第642話「極寒の氷結晶!凍てつく肺と蒼き怪病」
第一の地脈の鍵『地の鍵』を獲得したものの、鍵が抜けたことで地底深層から湧き出した「湿熱の毒気」に見舞われた往診チーム! 枢の素早い鍼治療によって胃腸の不調を脱した一行は、毒気の渦を抜け、第二の鍵が眠る未知のエリア「白銀の氷結晶回廊」へと辿り着きます。しかし、そこは息を吸うだけで肺が凍りつくほどの極限の極寒世界。そして寒さに震える一行の前に、氷の中から現れたのは……不気味な青い光を放つ未知の奇病に侵された「氷原の守護獣たち」でした。極寒の地での新たな往診劇が始まります!
ヒュゥゥゥゥゥ……ッ! ザザザザザ……ッ!
湿熱の毒気が充満する鍾乳洞を脱出した往診チームを迎え入れたのは、耳を刺すような吹雪の音と、肌を削ぎ落とすような凄まじい極寒の冷気であった。
通路を抜けた先に広がっていたのは、見渡す限り一面が透明な青氷と白銀の結晶で覆われた、途方もなく壮大な地下大空間「白銀の氷結晶回廊」である。
天井からは鋭利な氷柱が無数に垂れ下がり、足元は滑りやすい鏡面のような氷層がどこまでも続いていた。
「く……ッ! ひ、冷たい……! さっきまでの湿熱の蒸し風呂から一転して、今度は冷凍庫の中じゃない……ッ!」
ネネが身体を丸め、両腕を激しく擦り合わせながら歯をガチガチと鳴らす。
「ハッ、ハッ……! 息を吸うだけで、鼻の穴と喉の奥が凍りつきそうだぜ……っ! なんだってこんな極端なんだよッ!」
ガストンが戦斧を持ち替えようとするが、持ち手が凍りついて手に張り付きそうになり、顔を歪める。
「……油断するな。ここはただの寒さではない。気の巡りそのものを凍てつかせる『寒邪』が満ちている」
哭がコートの首元を締め直し、鋭い眼差しで白銀の闇を見つめた。
「みなさん、深く息を吸い込まないでください!」
枢がすばやく往診鞄から特製の「温肺防寒散」を取り出し、全員の首元と胸元に塗布した。
「東洋医学において、過剰な冷気が口や鼻から侵入すると、五臓の中で最も外気と直接接する『肺』が真っ先にダメージを受けます。これを『寒邪襲肺』と呼び、放置すれば肺の気が凝固して激しい咳や呼吸困難、さらには全身の血流が停止する『寒凝血瘀』を引き起こします!」
「ふぅ……っ! 枢先生のお薬のおかげで、胸の奥がじんわり温かくなってきたわ……!」
ネネが吐く白い息とともに、安堵の表情を見せる。
「よしっ、これでなんとか動けそうだな! 古文書によると、このエリアのどこかに第二の鍵『水の鍵(氷の鍵)』が祀られているはずだろ?」
ガストンが周囲を見回す。
「はい。『水の鍵』はこの極寒の地脈を司る源流にあるはずです。ですが……」
枢が羅針盤の針を見つめ、眉をひそめた。
「この空間の気の乱れは、寒さだけではありません。冷気の奥から、異様な『病の気』が漂ってきます……!」
その時であった。
グルルルル……ッ! ガァァァァンッ!
滑らかな氷床の奥から、氷の結晶を撒き散らしながら複数の影が躍り出てきた!
それは、白銀の毛皮を持つ美しい氷原の狼――『フロストウルフ』の群れであった。しかし、彼らの様子は明らかに異様であった。
毛皮のあちこちから青白い不気味な氷の結晶が病腫のように突き出し、瞳は正気を失って青く発光している。その体躯は激しく震えており、苦しげな喘鳴をあげながら、よろよろと往診チームへと迫ってくるのだ。
「ウソ……!? あの狼たち、身体から青い氷が生えてる……!?」
ネネが息を呑む。
「襲ってくる気満々だぜ! おいおい、正当防衛で叩きのめすしかないのかッ!?」
ガストンが戦斧を構え、威嚇の態勢をとる。
「待ってください、ガストンさん! 攻撃してはいけません!」
枢がすばやく叫んでガストンの前に飛び出した。
「あの狼たちは、私たちを襲おうとしているのではありません! 体内を蝕む強烈な寒毒と痛みに耐えかねて、暴走しているだけです!」
枢の透視の眼(視診)には、狼たちの体内で何が起きているかがはっきりと見えていた。
「体内の『陽気(温める力)』が極限まで失われ、過剰な冷気が経絡の中で凍りついて固まり、皮膚や筋肉を内側から破壊しながら氷の結晶となって突き出しています……! これは極限の寒症が引き起こす奇病『青氷結核病』です!」
『グルゥゥゥゥ……ッ! ガアァァァッ!!』
群れのリーダーと思われる巨大なフロストウルフが、苦痛のあまり狂乱し、鋭い氷の爪を立てて枢目掛けて飛びかかってきた!
