第641話「解毒の一針!地の鍵と湧き上がる毒気」
「水晶鍾乳の回廊」の最奥にて、強大な魔獣『晶蜂后クリスタル・クイーン』と死闘を繰り広げた往診チーム! 枢の見抜いた弱点「翼根」をネネが射抜き、ガストンの豪快な一撃で叩き落とされた晶蜂后に対し、哭の一閃が奔ります。麻痺毒の脅威を退け、第一の地脈の鍵『地の鍵』を手にすることができるのか――白熱の決着と、新たなる試練の幕開けです!
ズバァァァァンッ!!!!
哭の短剣が描いた銀色の軌跡が、地上へ叩きつけられた晶蜂后の胸元――硬質な甲殻の隙間に存在する気血の結節点を寸分の狂いもなく貫いた。
『キシャァァァァァァッ……!? ば、馬鹿な……我が硬甲を……毒粉を……打ち破るだと……ッ!?』
晶蜂后が断末魔の叫びをあげ、その巨体が激しい光の粒子となって崩壊していく。
周囲を覆っていた妖しい紫色の毒霧も、主の消失とともに潮が引くようにすーっと霧散していった。
「ふぅ……間一髪だったな。だが、これで終わりだ」
哭が短剣の毒を静かに拭い、鞘へと納めた。
「やったわ……! 勝ったのね、みんなッ!」
ネネが弓を仕舞い、安堵の笑みを浮かべながら駆け寄ってくる。
「ガハハハ! 見たか! 往診チームのチームワークにかかれば、どんなバカでかい蜂だろうとイチコロよッ!」
ガストンが戦斧を地面に突き立て、豪快に胸を張った。
「みなさん、お見事でした! 怪我はありませんか?」
枢が往診鞄を抱えながら三人のもとへ駆け寄り、目視で気血の状態を確認する。
「ええ、枢先生が『開竅散』と針で麻痺毒を防いでくれたおかげで、身体はピンピンしてるわ!」
ネネが元気いっぱいに腕を曲げてみせた。
「よし、それじゃあお目当ての『アレ』を回収するとしようぜ!」
ガストンが指さす先――消滅した晶蜂后の巣の跡地、その中央に鎮座していた台座の上で、眩い萌黄色の光を放つ宝玉が浮かんでいた。
古文書『古代アルゲンタ・深層診療記録』に記されていた第一の地脈の鍵――『地の鍵』である。
枢がゆっくりと近づき、両手で静かに『地の鍵』を手に取った。
その瞬間、手に温かな大地の気がじわーっと伝わり、往診チーム全員の疲労が一気に癒やされていくような感覚に包まれた。
「これが……『地の鍵』……。荒れていた地の気が、とても穏やかに澄み渡っています」
枢が感嘆の声を漏らす。
「これで鍵は一つ目ね! 残るはあと二つ……!」
ネネが胸を躍らせる。
しかし、その和やかな雰囲気も束の間であった。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!! ズズズズズ……ッ!!
「ん……!? おいおい、なんだこの揺れは!? ボスを倒したから洞窟が崩落でもし始めるのかッ!?」
ガストンが身構え、周囲の壁を見回す。
だが、異変は天井や壁からではなく、足元の「床」から起こっていた。
『地の鍵』が抜かれた台座の亀裂から、ねっとりとした紫黒色の液体と、ドブのような異臭を放つ禍々しいガスがモクモクと湧き出し始めたのだ!
