第598話「南海の緊急便!灼熱の熱邪と合谷の清涼」
王都ガルフレイドの平穏を取り戻し、平和なひとときを過ごしていた往診チーム。しかし、その穏やかな時間に突如届いたのは、南方の海に浮かぶ常夏の諸島「南海灼熱諸島」からの切迫した救助要請(SOS)でした。新たな病魔と闘う往診チームの新たなる冒険が幕を開けます。
王都ガルフレイドの広場に差し込む陽光は、数日前までの冷たく重苦しい不吉な闇を完全に拭い去り、穏やかな春の温もりを連れてきていた。
大聖堂前の屋台街では、香ばしい肉を焼く煙と焼き立てのパンの匂いが立ち込め、子どもたちの元気な歓声が響き渡っている。
「う~んッ! やっぱり平和になった街で食べる肉塊は最高だぜぇぇぇッ!」
ガストンが巨大な骨付き肉を豪快にかぶりつき、豪快に口の周りを拭った。
「ガストンさん、食べ過ぎですよ……。『足三里』で胃腸が元気になったからって、いきなりそんなに詰め込んだらまたお腹を壊しますよ」
ネネが苦笑しながら、冷やした薬草茶を差し出す。
「ははは! 大丈夫だネネちゃん! 今の俺様の胃袋は万全だからな!」
「……ふっ、平和なのは良いことだ」
哭が屋台の軒下に背を預け、穏やかな表情で王都の青空を見上げていた。隣には正気を完全に取り戻し、穏やかな瞳をした壱号が静かに座っている。
「……零号、いや……哭。私はしばらくこの王都に残り、復興の手伝いをする。お前たち往診チームが教えてくれた『人を救う術』を、私もこの手で実践してみたいのだ」
「そうか……。壱号、お前なら良い鍼術師になれるさ。頑張れよ」
哭と壱号が互いの拳を軽く突き合わせる。
その時であった――!
パササササッ!
上空から一羽の真っ赤な羽を持つ伝書鳥が旋回しながら舞い降り、枢の肩へと止まった。その足元には、緊急事態を示す赤いろうそく印の封筒が括り付けられている。
「伝書鳥……? どこからの手紙でしょうか……?」
枢が手紙を解き、中身を広げると、その表情が瞬時に引き締まった。
「……枢先生、何て書いてあるんだ……?」
ガストンが肉を食べる手を止め、身を乗り出す。
「……南海に浮かぶ貿易の拠点『南海灼熱諸島』からの緊急SOSです。数日前から火山活動の活発化に伴い、島全体を猛烈な『熱邪』と『暑邪』が襲い……島民の半数以上が原因不明の激しい高熱、猛烈な頭痛、そして顔面の激痛と目口の腫れに苦しんでいるそうです!」
「何だと……!? 南の島でそんなことが……!」
哭の瞳に再び鋭い光が戻る。
「現地にいる医師たちの手には負えず、患者の症状は刻一刻と悪化しているとのこと……。すぐに向かいましょう! 往診チーム、出発です!」
「「「おーっ!!!」」」
◇ ◇ ◇
王都から高速船に乗り込み、南へ航海すること丸一日。
往診チームの眼前に現れたのは、もくもくと黒煙を上げる巨大な火山と、真っ赤に染まる海に囲まれた「南海灼熱諸島」の主島であった。
船から港へ降り立った瞬間、モワッとする凄まじい熱風が全身を包み込んだ。
「うぐっ……何だこの暑さは……! 息をするだけで喉と鼻が焼き切れそうだぞ……ッ!」
ガストンが汗を噴き出し、胸元を大きくはだけさせる。
「……ただの気温の高さではありません。大気中に猛烈な『熱毒』が充満しています……!」
枢がハンカチで口元を押さえながら、港の救護所へと急いだ。
救護所の中は、まさに惨状を極めていた。
床一面に横たわる数百人もの島民たち。全員が顔を真っ赤に腫れ上がらせ、高熱とうわ言に苦しんでいる。
「うあぁぁぁ……! 顔が痛い……ッ! 歯と目が燃えるように熱くて痛いんだぁぁぁッ!」
「助けてくれ……頭が割れる……息ができない……ッ!」
「これは……ッ! 熱邪が体表から侵入し、陽明経(顔面や頭部を通る経絡)に停滞して強い炎症を起こしています! いわゆる『顔面の熱毒・劇烈な頭面部痛』です!」
枢が迅速に患者の腕を取り、脈を診る。
「脈は洪大にして数(迅速で大きい)……! 熱邪が頭部に充満し、目、鼻、歯、顔面全体の神経と組織を猛烈に圧迫しています! 今すぐこの熱毒を体外へ叩き出さなければ、脳や目に不可逆な障害が残ります!」
「枢先生! 島民だけじゃなく、救護所の外の警備兵さんたちまで倒れ始めました!」
ハクとリナが悲鳴に近い声を上げる。
「……くっ、この熱邪の勢い……生半可な冷却では追いつきません……! 全身の熱邪を排出し、顔面や頭部のすべての激痛・炎症を即座に鎮圧する『絶対の清熱・鎮痛穴』を開放します!」
枢が往診鞄の最上段から、純銀製の極細刺絡鍼を取り出した!
