第603話「噴火口の惨状!紫炎の胃熱と中脘の和胃」
『曲池』の刺鍼によって肘から腕に侵入した風熱の邪気を討ち払い、四天王の一人「赤腕の煉獄」を退けた往診チーム。激しさを増す火山の地響きの中、チームは山頂の巨大な噴火口へと一気に駆け上がります。しかし、山頂を包むのは不気味な紫色の蒸気と、強烈な吐き気・胃痛を引き起こす未知の熱邪でした。
カルデラ岳の山頂へと続く最終登攀路は、もはや生身の人間が立ち入ることを拒む灼熱の獄谷と化していた。
黒赤色の岩肌の亀裂からは、高圧の蒸気がシュウシュウと音を立てて噴き出し、立ち込める煙によって太陽の光すら歪んで紫がかった不気味な赤色に見える。
「くっ……! 煉獄の野郎を倒したっていうのに、この熱気はどうなってやがる……! 息を吸うたびに、胃袋の裏側が直接火で炙られてるみたいだぞ……ッ!」
戦斧を肩に抱えたガストンが、胃のあたりを片手で強く押さえながら、険しい顔で足をとめた。
「ガストンさんだけではありません……! ネネさんも、ハクもリナも……顔色が青ざめています!」
往診鞄を抱えた枢が振り返ると、チームの面々が激しい吐き気と上腹部の劇痛に耐かね、その場に屈み込みかけていた。
「うぐっ……! 胸からみぞおちのあたりが……熱くて、激しく痛むわ……ッ! お腹の底から酸っぱい液体がこみ上げてきて……吐き気が止まらない……ッ!」
ネネが弓を杖代わりにしながら、みぞおちを押さえて必死に吐き気を堪えている。
「……これは、ただの発熱や疲労ではありません。火山噴火口のマグマ溜まりから発せられる極太の邪熱が、口や鼻を経由して直接『胃』の経絡へと落ち込んでいます……! いわゆる『胃熱の鬱滞による胃気上逆』です!」
枢がすばやくネネの脈を診る。脈拍は非常に速く、脈管がパンパンに張り詰めた「滑数の脈」を打っていた。
「通常、胃の気は食べ物を消化して下へと降ろす『降濁』の働きを持っています。しかし、強烈な邪熱が胃に充満して『胃火』となると、胃の気が正常に下へ降ちず、逆に上へと激しく突き上げる『上逆』を起こします。それによって、激しいみぞおちの痛み、吐き気、胃の灼熱感、猛烈な喉の渇きが引き起こされるのです!」
「ハハハハハ! 鋭い観察眼だな、鍼灸師の小造りめッ!」
噴火口を覆う紫色の蒸気が渦を巻き、その中からゆらりと人影が現れた。
薄紫色の不気味な法衣を纏い、両手に水晶の数珠を巻きつけた痩せ型の男――黒穴会「炎血四天王」の第二の刺客、「紫炎の禍毒」であった。
「我が修めし『紫炎胃毒術』は、この諸島に眠る古代の地熱と毒気を練り合わせた邪法! 貴様らの胃袋を内側から煮え立たせ、自分の胃液で内臓を溶かし尽くしてのたうち回らせてやるわッ!」
禍毒が数珠をジャラリと鳴らすと、噴火口から深紫色の火炎波が押し寄せ、往診チームを包み込んだ!
「ぐわぁぁぁッ!? 腹が……お腹の中が燃えるように熱いッ!」
ガストンが耐え切れずにうずくまり、激しい胃痛で額を地面に擦りつける。
「……相棒! 俺の気功膜で邪熱の直撃は防ぐ! だが、内部から湧き上がる毒気までは防ぎ切れん……! みんなの胃の腑を救ってくれッ!」
隠密・哭が白銀の気を扇状に広げ、山頂から押し寄せる紫炎の波を間一髪で食い止める!
「任せました、哭さん! ……皆さん、苦しいでしょうが胸を開いて息を吐いてください! 胃に溜まった過剰な邪熱を直接排出し、上逆した胃の気を正常な下降運動へと戻す『腑の絶対要穴』を開放します!」
枢が往診鞄から取り出したのは、太古の清涼な鉱物から削り出された、青白い光を放つ特製の「和胃降逆銀大鍼」であった!
「ハク、リナ! 胃の火を鎮め、酸の鬱滞を抑える『黄連』と『竹茹』の和胃清熱ミストを全員の腹部へ噴霧しなさい!」
「了解です枢先生! 和胃清熱ミスト、みぞおちへ全開噴射ッ!!」
ひんやりとした苦味のある清涼な香りがみぞおち付近を覆い、焼けるような胃の熱感がわずかに和らぐ!
「胃の腑に充満せし熱火よ、治まりて下りたまえッ! 腑の会穴・胃の募穴……解放ッ!!」
シュパッ! シュパッ! シュパッ――!!
