第589話「刻まれた謎の黒穴紋!哭の過去と新たなる戦慄」
解凍されたノース・ヴェイルの地下最深部で発見されたのは、単なるモンスターの巣窟ではありませんでした。教皇ゼノすら一介の「捨て駒」に過ぎなかったという恐るべき真実、そして往診チームの絆と隠密・哭の知られざる過去が絡み合う、息をのむ怒涛の連続ストーリーが幕を開けます。毎話のラストまで目が離せない衝撃の新展開を、ぜひお楽しみください!
――カツン、カツン、と。
地下四層の奥、闇の静寂の中に往診チームの足音だけが重く響いていた。
ドカ食いの罠を破った先、滑らかな漆黒の石造りの廊下がどこまでもまっすぐに伸びている。これまでの泥や氷に覆われた洞窟とは明らかに異なる、何者かが古代の技術で建造した精密な構造物――。
「……おい、相棒。なんだか様子がおかしくねぇか?」
隠密・哭が、いつもの不敵な笑みを完全に消し、低く引き締まった声で呟いた。
彼の手はすでに短剣の柄にかかっているが、その指先はわずかに強張っている。
「ええ……。空気の質が完全に変わりました」
枢は往診鞄を強く握り直し、足元をランタンの明かりで照らした。
「ここはただの地下道ではありません。気血の巡りを遮断し、外部からの干渉を完全に拒絶する……極めて特殊な『気密空間』です」
「気密空間……? 枢先生、教皇ゼノがこんなものを作ってたの?」
ネネが不安そうに枢の袖を引っ張る。
「いいえ、ネネさん。教皇ゼノの力は『寒気』そのものを操るものでした。ですが、この壁面に施された装飾と加工は……冷やすためではなく、**『何かを永久に閉じ込め、外部から見えなくするため』のものです」
「何だって……!? じゃあ、ゼノの野郎は、この地下に眠る『何か』の上に乗っかって威張り散らしてただと!?」
ガストンが目を剥き、巨大な戦斧を担ぎ直した。
その時――通路の突き当たりにある重厚な黒鉄の大門が、重低音を響かせてゆっくりと自動で開いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!
大門の向こうに広がっていたのは、広大な円形の間だった。
天井は遥か高く、壁一面にはびっしりと不気味な黒い石碑が埋め込まれている。そして、その中央に鎮座していたのは……氷漬けの怪物でも、凶悪な病魔でもなかった。
そこに置かれていたのは、一基の「漆黒の祭壇」と、その上に浮遊する一本の「赤黒く濁った巨大な針」であった。
「……ッ!? な……なんだありゃあ……ッ! 針……か!?」
ガストンが息をのむ。
「……ただの針ではありません」
枢の瞳が激しく揺れた。
「あの針の周囲の空気が歪んでいます。あれは……人の身体の中を巡る『気』を自然の法則に逆らって強制的に吸い上げ、溜め込むための『吸気悪鍼』……!」
「吸い上げる……? 気を吸い上げて、一体どうするってんだよ!?」
「ハハハ……決まっているだろう。気血を吸い上げ、選ばれし者のみが『永遠の生命』を得るためだ」
暗闇の深淵から、低くかすれた冷酷な声が響き渡った。
「……ッ! 誰だッ!?」
ガストンが戦斧を前に構え、ネネを背後に庇う!
暗闇から姿を現したのは、黒い長籠を纏い、顔を不気味な青銅の仮面で覆った一人の男だった。
その胸元には、二本の交差した針と不気味な黒い穴を描いた「漆黒の紋章」が刻まれていた。
「我が名は『黒穴会』……第三の針術師、蛇骨。……教皇ゼノという哀れな氷の道化師が倒れたことで、ようやくこの古代遺跡の封印が完全に解けた」
「黒穴会……!?」
枢が眉をひそめる。
その言葉を聞いた瞬間――往診チームの最前線にいた哭の全身が、まるで雷に打たれたように激しく震え出した。
「……哭さん?」
ハクとリナが顔を見合わせ、哭の異変に気づく。
哭は一言も発しない。だが、彼の瞳は恐ろしいほどの怒りと、それに勝る深い絶望に塗られていた。
哭は無言のまま、自らの左腕の袖をゆっくりと捲り上げた。
「……な……なんだ、それ……ッ!?」
ガストンが目を見開く。
哭の引き締まった左前腕の皮膚には――仮面の男・蛇骨の胸元にあるものと寸分違わぬ、「二本の交差した針と黒い穴の紋章」が、黒い刺青のように深く刻み込まれていたのだ!
「く……哭さん……それって……」
ネネの声が震える。
「フフフ……ハハハハハ! 久しぶりだな、裏切り者の『零号』……いや、今は『哭』と名乗っているのだったか?」
仮面の男・蛇骨が不気味に嘲笑う。
「お前が往診チームの隠密としてコソコソと生き延びていたとはな。我ら『黒穴会』がお前を忘れたとでも思っていたのか?」
「……黙れ」
哭の口から、氷のように冷たい声が漏れ出た。
「……俺は……お前たちの道具であることを捨てたはずだ……ッ!」
「 clinical に見て……相棒」
哭が震える声で、後ろにいる枢へ視線を向けずに語りかけた。
「すまねぇ……。俺は……ずっとアンタたちに隠していたことがある。俺の過去……俺がどこから来た人間なのかを……」
「哭さん、今はそんな話をしている場合では――」
枢が前に出ようとした瞬間!
