第592話「異変の王都!閉塞する街と神門の解放」
地下連絡坑道を抜け出し、ついに王都ガルフレイドへと辿り着いた往診チーム。しかし、待ち受けていたのは賑やかな王都の姿ではなく、不気味な静寂と人々の異様な異変でした。王都の地下で動き出す真の陰謀とは――。
螺旋階段を登り切り、古びた重い鉄扉を押し開けると、眩しい日光が往診チームの視界を打ち払った。
だが、そこに広がっていたのは、往診チームの誰もが想像していた「活気あふれる大都市の日常」ではなかった。
無数にそびえ立つ美しい石造りの建物、整然と区画された石畳の大通り、豪華な大聖堂――街の景観そのものは間違いなく大陸最高の繁栄を誇る王都ガルフレイドの姿である。しかし、広大な通りには人っ子一人おらず、開いている店舗の窓や扉もすべて固く閉ざされていた。
「……なんだ、これは……?」
ガストンが戦斧を担ぎ直したまま、周囲をぐるりと見回して呟いた。
「おいおい、昼間だぞ? いくらノース・ヴェイルの騒動があったからって、王都がこんなにしーんと静まり返ってるなんておかしいだろ……」
「気配がないわけではありません……」
枢が静かな声で言った。
往診鞄を手に取り、通りに面した一軒の民家の窓へと近づく。
「なかの気を感じます。人々は外に出ていないだけで……家の中に潜んでいます。ですが、この気血の揺らぎは……」
「……相棒」
隠密・哭が短い警告を発した。
彼の視線の先、大通りを隔てた石造りの民家の軒先で、一人の町人がふらりと扉を開けて出てきたところだった。
「あ……あの……すみません!」
ネネがすかさず駆け寄ろうとした。
「私たちはノース・ヴェイルから来た往診チームです! この街で一体なにが――」
「来ないでくれぇぇぇッ!!」
町人は悲痛な叫び声を上げ、頭を抱えて石畳の上にうずくまった。
その顔は土気色に蒼白み、両目は血走り、全身がガタガタと激しく痙攣している。
「話しかけないでくれ! 音を立てないでくれ! 息を吸うだけで……胸が押し潰されそうだ! 頭の中で声が……声が聞こえるんだぁぁッ!」
「……ッ!? これは……極度の『不安と恐怖』による心身の虚脱と閉塞状態……!」
枢がすばやく町人の元へ駆け寄り、その手首の脈を診た。
「脈が細く、不規則に打ち震えています……。単なる病気ではありません。精神の根本を司る『心』の気が著しく消耗し、不安感とパニックで自律神経が暴走しています!」
「 clinical に見て……相棒、街全体から同じ嫌な気流を感じるぜ」
哭が短剣を構え、天を仰いだ。
「王都の空気をよく見てみな。かすかだが……黒い靄のような気が、街全体をすっぽりと覆ってやがる」
「黒い靄……! まさか、黒穴会の……!?」
ガストンが怒りで眉を吊り上げる。
「はい」
枢が冷徹に状況を分析する。
「教皇ゼノやノース・ヴェイルの寒気は、王都の人々の『気』を外に漏らさず、この街の中に閉じ込めるための巨大な蓋に過ぎなかったのです。そして今、王都の地下から直接、人々の心と魂を蝕む『恐怖の邪気』が撒き散らされている……!」
「そんな……! じゃあ王都の人たちは、みんな毎日こんな恐怖に怯えて暮らしてるの……!?」
ネネが言葉を詰まらせる。
「ヒヒヒ……その通りだとも……ッ!」
突如、石畳の影から、ぬらりと不気味な人影が立ち上がった。
黒い布を全身に纏い、顔に黒い穴の刺青を施した男――黒穴会の密偵「影針」だ!
「教皇ゼノの回収した寒気と、我が『黒穴会』の悪鍼の術が合わさり、この王都は今や巨大な『絶望の牢獄』と化した! 人々は不安とパニックで一歩も動けず、精神から溢れ出る生気を地下の本陣へ吸い上げられ続けるのだ!」
「人をなんだと思っていやがるッ!」
ガストンが踏み込み、斧を振り下ろそうとする!