枢の手から放たれた銀鍼が、苦しむガストン、ネネ、ハク、リナたちの**「みぞおち(胸骨の下端)と臍を結んだ直線上の、ちょうど中央(おへそから指幅4本分上)」**へ、正確無比な角度と深さで打ち込まれた!
打ち込まれたのは、六腑(胃・胆・小腸・大腸・膀胱・三焦)の気が全て集まる会穴であり、胃の病全般を統べる至高の名穴――『中脘』!
ジュワァァァァァァッ!!!!!
「――つ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!?!? みぞおちの奥で滾っていた煮えたつような熱湯が……スーッと氷水で満たされていくみたいだ……ッ!」
ガストンが目を見開き、自分の腹部をさすりながら勢いよく立ち上がった!
「吐き気が……吐き気が嘘みたいに消えたわ! 胸のつかえが下りて、お腹の中がスッキリと落ち着いていく……ッ!」
ネネが弓を力強く握り直し、顔に紅潮を取り戻す!
「『中脘』は、任脈に所属し、胃の気が直接集まる『胃の募穴』にして、すべての腑の要となる『腑会』です! 胃熱による激しい胃痛、胃もたれ、吐き気、嘔吐、胸やけ、食欲不振を劇的に改善し、乱れた胃腸の運動を正常な降下運動へと戻す、胃の救急治療において欠かすことのできない絶対の特効穴です!」
「な……なにぃぃぃッ!? 我が紫炎胃毒術の毒気が、たった一箇所のお腹のツボで完全に中和されたというのかッ!?」
禍毒が信じられないといった様子で目を見開く。
「ガストンさん、今です! 胃の気が整った今のあなたなら、あの禍毒の邪気を打ち破れます!」
枢が力強く叫ぶ!
「おうよッ! 腹の底から力がみなぎってきたぜぇぇぇッ! 胃袋を痛めつけてくれた返し、倍にして受けてみろッ!」
ガストンが巨大な戦斧を両手で構え、大地を砕く勢いで跳躍した!
「豪力・絆の太刀割り――和胃爆砕断ッ!!」
ドカァァァァァァァンッ!!!!!!!!
ガストンの一撃が禍毒の紫炎を真ん中から一散させ、四天王・禍毒を山頂の岩壁へと叩きつけた!
禍毒は凄まじい悲鳴を上げながら昏倒し、山頂を包んでいた紫色の胃毒気も一気に晴れ渡っていったのだった。
「ふぅ……これで二人目の刺客も撃破できましたね」
枢が静かに鍼を納め、汗を拭う。
だが、安堵したのも束の間、巨大な噴火口のマグマ溜まりから、これまでにない漆黒の柱が立ち上り、火山の最深部から恐ろしい地鳴りが響き渡るのだった――!
第603話をお読みいただき、ありがとうございました!
噴火口を覆う紫炎の熱毒と激しい胃痛・吐き気に苦しむ往診チームを、枢先生が『中脘』の刺鍼で見事に救い出し、四天王二人目「禍毒」を打ち破る熱い展開をお届けいたしました。
さて、今回は作中で枢先生がガストンさんたちの激しい胃痛や吐き気、胸やけを解消した「胃熱鬱滞・胃気上逆(邪熱による胃腸の激しい炎症と機能障害)」の病理に基づき、日常で「食べ過ぎやストレスで胃が焼けるように痛む、吐き気や胸やけがする、胃もたれや胃の不快感が強い、胃酸が上がってくる時」に、胃の熱を冷まして乱れた消化機能をスーッと整えてくれる絶対の名穴をご紹介します。
今回登場した『中脘』は、**みぞおち(胸骨のすぐ下)とおへそを結んだ直線上の、ちょうど中央(おへそから指幅4本分上)**にあります。
東洋医学において『中脘』は、胃の気が直接集まる「胃の募穴」であり、すべての腑(胃・腸・胆など)の働きを統括する要穴です。ストレスや暴飲暴食、体内の熱によって胃の働きが乱れ、激しい痛みや吐き気が生じた際、このツボを刺激することで胃の過剰な熱を鎮め、上逆した気を正常に下へと降ろして胃の粘膜と運動をスッキリと落ち着かせてくれます。
ケアする場合は、手のひらの手根部(手のひらの下側のふくらみ)または指先を『中脘』に当て、息をゆっくり吐きながら、お腹の奥に向かって優しく痛気持ちいい強さで5秒間圧をかけます。これを左右の深呼吸に合わせて5回ほど試してみてください!
みぞおちの緊張がほどけ、胃の熱感と不快感がスーッと和らいでいきますよ!
次なる第604話は、本日**8月8日(土曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております!
ついに辿り着いた噴火口の最深部! 待ち受ける三つ目の病魔と「炎帝」復活の真相とは――!? 21時の更新をどうぞお楽しみに!