「ハク、リナ! 上半身と顔面にこもった熱を即座に散らす『石膏』と『金銀花』の強力清熱ミストを救護所全域へ拡散しなさい!」
「了解です枢先生! 強力清熱ミスト、散布開始ッ!!」
ひんやりとした清涼感のある生薬のミストが部屋を満たし、熱風を和らげる!
「顔面、頭部、そして全身の熱毒よ……消え去りなさいッ!」
シュパッ! シュパッ! シュパッ――!!
枢の手から放たれた銀鍼が、苦しむ島民たちと仲間たちの**「手の人差し指と親指の骨が交わる凹みの少し手前(人差し指側の骨の際)」へ、正確無比に打ち込まれた!
打ち込まれたのは、上半身のあらゆる痛みを止め、熱邪を劇的に排出する東洋医学最強の鎮痛・清熱穴――『合谷』!
ジュワァァァァァァッ……!!
「――つ……あぁぁぁぁぁぁッ!? 顔の……顔の熱と激痛が……手のひらを通じて外へ抜けていく……ッ!?」
激しい歯痛と頭痛にのたうち回っていた島民が、信じられないというように自分の顔を両手で触った。
「痛みが……消えた……!? 目の奥の激しい熱感が、すーっと引いていくぞぉぉぉッ!」
「『合谷』は、顔面や頭部を通る『手陽明大腸経』の原穴であり、文字通り『あらゆる顔面の病、頭部の激痛、高熱、炎症を速やかに鎮める万能穴』**! 面口(顔面)の病は合谷に収めると称されるほど、頭痛・歯痛・目の充血・高熱を劇的に散らし、強い鎮痛効果をもたらす名穴です!」
「 clinical に見て……相棒、顔の皮膚の火照りが一瞬で冷めて頭が軽くなったぜ!」
哭が短剣の柄を握り直し、涼やかな表情を取り戻した。
「よかった……! これで皆さんの初期症状は落ち着きました!」
ネネが胸を撫でおろす。
しかし、安堵したのも束難。救護所の外から凄まじい地鳴りと共に、溶岩を纏った巨大な魔獣の咆哮が響き渡った!
グラグラグラグラッ!!
「何だ何だあぁぁぁ!? 地震か!?」
ガストンが戦斧を構える。
「……違います! 熱邪の源流……火山の奥から、熱邪を撒き散らす『灼熱の魔獣』が迫ってきています!」
枢が往診鞄を強く握り締め、嵐の予感が漂う港の奥を見つめるのだった――。
第598話をお読みいただき、ありがとうございました!
物語は新章「南海灼熱諸島編」へ突入! 猛烈な熱邪と顔面の激痛に苦しむ島民たちを、枢先生が東洋医学最強の鎮痛穴『合谷』の刺鍼によって劇的に救い出す疾走感あふれるバトル&医療アクションをお届けいたしました。
さて、今回は作中で枢先生が島民たちの激しい顔面の痛む熱感や頭痛、高熱を解消した「風熱上犯(外邪による上半身の激しい炎症・熱感)」の病理に基づき、日常で「酷い頭痛や歯痛がある、風邪の引き始めで熱っぽく咽喉が痛む、目の充血や顔ののぼせ・ニキビが気になる、ストレスで肩や首がガチガチに凝っている時」に、全身の痛みを和らげて熱をサッと引き散らしてくれる絶対の万能名穴をご紹介します。
今回登場した『合谷』は、**手の人差し指と親指の骨が交わる V 字型の凹みから、やや人差し指側の骨の際(押すとズーンと響くところ)**にあります。
東洋医学において『合谷』は、顔面や頭部へとつながる「手陽明大腸経」の原穴であり、**「万能の鎮痛・清熱・気血循環穴」**として世界中で最もよく使われているツボです。古くから「面口は合谷に収む」と言われる通り、顔面(目・鼻・歯・口・皮膚)のトラブルや頭痛、肩こり、高熱、さらには便秘や精神的なストレスまで、上半身のあらゆる滞りと痛みを強力に押し流してくれます。
ケアする場合は、反対の手の親指を『合谷』に当て、人差し指の骨の下に潜り込ませるようにして、痛気持ちいい強さで5秒間じわーっと強く押し込みます。これを息をゆっくり吐きながら左右5回ずつ試してみてください!
首から上がすーっと涼しくなり、不快な痛みや重だるさがみるみる引いていきますよ!
次なる第599話は、明日**8月6日(木曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
火山の奥から姿を現した「灼熱の魔獣」の正体とは――!? 12時の更新をどうぞお楽しみに!




