第632話「湿泥の試練!三宝玉の共鳴と天恵の霊針」
赤熱の炎、寒氷の極寒という真逆の過酷な環境を見事に克服し、二つの宝玉を手に入れた往診チーム! 伝説の『天恵の霊針』獲得のために残された最後の壁――それは、熱と冷気が混ざり合い、重苦しい泥流が渦巻く第三の試練「濁れる湿泥の脈穴」でした。足元を奪う泥の底から現れた最後のガーディアンと、重だるい湿気の猛威。試練の全貌を解き明かし、白銀霊峰を救う至高の医療具を手に入れることができるのか――!?
ドロ……ドロリ……と、重苦しい音が暗闇の奥から響き渡っていた。
第一の試練で得た『赤熱の宝玉』と、第二の試練で得た『寒氷の宝玉』を携え、往診チームが足を踏み入れた最後の部屋――そこは、熱気と冷気が激しく衝突し、粘り気のある黄色い泥水が足元一面を覆う「濁れる湿泥の脈穴」であった。
「うわ……足が泥にめり込んで、一歩踏み出すだけで凄く重いわ……ッ!」
ネネが足元を気にして眉をひそめる。泥はまるで生き物のように脚へへばりつき、体力を奪っていく。
「へっ……! 暑さも寒さも乗り越えてきたんだ、泥んこ遊びくらいどんと来いだぜ……と言いたいところだが、なんか体が重だるくて力が入りにくいな……」
ガストンが戦斧を担ぎ直そうとするが、腕を持ち上げる動作すらどこか緩慢になっていた。
「みなさん、それは単なる泥の重みだけではありません。空間全体に満ちている重濁な『湿邪』が体内に侵入し、気血の巡りを停滞させているのです!」
鍼灸師・枢が往診鞄を抱え直し、鋭い眼差しで周囲の状況を観察しながら声を張り上げた。
「東洋医学において『湿性は重濁』と言い、湿気は身体の下部に溜まりやすく、全身に重だるさ、関節の曲げ伸ばしのしにくさ、頭が締め付けられるような頭重感をもたらします! 無理に力を振り絞ろうとせず、呼吸を整えて身体の中央(胃腸の気)をしっかり保ってください!」
枢はすぐさま往診鞄から、芳香性の高い『紫蘇葉』や『香茹』を調合した特製の散剤を取り出し、水筒の白湯に溶かしてみんなへ渡した。
「これを飲んで体内の余分な湿気を吹き飛ばし、気を巡らせましょう!」
「ゴクッ……! あ……! 爽やかな香りが鼻に抜けて、頭の重苦しさがスーッと引いていくぞ……ッ! 腕の重だるさも軽くなった!」
ガストンが目の前がパッと開けたような表情を浮かべる。
「本当ですわ! お腹の奥から風が通り抜けたみたいに、足の運びがスムーズになりました!」
ネネも明るい声を上げた。
「……だが、最後の試練の主がやってくるぞ」
影の中から短剣を低く構えた哭が、中央の泥の渦を見据えて警戒を強める。
ゴボボボボッ!
泥の池が大きく盛り上がり、姿を現したのは、身の丈7メートルを超える粘土と泥鉱石で形成された巨獣『湿泥の泥塊獣』だった!
その胸元には、赤熱の熱気と寒氷の冷気がドロドロに混ざり合った、濁った黄色い『湿泥の宝玉』が埋め込まれている。
『二ツノ試練ヲ越えし者ヨ……。我ガ重濁ナル湿泥ノ牢獄ニ……沈むがいい……!』
泥塊獣が太い泥の腕を振り回すと、周囲の粘着質な泥流が波となって押し寄せ、往診チームの足元を完全にすくおうと迫ってきた!
「来ますッ! みなさん、慌てて逃げようとすると泥に捕まります! 一点に体重をかけず、滑るように体勢を交わしてください!」
枢が叫ぶ!
「おうよッ! 枢先生の薬で体が軽くなったからな、泥の波なんざ軽々と跳び越えてやるぜぇぇぇッ!」
ガストンが泥の抵抗を感じさせない軽やかな身のこなしで前方へ跳躍した!
「ガストンさん、あの泥塊獣は柔らかい泥で攻撃を吸収するため、外側からの単純な物理打撃はすべて無効化されてしまいます!」
枢がすばやく怪物の性質を分析し、指示を送る。
「湿邪の攻略法は『芳香化湿(香りで散らす)』と『健脾利水(お腹を整えて水を排泄する)』です! 怪物の側腹部にある二箇所の『水抜き孔』に刺激を与え、内部に溜まった濁水を一気に外部へ排出させる必要があります!」
「水抜き孔だな! どこにあるか教えてくれ、先生!」
「怪物の肋骨に当たる位置の左右です! ネネさん、右の水抜き孔を! 哭さん、左の水抜き孔を同時に攻撃してください!」
「任せてッ! 狙いは外さないわ! 貫通の風矢ッ!」
ネネが放った矢が鋭い風の渦を纏って飛んでいき、泥塊獣の右側腹部を深く貫いた!