「無駄だ! 恐怖の邪気はこの王都の空気そのもの! お前たちが息を吸うたびに、その心は狂気と絶望に侵され――」
「そこまでです」
枢の静かな言葉が、影針の言葉を切り裂いた。
「恐怖や不安が心を支配するのは、精神の居場所である『心経』の脈が邪気によって塞がれているからです。ならば、心を安心させ、精神の扉を開くツボを刺激すれば……その支配は一瞬で崩れ去ります!」
「ハク、リナ! 心の緊張を解きほぐす『遠志』と『酸棗仁』を配合した安神アロマを全員へ!」
「了解です枢先生! 精神安寧アロマ、噴射ッ!!」
甘く穏やかな生薬の香りが通りに広がり、うずくまっていた町人の呼吸がわずかに落ち着く!
「そして……精神の要所であり、心の扉を開く最高峰のツボ……!」
シュパッ――!!
枢の手から打ち出された白銀の鍼が、うずくまる町人の「手首の内側の横シワ、小指側の凹み」へ寸分の狂いもなく刺入された!
打ち込まれたのは、精神の興奮と激しい不安を鎮め、心に安らぎを取り戻す絶対の名穴――『神門』!
ジュワァァァァァッ……!
「――あ……ぁ……ッ!?」
町人の全身から、黒い濁った気がスーッと抜け落ちていった!
激しい手足の震えがピタリと止まり、血走っていた瞳に温かな光が戻ってくる。
「胸の……胸の仕えが取れた……! 頭の中が、すごく静かで……温かい……!」
町人が自らの両手を見つめ、涙を流して立ち上がった。
「『神門』は、心経の気が注ぐ重要なツボです! 激しい不安やパニック、恐怖で心が壊れそうな時、このツボを正しく刺激すれば、心は瞬時に平穏を取り戻します!」
「な……何だとぉぉぉッ!? 我が恐怖の支配を、たった一本の鍼で解いたというのかぁぁッ!?」
影針が激動する!
「 clinical に見て……お前たちの浅はかな企みも、相棒の鍼の前には通用しねぇよ!」
哭が影のように踏み込み、短剣の一撃で影針の気を打ち砕いた!
「グギャァァァァッ! だが……だが王都の地下には……壱号様と……真の悪鍼が待っているのだぁぁぁ……ッ!」
影針は悲鳴を残し、黒い煙となって消え去った。
◇
「大丈夫ですか?」
枢が優しく手を差し伸べると、町人は深く頭を下げた。
「ありがとう……ありがとうございます、先生! 王都の地下……大聖堂の地下深くから、あの不気味な邪気が流れてきているんです!」
「大聖堂の地下……やはり、そこに本陣があるのですね」
枢は力強く頷き、仲間たちを振り返った。
「行きましょう、皆さん! 王都の人々を救い、すべての元凶である黒穴会との決着をつけるために!」
往診チームは、王都の最奥にそびえ立つ大聖堂を目指し、暗雲立ち込める通りを走り出した!
第592話をお読みいただき、ありがとうございました!
異変に包まれた王都ガルフレイドにて、黒穴会の恐怖の術を破り、大聖堂の地下へと向かう往診チーム! 長編連続ドラマ編、いよいよクライマックスの舞台へと進んでいきます。
さて、今回は作中で枢先生が王都の町人の激しい不安やパニック、パニックによる動悸や胸の苦しみを解消した「心(精神)の機能低下と気の乱れ」の病理に基づき、日常で「強いプレッシャーや不安で心が落ち着かない、緊張で胸がドキドキする、夜考え事をして眠れない」という時に、心に安心感を取り戻し、自律神経をリラックスさせてくれる名穴をご紹介します。
今回登場した『神門』は、手首の内側(手のひら側)の横シワの上にあり、小指側の端にある固いスジ(尺側手根屈筋腱)の内側の凹みにあります。
ケアする場合は、反対の手の親指の腹を『神門』の凹みに当て、骨のキワに向かって痛気持ちいい強さで5秒間じわーっと押し込みます。これを息をゆっくり吐きながら左右5回ずつ試してみてください!
乱れた脈や心の動揺がすーっと鎮まり、穏やかで落ち着いた気持ちを取り戻すことができますよ!
次なる第593話は、明日**8月3日(月曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
大聖堂の地下で待ち受ける「壱号」との再会と、王都決戦の行方は――!? 12時の更新をどうぞお楽しみに!




