第593話「大聖堂の闇!壱号の変貌と内関の防壁」
恐怖の邪気によって閉塞した王都ガルフレイド。往診チームは大聖堂の地下深くへと足を踏み入れ、ついに黒穴会の本陣、そして泣き別れたはずの「壱号」と対峙します。
王都の中心に鎮座する大聖堂。かつては人々の祈りと賛美歌が響き渡っていた聖なる大聖堂の礼拝堂は、今や赤黒い霧と不気味な静寂に包まれていた。
ステンドグラスから差し込むかすかな月光が、床一面に敷き詰められた怪しい黒い刺青の陣形を浮かび上がらせている。
「……ここが、大聖堂の地下へと続く大礼拝堂か……」
ガストンが戦斧を深く構え、慎重に周囲を警戒する。
「気をつけてください。この空間全体が、人々の『心』の気をすり潰し、負の感情を増幅させる巨大な結界となっています」
枢が往診鞄のベルトを握り締め、祭壇を見つめた。
祭壇の前に、一人の男が静かに背を向けて立っていた。
黒地に金の刺青が施された長袍を纏い、その背中からは激しい黒紫色の邪気が脈打つように溢れ出している。
「……待っていたぞ、零号……いや、哭よ」
男がゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、かつて地下組織『黒穴会』の凄惨な訓練所で、幼い哭を庇い、命を落としたはずの男――**『壱号』であった。
「壱号……ッ!」
哭の呼吸が激しく乱れ、短剣を握る手がわずかに震えた。
「生きていたなら……なぜだ!? なぜお前が黒穴会の幹部として、王都の人々を苦しめていやがるんだ! あの時、お前は俺に『光の下で生きろ』と言ってくれたはずじゃねぇのかッ!?」
「ククク……ハハハハハッ!」
壱号は天を仰ぎ、乾いた嘲笑を響かせた。その両目は濁った漆黒に染まり、かつての優しさは微塵も感じられない。
「甘いな、零号。あの時の私は、己の無力さゆえに途中で脱落した敗北者に過ぎん。だが、教皇ゼノの冷気と、我が黒穴会が誇る最高峰の悪鍼――『吸気絶命鍼』の力を得た今の私は違う!」
壱号が右手を掲げると、祭壇の奥から巨大な漆黒の針が数本浮遊し、往診チーム全体へ向けて禍々しい尖端を向けた!
「この王都の何十万もの人間から吸い上げた『恐怖と不安の気』を、この絶命鍼に充填する! 気が完全に満ちた時、大陸全土の人々の自律神経は麻痺し、我ら黒穴会の完全なる支配が完成するのだ!」
「そんなことを……させてまるかぁぁぁッ!」
ガストンが石畳を蹴り破り、黄金の気を纏った巨斧を壱号へ向けて振り下ろした!
「豪力・絆の太刀割りッ!」
バチィィィィィンッ!!!!!
「何……ッ!?」
ガストンの渾身の一撃は、壱号の周囲に展開された赤黒い気の力場によって、容易く受け止められた! それどころか、斧に接触した瞬間、激しい衝撃波がガストンを襲い、巨体が後方へ大きく吹き飛ばされた!
「ガストンさんッ!」
ネネが叫ぶ。
「無駄だ! この絶命の力場は、相手の『心包』……すなわち心を包む防衛壁を直接打ち破り、激しい動悸と胸の締め付けを引き起こす!」
壱号が指を弾くと、無数の赤黒い気が触手となって往診チーム全体を包み込んだ!
「グッ……!? 胸が……息が……吸えない……ッ!」
ガストンが胸を押さえて崩れ落ち、ネネとハク、リナも強烈な胸苦しさと眩暈に膝をついた。
「……くっ……! 心包経の気が邪気によって閉塞し、胸の中熱(内臓の鬱熱)と激しい動悸が引き起こされている……!」
枢が冷汗を流しながらも、往診鞄から二本の白銀鍼を取り出した!