「……左は断ち切った」
哭が残像を残すほどの速度で跳び上がり、左側腹部へ短剣を突き刺して一瞬で切り裂いた!
ブシャァァァァッ!!!!
左右の穴から、溜め込まれていた濁った水分が一気に大量噴出し、ドロドロだった泥塊獣の体が急激に水分を失ってカラカラに乾燥し、ひび割れ始めた!
「よしッ! 内部の水分が抜け、泥の体が硬く脆い土塊へと変化しています! 今です、ガストンさん! 胸の宝玉へ渾身の一撃をッ!」
枢が叫ぶ!
「待たせたなぁぁぁッ! 熱気も冷気も泥気も、全部まとめて叩き潰してやるぜぁぁぁッ!」
ガストンが空中で戦斧を大きく振りかざす。
枢のアロマと生薬によって全身の巡りを完璧に整えられたガストンの肉体から、爆発的な破壊力が解き放たれた!
「豪力・湿泥大粉砕破ぁぁぁぁッ!!!!」
ズドォォォォンッ!!!!
乾いて脆くなった泥塊獣の胸元へ戦斧が激突し、中央の宝玉が見事に粉々に砕け散った!
巨体は砂煙となって崩れ去り、泥で覆われていた部屋全体に清々しい風が吹き抜けていく。
そして、中央の台座に眩しい黄色に輝く『湿泥の宝玉』が舞い降りたのだ。
「やった……! やりましたわ、ガストンさん! 枢先生!」
ネネが歓声をあげて駆け寄る。
「へへっ……! 三つの試練、ついに全部クリアしたな!」
ガストンが汗を拭い、豪快に笑った。
枢が回収した『赤熱の宝玉』『寒氷の宝玉』『湿泥の宝玉』の三つを中央の台座へ並べると、三色の光がひとつに溶け合い、室内全体を神聖な白い光が包み込んだ。
『見事なり、往診チームの治療家たちよ……。熱、寒、湿……三つの病邪を正しく解き明かした汝らに、古代アルゲンタの至宝を授けん……!』
光の中からゆっくりと浮かんできたのは、眩い銀の光を放つ一本の美しい針――東洋医学の真理と古代の叡智が込められた秘宝『天恵の霊針』であった!
「これが……天恵の霊針……!」
枢が恭しく両手で受け取ると、針から温かく清らかな気が溢れ出し、全員の疲労を一瞬で癒やしていった。
「よしッ! 伝説の針も手に入ったことだし、いよいよ白銀霊峰の最深部へ乗り込んで、元悪の根源をぶちのめしに行こうぜッ!」
ガストンが力強く拳を突き上げる。
伝説の秘宝を手に入れた往診チーム。
白銀霊峰を病の絶望から救うため、彼らはついに最終決戦の地へと足を踏み出すのであった――!
第632話「湿泥の試練!三宝玉の共鳴と天恵の霊針」をお読みいただき、誠にありがとうございました!
今回は第三の試練「湿泥の脈穴」での白熱したバトルと、三つの宝玉を揃えて伝説の道具『天恵の霊針』を獲得する感動のクライマックスを描かせていただきました!
鍼灸師・枢先生の観察眼と適切な芳香化湿のアプローチ、そして仲間たちの息の合った連携を楽しんでいただけましたら幸いです!
さて、今回は作中で「湿気によって身体が重だるくなり、お腹の働きや頭が重くなる状態(湿邪)」にちなみ、日常で「雨の日や湿度の高い日に全身が重だるい、頭がハチマキで締め付けられるように重い、胃腸の調子が悪くて食欲が出ない時」に、身体の余分な湿気を追い払ってスッキリさせる東洋医学の知恵をご紹介します!
湿気が原因で身体が重だるい時は、東洋医学では「脾胃(胃腸)の働きが低下して水分の代謝が滞っている」状態と考えます。
そんな時におすすめなのが、膝の下にある名穴**『足三里』**です!
場所は、**お皿のすぐ下外側にある凹みから、指幅4本分下がったところ(すねの骨の外側のキワ)**です。
ここを親指で気持ちいいと感じる強さでじわーっと押したり、温かいシャワーを当てたりお灸で温めてあげると、胃腸の働きが活発になり、体に溜まった余分な湿気がスムーズに排出されます!
また、作中で枢先生が紫蘇を使ったように、日常でも**シソや生姜、ネギ、ミントなどの「香りの良い食材」**を食事に取り入れると、お腹の湿気が散って頭も体も軽くなりますよ! 湿気によるだるさを感じた時はぜひ試してみてくださいね!
次なる第633話は、明日**8月23日(日曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
『天恵の霊針』を手に、ついに白銀霊峰の最深部・「金毒帝の心臓の間」へ到達した往診チーム! 山全体の命を盾にする金毒帝との最終決戦が幕を開け――!? 12時の更新をどうぞお楽しみに!




