第594話「深遠の吸気悪鍼!壱号の葛藤と労宮の消炎」
大聖堂の大礼拝堂で激突する哭と壱号。『内関』の刺鍼によって胸の抑圧を打ち破った往診チームは、壱号の背後に潜む「真の悪鍼」の脅威へと立ち向かいます。
大礼拝堂の中心で、白銀の気流を纏った哭の短剣と、赤黒い邪気を孕んだ壱号の「吸気絶命鍼」が激しく交錯した。
バチバチバチッ……!!
衝撃波が石畳をめくり上げ、ステンドグラスをけたたましい音とともに粉砕する。
「……くっ……! なぜだ、零号……! 昔のお前なら、私のこの一撃を受けることすらできなかったはずだ……ッ!」
壱号が両腕を交差させ、押し込まれる自らの悪鍼の勢いに顔を歪めた。
「言ったはずだ、壱号……! 俺はもう、一人で暗闇を這い回るだけの『道具』じゃねぇ!」
哭の踏み込みが深くなる。
「俺には仲間がいる! 俺の傷を受け止め、背中を預けてくれる相棒たちがいるんだよぁぁぁッ!」
「戯言をぉぉぉッ!」
壱号が咆哮すると、その背後の空間が歪み、大聖堂の地下深くへと繋がる漆黒の巨大な穴が牙を剥いた。
穴の底から湧き上がるのは、王都中の人々から吸い上げられた「焦り、苛立ち、激しい怒り」の感情がドロドロに溶け合った「心火の邪気」であった。
ズババババババッ!!
「ぐわぁぁぁぁぁッ!?」
壱号自身がその邪気を力任せに体内に取り込んだ瞬間、彼の右腕から胸元にかけて、真っ赤な炎のような腫れと不気味な熱暴走(激しい炎症)が噴き出した!
「壱号……ッ!? お前、自分の身体を破滅させてまで……そんな無茶な邪気を取り込んで……ッ!」
哭が息をのむ。
「ハハハ……ハハハハハッ! 力こそがすべてだ! この強烈な『心火の熱』をもって、お前もろともこの大聖堂ごと焼き尽くしてくれるわぁぁぁッ!」
壱号の右手が赤く沸騰し、その掌から熱風を伴った激しい爆破気が放たれようとしていた!
「……危険です! 自らの命を削って『心火』を暴走させています!」
枢がすばやく前方へ踏み出した。
「心火が暴走すれば、激しい精神異常と身体の組織破壊が起こり、助かりません! 壱号さん自身も、その熱と痛みに狂わされているのです!」
「枢先生……! あいつを……壱号を助けられるのか……!?」
哭が叫ぶ。
「ええ! どれほど熱が暴走していようと、心臓の熱を直接冷却し、狂気を鎮める特効穴があります!」
枢が往診鞄から、極太の純銀製清熱鍼を取り出した!
「ハク、リナ! 心臓と全身の激しい熱を瞬時に冷まし、炎症を抑える『石膏』と『知母』の氷結清熱ミストを壱号さんの右手へ直射しなさい!」
「了解です枢先生! 氷結清熱ミスト、噴射ッ!!」
白い冷気が壱号の右手を包み込み、赤く沸騰していた熱気を一瞬だけ冷却する!
「今です、哭さん! 壱号さんの腕を固定しなさい!」
「おうッ! 壱号……動くなぁぁぁッ!」
哭が覚醒した速度で壱号の背後へ回り込み、その右腕をしっかりと抑え込んだ!
「放せ……放せぇぇぇッ! 熱い……身体の中が灼熱で焼け死にそうだぁぁぁッ!」
狂乱する壱号!
「その熱、私がすべて引き抜きます!」
シュパッ――!!
枢の放った純銀鍼が、壱号の「手のひらの中央、手を握った時に中指と薬指の先が当たる凹み」へ、深部まで的確に刺入された!
打ち込まれたのは、心臓の過剰な熱を冷まし、激しい炎症や精神の興奮を即座に鎮める絶対の名穴――『労宮』!
ジューッ……!!
まるで赤く熱した鉄を水に入れたかのような凄まじい蒸気が、壱号の手のひらから立ち上った!
「――つ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!?!? 熱が……手のひらから……抜け出ていく……ッ!?」
壱号の目が開かれ、真っ赤に腫れ上がっていた右腕の熱と炎症が、見る見るうちに収まっていく!
「『労宮』は、心包経の滎火穴であり、心臓の熱(心火)を直接体外へ放熱させる最高の清熱穴! 精神の異常な興奮、手のひらの熱感、ストレスによる激しい感情の爆発を速やかに鎮静化させます!」
「あ……あぁ……」
壱号の膝が折れ、その場に倒れ込んだ。
濁っていた彼の瞳から不気味な赤黒い光が消え、静かな困惑と……懐かしい過去の光が戻っていた。
「……零号……お前……」
壱号が弱々しく手を伸ばす。
「壱号……! 気がついたか……ッ!」
哭がその手を強く握り締めた。
「……すまん……。私は……黒穴会の呪いの針に心を蝕まれ……操られていた……。王都の地下……大聖堂の地下最深部に……奴らの本拠地『黒穴の回廊』がある……。そこに……全大陸の生気を吸い上げる『真の悪鍼・極』が安置されているのだ……」
「真の悪鍼……!」
ガストンが息をのむ。
「……零号……往診チームの者たちよ……。王都の人々を……大陸を……救ってくれ……ッ」
壱号はそう言い残すと、深く温かな呼吸とともに意識を失い、静かな眠りについた。
「……任せとけ、壱号」
哭が優しく壱号を床へ横たえ、ゆっくりと立ち上がった。その背中には、一切の迷いはなかった。
「相棒……行こうぜ。王都の地下へ……全ての決着をつけに!」
「はい! 行きましょう!」
枢が力強く頷き、往診チームは大聖堂の最深部、暗黒の地下回廊へと足を踏み入れていくのだった。
第594話をお読みいただき、ありがとうございました!
暴走する壱号の「心火の熱」を、枢先生が『労宮』の刺鍼によって見事に冷まし、正気を取り戻させる熱き救命バトルをお届けいたしました。
さて、今回は作中で枢先生が壱号の激しい熱感と精神の狂乱、組織の炎症を解消した「心火上炎(激しいストレスや熱のこもりによる精神興奮・炎症)」の病理に基づき、日常で「イライラしてカッとなりやすい、手のひらがほてって熱い、口内炎や顔ののぼせ・赤みが気になる、ストレスで心が落ち着かない時」に、体内の不快な熱をすーっと冷まして心を落ち着かせてくれる名穴をご紹介します。
今回登場した『労宮』は、手のひらの中央にあり、手を軽く握った時に中指(または薬指)の指先が当たる凹みにあります。
東洋医学において『労宮』は、心を包む「手厥陰心包経」の滎火穴であり、文字通り**「労が集まる宮(場所)」**を意味しています。過度なストレスや緊張、精神的な疲労によって心臓に「熱」がこもった際、このツボを刺激することで体内の余分な熱を効率よく放熱させ、興奮した自律神経を鎮めて強いリラックス効果をもたらす絶大な消炎・鎮静穴です。
ケアする場合は、反対の手の親指の腹を『労宮』の凹みに当て、手の甲に向かって痛気持ちいい強さで5秒間じわーっと押し込みます。これを息をゆっくり吐きながら左右5回ずつ試してみてください!
手のひらのほてりや胸のイライラがすーっと冷めて、心が穏やかに整っていきますよ!
次なる第595話は、明日**8月4日(火曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
12時の更新をどうぞお楽しみに!