「これは……ッ!? 地脈の底に溜まっていた『湿熱の毒気』です!」
枢の顔色が一変した。
「湿熱の毒気……!?」
ネネが鼻を摘みながら退避する。
「はい! 『地の鍵』はこの洞窟全体の地脈を抑え込む『重石』の役割も果たしていました。鍵を取り外したことで、地底の深層に封印されていた古い毒気が、抑えを失って地上へ噴出し始めているのです!」
湧き出す紫黒色の液体は、触れた水晶の床をシュウシュウと音を立てて溶かし、空間全体の湿度と温度を異常な勢いで上昇させていく。
「くっ……! 急に蒸し暑くなってきたわ……! 頭が重くて、胸がむかむかする……っ」
ネネが顔を歪め、胸元を押さえる。
「お、俺もだ……。なんだか全身からドッと嫌な汗が出てきて、お腹の底が重苦しくなってきたぜ……」
ガストンも膝に手を突き、荒い息を吐き始めた。
「……気をつけるんだ。この毒気は肺から入り、胃腸の働きを直接麻痺させる」
哭も眉をひそめ、気力で毒気の侵入に耐えている。
「東洋医学において、このような『湿気』と『熱気』が結びついた毒素が体内に侵入すると、胃腸(脾胃)の運化機能が停止し、激しい吐き気、腹痛、全身の重だるさを引き起こす『湿熱病』を引き起こします!」
枢はすぐさま往診鞄を開き、天恵の霊針を手にした。
「この毒気が洞窟全体へ広がる前に、次のエリアへ移動しなければ危険です! ですが、今の状態で動けば途中で動けなくなってしまいます……! みなさん、そのまま動かないでください!」
枢は俊敏な動きで仲間たちの元へ滑り込み、ネネ、ガストン、哭のみぞおちの下にある『中脘』と、足のすねにある『陰陵泉』へ素早く銀針を刺し入れた!
「巡れ、脾胃の清気! 湿熱の毒を排出し、腹の底を温めよ……! 霊針技・『清熱利湿の法』ッ!」
トントンッ! と針に微細な振動を与えると、三人の体内から重苦しい不快感がスーッと抜け落ち、腹の底から湧き上がるような爽快感が広がり始めた。
「あ……! 吐き気が消えたわ! 胸のつかえがスッキリ通った!」
ネネが目を輝かせる。
「腹の重苦しさが綺麗サッパリなくなったぜ! 枢先生の針は相変わらず即効性がすごすぎるぜッ!」
ガストンが再び元気を取り戻し、豪快に笑う。
「……助かった。これで走れる」
哭が短剣を握り直し、洞窟の先を指さした。
「向こうの通路から、第二の鍵へと続く冷たい風が吹いてきている」
「よしっ! 毒気に呑まれる前に、次のエリア『白銀の水晶鍾乳・極寒層』へ脱出しましょう!」
第一の地脈の鍵『地の鍵』をしっかりと往診鞄に納め、往診チームは新たなる試練が待ち受ける極寒の深層へと向かって走り出すのだった――!
第641話をお読みいただき、ありがとうございました!
今回は『晶蜂后クリスタル・クイーン』との決着から、第一の地脈の鍵『地の鍵』の獲得、そして鍵を抜いたことで噴き出した「湿熱の毒気」による胃腸の不調に対し、枢先生が「清熱利湿」の治療を行って脱出する展開を描かせていただきました。
さて、作中でネネやガストンが「急激な湿気と熱気(湿熱の毒気)によって胸がむかむかする、お腹が重苦しい、吐き気がする」という症状に見舞われていましたが、これは現実の私たちの生活(特に梅雨時期や夏場の湿度の高い日、食生活の乱れ)でも非常に起こりやすい病態です。
東洋医学では、湿気と熱が体に溜まると胃腸(脾胃)の働きが著しく低下し、食欲不振や胸やけ、胃もたれ、お腹の張り、身体の重だるさを引き起こすと考えられています。
このような「湿気や熱による胃腸の不調・胸のむかつき・食欲不振」を感じた時におすすめの東洋医学の名穴が、作中でも枢先生が使用した**『中脘』と『陰陵泉』**です!
『中脘』の場所は、**みぞおちとおへそを結んだ直線の中間点(おへそから指幅4本分上)**にあります。
『陰陵泉』の場所は、足のすねの内側の骨を足首から膝に向かって撫であげていき、膝の下で指が止まる凹みにあります。
『中脘』の手のひらでの優しい温灸(または手のひらを当てて温めること)や、『陰陵泉』を親指でじわ〜っと押し揉んであげることで、体に溜まった過剰な「湿気(余分な水分)」が尿として排出され、作中でネネたちの胸のつかえが消えたように、胃腸の働きがすっきりと回復していきます。
「湿気や蒸し暑さで胃腸が弱っているな」「お腹が張って重苦しいな」と感じた時は、ぜひこれらのツボを優しくケアしてあげてくださいね!
次なる第642話は、本日**8月27日(木曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております!
夜21時の更新をどうぞお楽しみに!




