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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第八章:南海灼熱諸島と炎の熱邪(ねつじゃ)】

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第636話「深層の寒熱!洞窟の民と錯雑の病気」

大水車の地下に隠されていた「白銀地脈・深層大洞窟」へと足を踏み入れた往診チーム! 水晶柱が青白く輝く幻想的な洞窟を突き進む枢たちですが、山脈の深層部は地脈の乱れによって「灼熱の熱気」と「極寒の冷気」が激しく入り交じる異様な環境となっていました。そんな過酷な環境の中で出会ったのは、地脈の寒暖差に耐えかねて倒れていた地下の民・フロスト族の民たち。治療家・枢の観察眼と秘宝『天恵の霊針』が、深層世界で起こる未知の病態に挑みます

 ザッ、ザッ……と、靴底が水晶の破片を踏みしめる静かな音が、仄暗い大洞窟の中に響いていた。


 アルゲンタの地下から伸びる「白銀地脈・深層大洞窟」の内部は、地表の白銀霊峰とはまるで異なる独特の空気感を漂わせていた。

壁面や天井からは巨大な青水晶の柱が生え出し、自律的な光芒を放って一行の足元を青白く照らしている。しかし、その幻想的な光景とは裏腹に、肌を刺す空気は奇妙極まりない異様さを呈していた。


 「う……ううっ!? なにかしらこの空気……! 右側からはカーッと肌が焼けるような熱風が吹いてくるのに、左側からは凍りつくような冷気が流れてくるわ……!」

ネネが頬を手で覆いながら、不快そうに身を縮こまらせる。


 「本当だな……。右半分は汗が吹き出るほど暑いのに、左半分は吐く息が白くなるくらい冷えてやがる。なんだってこんな極端な風が同じ洞窟の中で吹いてるんだ?」

ガストンが額の汗を乱暴にぐっと拭いながら、眉間に深いシワを刻んだ。


 「……注意しろ。地脈の気の流れが、この先で激しく衝突している」

哭が短剣の柄に手を添え、壁面の壁に視線を走らせる。


くるるは歩みを止め、往診鞄から一本の銀の羅針盤を取り出して空間の気を測定した。


「これは……東洋医学で言う『寒熱錯雑かんねつさくざつ』が、環境そのものに発生している状態ですね。金毒帝が山脈の命脈を力任せに押さえつけていた影響で、深層に流れる『火の地脈』と『氷の地脈』の均衡が崩れ、正しく混ざり合わずに空間の中で激しくぶつかり合っているのです」


「環境の寒熱錯雑……! 単に暑いだけ、寒いだけなら身体も適応できますが、こうも目まぐるしく寒熱が入り交じると、体内の気の昇降が支障をきたしてしまいますね」

枢が懸念の表情を浮かべたその時――。


「誰か……助けて……っ……! おじいちゃんが……みんなが……っ!」


洞窟の奥にある青水晶の影から、消え入りそうな細い声が聞こえてきた。


「誰かの声だわ! 枢先生、あっちです!」

ネネが声を追って駆け出すと、青水晶の根元に、全身に白い毛皮を纏い、小さな角を生やした小柄な少女がへたり込んでいるのが見えた。


「だ、大丈夫ですか! 今助けます!」

枢がすぐさま歩み寄り、少女の肩をやさしく抱き起こした。

少女の身体に触れた瞬間、枢の指先に異常な感触が伝わる。上半身は火のように熱く沸き立っているにもかかわらず、足先は氷のように冷たく硬直していたのだ。


「ひっ……! あ、あなたたちは……地上から来た人たち……?」

少女は荒い息を吐きながら、怯えた目で見上げてくる。


「怖がらなくて大丈夫ですよ。私たちは通りすがりの医師……往診チームです。私は枢。あなたの体調を診させてくださいね」

枢が穏やかな声をかけると、少女はほっと安心したように緊張の糸を切らせた。


「あたしはチロ……『フロスト族』の集落から逃げてきたの……。数日前から集落の周りで暑い風と冷たい風が暴れ出して……村のみんなが急に高熱を出したと思ったら、手足が冷たくなって動けなくなっちゃって……っ!」


「手足の氷結と体内の異常な発熱……! 典型的で重度な『上熱下寒じょうねつかかん』の病態です!」

枢の瞳が鋭く光る。


「チロさん、あなたの集落へ案内してください! これ以上放置すれば、村人のみなさんの体内環境が破壊されてしまいます!」


「う、うん……! こっちだよ……っ!」

チロが弱々しく立ち上がり、洞窟のさらに深奥へと一行を導いた。


青水晶のトンネルを抜けた先に広がっていたのは、洞窟の岩壁を削って作られたフロスト族の集落であった。しかし、かつては平和であったろうその集落は、右側から流れてくる赤黒い熱気と、左側から流れてくる氷青色の冷気によって二分され、凄惨な光景と化していた。