「枢先生ッ! 危険だ!!」
ガストンが叫ぶ!
しかし、枢は一歩も引かなかった。
「苦しかったですね……すぐにその痛みを和らげてあげます!」
枢は俊敏な身のこなしで飛びかかってきた狼の攻撃を間一髪でかわすと、その首筋にある名穴『大椎』と、背中の『風門』へ、天恵の霊針をすばやく突き刺した!
「温もれ、命の陽気! 凍てつく寒毒を溶かし去れ……! 霊針技・『温経散寒・扶正祛邪』ッ!!」
チュイィィィンッ!
霊針の先端から熱い太陽のような銀光が放たれ、狼の体内へと駆け巡る!
刺された大椎穴を中心に、凍りついていた経絡が瞬く間に解凍され、体表に突き出ていた不気味な青氷の結晶が、シュウシュウと音を立てて蒸発していった。
『クゥ〜ン……ッ……!』
狂乱していたフロストウルフは荒い息を整えると、全身の力が抜けたように氷の上へ力無く横たわった。しかし、その瞳からは狂気が消え、感謝と安らぎの光が宿っていた。
「よかった……体内の一番深い部分にある陽気を取り戻せました」
枢が優しく狼の頭を撫でてやる。
それを見た他の狼たちも、害意がないことを悟り、苦しそうな声をあげながら枢の足元へと集まってきた。自分たちも助けてほしいと訴えているのだ。
「みんな、待っていてくださいね。今すぐ全員の手当てをします!」
枢が力強く頷き、往診鞄から大量の灸と針を取り出した。
「ネネさん、ガストンさん、哭さん! 狼たちが動かないように優しく押さえてあげてください!」
「任せて! かわいそうな狼さんたち、すぐに楽にしてあげるからね!」
ネネが駆け寄り、一頭の狼を優しく抱きかかえる。
「おうよ! 針の治療なら、俺たちがしっかりサポートしてやるぜッ!」
ガストンも力強い手で狼の身体を支える。
極寒の世界で繰り広げられる、傷ついた魔獣たちへの往診治療。
しかし、この奇病の陰には、第二の地脈の鍵『水の鍵』を汚染する新たなる「金毒帝の影」が潜んでいたのだった――!
第642話をお読みいただき、ありがとうございました!
今回は新たなエリア「白銀の氷結晶回廊」へと足を踏み入れた往診チームが、息も凍りつく極寒の環境下で、体内の陽気が失われて体表から青氷が突き出す奇病「青氷結核病」に苦しむフロストウルフたちと出会い、枢先生が「温経散寒」の施術で救う心温まる往診劇を描かせていただきました。
さて、作中でフロストウルフたちが「極度の冷えによって体内の温める力(陽気)が失われ、経絡が凍りついて激痛と身体の強張り(寒凝血瘀・寒邪襲肺)を起こす」という描写がありました。
これは現実の私たちの生活においても、冬場の寒さやクーラーによる冷やしすぎによって起こる「深刻な冷え性」「手足の強張り」「首や背中ののこり・痛み」と全く同じ病理です。
東洋医学では、冷え(寒邪)が体内に侵入すると、血流が一気に停滞して筋肉がカチコチに固まり、関節の痛みや慢性的な不調を引き起こすと考えられています。
このような「冷えによる身体の固まり・首背中ののこり・寒気」を感じた時におすすめの東洋医学の名穴が、作中で枢先生が狼の治療に使用した**『大椎』と『風門』**です!
『大椎』の場所は、首を前に倒した時に、首の付け根に大きく飛び出る骨(第7頸椎)のすぐ下の凹みにあります。
『風門』の場所は、大椎から背骨を2つ分下がったところから、指幅2本分外側に開いた両脇にあります。
この『大椎』と『風門』は、東洋医学において「体内の陽気(温めるエネルギー)が集まる最大の拠点」であり、同時に「外からの風邪・寒気が侵入する玄関口」でもあります。
ここをドライヤーの温風で温めたり、温熱シートやシャワーでじっくり温めてあげる(あるいは優しく押し揉む)と、全身に温かい血流が一気に巡り出し、作中で狼の青氷が溶けたように、頑固な冷えや首のこりがスッと吹き飛んでいきます。
「寒気を感じるな」「首や背中が冷えてゾクゾクする」という時は、ぜひ『大椎』のツボをしっかり温めてあげてくださいね!
次なる第643話は、明日**8月28日(金曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
お昼12時の更新をどうぞお楽しみに!




