


店主は気にしない。


「お待たせ」


女性に渡す。


女性はパックを開けた。


そして少し驚く。


「……あら」


九個ある。


女性は店主を見る。


「これ」


店主は首をかしげる。


「?」


女性は少し考えた。


そして小さく笑った。


「いいの?」


店主は言った。


「今日はサービスです」


自分でもなぜ言ったのかわからない。


女性は静かにうなずいた。


ベンチに座る。


そして一つ食べる。


「おいしい」


二つ。


三つ。


四つ。


そこで手が止まる。


パックの中には、あと五つ。


女性は空を見た。


夕方の色。


少し冷たい風。


そして言った。


「ねえ」


誰にともなく。


「今日は」


たこ焼きを一つ持つ。


「あなたの分もあるよ」


女性は五つ目を食べた。


六つ。


七つ。


八つ。


そして最後の一つ。


少しだけ時間をかけて食べた。


女性は立ち上がる。


空のパックを返す。


「ごちそうさまでした」


店主はうなずいた。


女性は帰っていく。


商店街の向こうへ。


その背中を見ながら、

常連がぽつりと言った。


「なあ」


店主を見る。


「今、九個入ってなかったか?」


店主は首をかしげる。


「そうでしたっけ」


機械は静かに回る。


ぽと。


また一粒。


常連は小さく言った。


「たこ焼きは八個だろ」


店主はゆっくり答えた。


「そうですね」


そして少しだけ笑った。


「でも今日は」


機械を見る。


「もう一人来てたのかもしれませんね」


夜の商店街に風が吹く。


どこかで誰かが笑ったような気がした。


そしてこの店では今日も——


ぽと。


丸い時間が焼き上がる。

この話は少しだけ切ない話です。


八個のたこ焼き。


それは

二人で分ける数。


しかし今日は九個。


つまり、


もう一人分が残った。


それは


思い出の人


亡くなった誰か


心の中にいる人


かもしれません。


そして不思議なことに、


この店では

そんな人の分も、時々焼けてしまう。


たぶんこの機械は、


未来だけではなく

人の想いも見ているのかもしれません。

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