広場には数十人のフロスト族の民たちが横たわり、うなされるように苦しそうな呻き声をあげている。


「うぐぅ……暑い……胸が焼けるように熱い……っ! なのに、足が凍りついて動かないんだ……っ!」


「お助けくだされ……! 水を飲んでも飲んでも、胸の熱が収まらんのじゃ……!」


苦しむ村人たちの姿に、ガストンが拳を固く握りしめた。


「クソッ……! 毒帝を倒したってのに、そのしわ寄せがこんな地下の住人たちにいってやがったのかよ……! 枢先生、手立てはあるか!?」


「ええ、もちろんです!」

枢は往診鞄を開き、白銀霊峰の最深部で獲得した秘宝『天恵の霊針』を取り出した。


「この『上熱下寒』は、上部に溜まった過剰な火の邪気と、下部に滞った極寒の冷気が隔絶され、上下の気が巡らなくなっている『格拒かくきょ』という状態です。上部の熱を押し下げ、下部の冷気を温めて引き上げる……上下の『気血の架け橋』を作らなければなりません!」


枢は真っ先に長老らしき老人の元へ駆け寄り、手首の脈を診た。

脈は上部で激しく打ち打ち打つ「数脈さくみゃく」でありながら、下部では消え入りそうな「沈微脈ちんびみゃく」を呈している。


「チロさん、長老さんの身体を支えてください! ネネさんはお湯を用意してください! ガストンさんと哭さんは、集落の周囲に立ち込める寒熱の風を遮る風よけを作ってください!」


「「「了解ッ!!」」」


仲間たちが一斉に動き出す中、枢は天恵の霊針の先端に自身の気を通わせた。

針先から柔らかな銀光が伸び、老人の胸元にある『膻中だんちゅう』と、足裏の『湧泉ゆうせん』のツボを優しく照らし出す。


「上部の熱を降し、下部の寒を温む……! 霊針技・『陰陽和合の一針いんようわごうのいっしん』ッ!」


枢の手首が素早く閃き、霊針が老人の身体へ寸分の狂いもなく打ち込まれた!

銀光が体内の経絡を駆け巡り、胸の熱を足元へ引き下ろすと同時に、足元の冷気を優しく溶かしてゆく。


「ゴホッ……! ふぅぅぅぅ……っ……!」

老人の荒かった息遣いが一瞬で静まり、真っ赤にのぼせていた顔色が引き、凍りついていた足元に血色が戻っていった。


「じ、おじいちゃんの顔色が戻った……! 足も温かくなってる……!」

チロが驚喜の声をあげる。


「ふう……まずは一人目です。ですが、集落全員を治療するには、この環境そのものの寒熱の暴走を止めなければ根本的な解決にはなりません」

枢が力強く立ち上がり、洞窟の最奧から流れてくる二色の風を見つめた。


「みなさん、村人のみなさんの応急手当を終えたら、この寒熱の風が吹き出している『地脈の結節点』へ向かいましょう!」


白銀霊峰の深層で出会ったフロスト族を救うため、往診チームの新たな戦いが始まったのだった――!

 第636話をお読みいただき、ありがとうございました!


今回は「白銀地脈・深層大洞窟」へと入った往診チームが、環境の崩壊による寒熱錯雑の病態に苦しむフロスト族と出会い、枢先生が『天恵の霊針』を用いて上下の気を巡らせる治療を行う展開を描かせていただきました。


さて、作中で村人たちが苦しんでいた「頭や胸が熱くのぼせるのに、手足や足先は冷え切っている(上熱下寒・冷えのぼせ)」という状態は、現代の私たちにとっても非常に身近な不調の一つです。


冷房の効きすぎた部屋と外の猛暑を行き来したり、デスクワークで頭ばかりを使って足元を動かさない生活が続くと、気血が体の上部に偏り、このような状態に陥りやすくなります。


こうした「冷えのぼせ」を感じた時におすすめの養生法が、足の裏にある**『湧泉ゆうせん』**のツボ押しと、手足の「温冷のメリハリ」です。

『湧泉』は、足の指をぎゅっと曲げた時に、足の裏にできる凹みの中心にあります。 


ここを手の親指で、足の甲に向かってじわーっと強めに押し揉んであげると、頭や胸に上った過剰な熱がスーッと足元へ引き下ろされ、全身の巡りがスムーズになります。

また、頭がカーッと熱い時は冷たいタオルで首の後ろを優しく冷やしつつ、足元は靴下や足湯で温めるなど、「上を冷まし、下を温める」ケアを意識してみてくださいね!


次なる第637話は、明日**8月25日(火曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!

お昼12時の更新をどうぞお楽しみに!

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