シュバッ――!!
仮面の男・蛇骨の手から放たれた赤黒い針の気が、哭の足元を爆砕した!
「くっ……! 邪悪な気……ッ!」
ガストンが飛び退く!
「無駄だ! この地下遺跡は、我が『黒穴会』が数百年にわたり、大陸全土の人間から吸い上げた『生命の気』を蓄積する特注の巨大装置!」
蛇骨が両手を広げると、浮遊していた巨大な吸気悪鍼が激しく赤黒い光を放ち始めた!
「教皇ゼノの冷気も、ノース・ヴェイルの冬も、すべてはこの遺跡の『気』を外部に悟らせないためのカモフラージュに過ぎなかったのだ! そして今、全大陸の気血がこの針へと集束する!」
「そんな……! じゃあ、ガルフレイド大陸の人たちがずっと苦しんでいたのは……寒さだけじゃなくて、生命の力を吸い取られていたから……!?」
ネネが唇を噛み締める。
「真実を知ったところで、もう遅い!」
蛇骨が不敵に指を鳴らすと、黒鉄の祭壇から赤黒い触手のような気が溢れ出し、往診チーム全体を逃げ場のない円形の檻となって閉じ込めた!
「くそっ! 閉じ込められたぞ! 突破できねぇ!」
ガストンが戦斧で壁を叩くが、弾き返されて痺れに悶絶する。
「……相棒」
哭が短剣を握り直し、ゆっくりと枢の前に立ちふさがった。その背中は、どこか哀しげで、だが決意に満ちていた。
「俺の身体には、奴らの『呪いの針』が埋め込まれている。奴らの狙いは俺だ……。俺が奴を食い止める。その隙にアンタたちは――」
「バカなことを言わないでくださいッ!!」
あの温厚な枢が、大声で哭の言葉を遮った。
「往診チームに、誰かを置いて逃げるという選択肢はありません! 哭さんがどんな過去を背負っていようと、あなたは私たちの『大切な仲間』です!」
枢は往診鞄を強く抱え直し、真直ぐに哭の目を見つめた。
「あなたの腕にあるその紋章……ただの刺青ではありませんね。過剰な気血の停滞と、外部からの邪気で強引に作られた『人造的な経絡の歪み』**です! 痛むはずです……ずっと一人でその苦しみを耐えていたのですね!」
「……枢……お前……」
哭の瞳に、激しい動揺が走る。
「解き明かしてみせます! 黒穴会の陰謀も、あなたの身体を蝕むその呪いも、私たちの東洋医学で完全に撃ち破ってみせます!」
「ハハハ! 青臭いガキめ! 呪いの針の恐ろしさも知らぬまま、命を散らすが良い!」
蛇骨が手を掲げると、巨大な吸気悪鍼から放たれた赤黒い閃光が、往診チーム全体を呑み込むべく急降下してきた――!!
第589話をお読みいただき、ありがとうございました!
いかがでしたでしょうか!? 教皇ゼノの撃破から一転、物語は「黒穴会」という巨大な謎の組織と、隠密・哭の隠された過去を巡る本格サスペンス&バトルへと突入いたしました!
さて、今回は作中で枢先生が哭の腕の紋章に見抜いた「人造的な気の停滞(強いストレスや隠し事、抑圧された感情によって胸や手足の気の流れが途絶え、心身が激しく痛む状態)」の病理に基づき、日常で「強いプレッシャーやストレスで胸がキュッと苦しい、ため息ばかり出る、肩や首の筋肉が緊張でガチガチに凝り固まっている時」に、滞った「気」を一気に巡らせて心を解き放ち、自律神経を整えてくれる最高峰の気めぐり名穴をお届けします。
今回ご紹介するのは、手首の内側にある、心の緊張と気の滞りをほぐす最高峰の名穴『内関』です。
場所は、**手首の内側にある一番太い横シワから、指幅3本分ひじに向かって上がったところ(腕の中央を走る2本の筋と筋の間)**にあります。
東洋医学において『内関』は、心と胃腸を繋ぐ「心包経」の要穴であり、プレッシャーやストレスで「気」が滞った時に、胸のつかえをすーっと通してくれる最高のスイッチです。強い不安や緊張を感じている時、この『内関』を押すとズーンと心地よい響きを感じます。ここを適切に刺激することで、作中の枢先生が哭の心を受け止めたように、滞っていた気が全身へ巡り、胸の苦しさやイライラ、車酔いや胃のムカムカが一気に和らいでいきます。
ケアする場合は、反対の親指で『内関』を挟み込むように持ち、ゆっくり息を吐きながら5秒間じわーっと押すのを左右5回ずつおこなってみてください。心がすーっと軽くなり、本来の自分を取り戻すことができますよ!
次なる第590話は、本日**8月1日(土曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております!
赤黒い閃光が襲いかかる絶体絶命の柱の中で、枢先生が見出す「逆転の解法」とは!? そして哭の運命は!? 衝撃の新展開をどうぞお楽しみに!