「人を傷つけ、恐怖で支配する鍼など……東洋医学の道ではありません! 仲間たちの心を、命を……私が守るッ!」
枢の指先が、流星の如き速度で自らと仲間たちの腕を駆け抜ける!
「ハク、リナ! 胸の滞りを散らし、横隔膜の緊張を緩める『木香』と『丁香』の理気アロマを全員へ!」
「了解です枢先生! 理気胸開アロマ、噴射ッ!!」
爽やかでスパイシーな生薬の香りが充満し、胸を締め付けていた重苦しい邪気がわずかに散る!
「そして……胸の痛みと動悸を鎮め、心包の防壁を完璧に蘇らせる最高峰の要穴……!」
シュパッ! シュパッ――!!
枢の手から放たれた白銀鍼が、仲間たちの「手首の内側の横シワから指幅3本分ひじに向かった、2本の筋の間」**にある絶対の名穴――『内関』へと正確無比に打ち込まれた!
ドクゥゥゥゥゥンッ!!
「――つ……あぁぁぁぁッ! 胸のつかえが……スッと消えていく……ッ!」
ガストンが大きく息を吸い込み、跳ね起きるように立ち上がった!
「『内関』は、心包経の要穴であり、胸・胃・心臓のトラブルを治める奇経八脈の霊穴! 胸の締め付け、激しい動悸、吐き気やストレスによる自律神経の混乱を一瞬で鎮める最高峰の防護穴です!」
「 clinical に見て……相棒、効いたぜッ!」
哭の瞳に、揺るぎない覚醒の光が宿った!
『内関』の刺鍼によって胸の抑圧から完全に解放された哭が、白銀の気流を纏って跳躍する!
「壱号……! お前がどれほど闇に落ちようと、俺はお前を諦めねぇ! 俺を救ってくれた『あの頃のお前』を取り戻すために……俺の刃でお前の迷いを断ち切るッ!」
「戯言をぉぉぉッ! 吸気絶命鍼、全開照射ッ!」
壱号と哭の気が大礼拝堂の真ん中で激突し、爆発的な衝撃波が全域を駆け抜けた――!
第593話をお読みいただき、ありがとうございました!
大聖堂の地下で繰り広げられる壱号との過酷な決戦! 闇に落ちたかつての兄貴分を救うため、哭の熱き魂と枢先生の『内関』が火を噴きました。
さて、今回は作中で枢先生がガストンさんたちの激しい胸の苦しみや動悸、ストレスによる息苦しさを解消した「心包(自律神経・循環器系)の機能低下と胸部の気滞」の病理に基づき、日常で「ストレスで胸が苦しい・息苦しい、緊張で動悸や吐き気がする、乗り物酔いや胃のムカムカがある」という時に、胸のつかえをスーッと通して自律神経を整えてくれる絶対の名穴をご紹介します。
今回登場した『内関』は、手のひら側の手首の横シワから指幅3本分(人差し指・中指・薬指をそろえた幅)肘に向かったところにあり、中央を通る2本の太い腱(橈側手根屈筋腱と長掌筋腱)の間にあります。
東洋医学において『内関』は、心を包んで守る「手厥陰心包経」の要穴であり、文字通り**「内なる関所(病魔や精神の乱れが胸や心に入り込むのを防ぐ関所)」**を意味しています。精神的なプレッシャーや自律神経の乱れから来る動悸、息苦しさ、胸の痛み、さらには胃の不快感や吐き気に対して、絶大な鎮静効果と調整能力を発揮する万能穴です。
ケアする場合は、反対の手の親指の腹を『内関』の2本の筋の間に当て、腕の奥に向かって痛気持ちいい強さで5秒間じわーっと押し込みます。これを息をゆっくり吐きながら左右5回ずつ試してみてください!
胸の奥のつかえがすーっと通り、動悸や胃のムカムカが和らいで呼吸が深くなりますよ!
次なる第594話は、本日**8月3日(月曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております!
壱号との死闘の行方と、大聖堂の地下深く眠る「真の悪鍼」の正体とは――!? 21時の更新をどうぞお楽しみに!




