第579話「絶陽のコアと、命門の回陽刺」
手首の名穴『太淵』の刺鍼と活血生薬の連携により、絶血の氷帝・アルヴァが解き放った「寒凝血瘀(血脈の凍結)」を打ち破った枢先生率いる往診チーム。手傷を負ったアルヴァは、大氷結晶宮の最深部――古都アバランシュ全土の寒邪を統括する『絶対零度のコア』へと逃れ、大陸すべての熱(陽気)を自らに取り込む最終暴走を開始します。冷気によって生命の根本である「腎陽(じんよう:体内の原熱)」を激しく損傷し、全身が凍え爛れる「命門火衰」の極限状況の中、枢先生が放つ起死回生の奥義とは!?
大氷結晶宮の最奥――そこは、天を突く巨大な黒銀の氷結晶柱がそびえ立つ、異様なる「絶陰の空間」であった。
「ぐふっ……ハァ、ハァ……! 許さん……絶対に許さんぞ、下等な人間どもめ……ッ!」
黒銀の氷結晶柱の中央に身を捧げるように融合したアルヴァが、血走った瞳で往診チームを睨みつける。
彼が取り込んだ『絶対零度のコア』が狂乱の如く明滅し、ガルフレイド全土の土脈・水脈、そして数百年の間氷漬けにされてきた古都の住民たちの胸の奥に残る「最後の体温(微小な陽気)」までを、極太の黒い冷気ラインとなって猛烈に吸引し始めた。
ゴォォォォォォォォッ!!
「な……なんだこの寒気は……ッ!? 今までの冷気と次元が違う……! 呼吸をするだけで、肺の奥から全身の骨までがミシミシと粉砕されそうだ……ッ!」
ガストンが必死に踏ん張ろうとするが、膝がガクガクと震え、全身の毛穴から冷や汗が噴き出した瞬間にそれが凍りついて白い霜へと変わる。
「 clinical に見て、最悪だ……ッ! こいつ、身体の表面や血脈どころか……人間の『生命のコンロ』そのもの……『腎陽』の熱を削り取りに来てやがる……ッ!」
哭が歯を激しくガチガチと鳴らし、両腕を抱きしめながら床へ膝をついた。
「……命門の火(体内の根本的な熱源)が弱まり、全身が衰弱・強直していく……『命門火衰』の病理……! このままでは、往診チームも含め、この大陸に生きる全ての生命の根源たる気が枯渇してしまいます……!」
枢の白銀の医療着にも凄まじい霜が降り、彼の吐く息は真っ白な霧となって空間に消えていく。
だが、その瞳に宿る熱い温もりと不屈の情熱は、決して途切れることはなかった。
枢はガタガタと震える往診鞄のベルトを強く握り締め、最深部から黄金の輝きを解き放つ特製の長鍼を取り出した。
それは、背骨のライン――人間の生命の原熱(命門の火)が宿る絶対的聖域へ打ち込むための神鍼!
「ハク、リナ! 体内の冷えを極限まで打ち払い、壊滅しかけた『腎陽』を一気に爆発させる最高峰の温補薬剤――『附子』『肉桂』を主薬とした『四逆加人参湯』の超高圧熱性を展開しなさい!」
「了解です、枢先生! 破陰救逆・生命回陽蒸気、限界を超えて噴霧ッ!!」
ハクとリナが命懸けで大釜の安全弁を解放し、眩いばかりの黄金の生薬蒸気が吹き荒れる黒い冷気を押し返した!
「ガストンさん、哭! お互いの背中を温め合い、姿勢を保持してください! 今、皆さんの命のコンロ(命門の火)を再点火します!」
シュッ――!!
枢の指先が閃光と化し、ガストンの腰の後ろ――第2腰椎棘突起(へその真裏)の下にある、人体の原熱の宿る絶対穴『命門』、そしてその両脇にある『腎兪』へと聖鍼が突き刺さった!
さらに、枢は旋転補法の手技を加えながら、鍼の柄(鍼柄)に特製の「温灸」をセットし、一瞬で着火した!
メラッ……!
「――ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!? こ、腰の奥から……大きな太陽が生まれたみたいな熱さが湧き上がってくるぅぅぅッ!?」
ガストンが叫んだ瞬間、彼の腰から背骨を通じて全身へと、熱狂的な体温の波が怒涛の如く駆け巡った!
「寒気が……消えたッ!? 体の底から力(原気)がドバドバと湧き出して、全身が燃えるように温かいぞぉぉッ!」
ガストンが豪快に起き上がり、戦斧をぶんぶんと振り回して周囲の氷を粉砕する!
「『命門』は、人体の根本的な熱源(命門の火)を宿す最重要穴! 寒邪によって生命の根源たる陽気が消えかけた時、この『命門』に温熱の刺激(温針・お灸)を与えることで、体内の原熱を一瞬で爆発的に呼び覚まし、死の極寒から命を救い出すことができるのです!」
枢は間髪入れず、哭、ネネ、ガイルの『命門』と『腎兪』へも温熱刺鍼を施していく。
全員の身体からメラメラと燃え上がるような熱気(陽気)が立ち上り、絶陰の空間に立ち込めていた黒い冷気が次々と蒸発していった!
「な……何という熱だ……!? 我が『絶対零度』を、人間のちっぽけな体温が凌駕するだと……!?」
黒銀の結晶柱と融合したアルヴァが、激しいショックに絶叫する。
「 clinical に見て、これが俺たちの生きている『命の火』だッ! 影疾風・陽気回帰一閃ッ!」
命門の火を取り戻した哭が滑空し、アルヴァと『絶対零度のコア』を結ぶ冷気ラインを完全に叩き割った!
「ガイルさん、ガストンさん! コアの経絡を砕きなさい!」
「おうよぉぉぉッ! ガルフレイドの春を取り戻すぜぇぇッ!」
「我が過ちに、今こそ終止符をッ!」
ガストンとガイルの同時打撃が、黒銀の氷結晶柱へ炸裂した!
バリバリバリバリッ――!!!!
「グワァァァァァァァッ!? 絶陰の……我が野望がぁぁぁッ……!」
アルヴァの悲鳴と共に、大陸の熱を吸い上げていた『絶対零度のコア』が、粉々の光の粒子となって砕け散ったのだった!
◇
コアの崩壊と同時に、大氷結晶宮、そして古都アバランシュ全体を包んでいた数千年の青白い氷が、まるで春の陽光を浴びた残雪のようにスーッと溶け去っていく。
「……あ……温かい……」
「父さん……母さん……! 私たち、生きてる……!?」
氷漬けから解放された古都の住民たちが、次々と瞳を開き、互いを抱き合って歓喜の涙を流し始めた。
数百年の時を超え、凍てついていた彼らの脈動と笑顔が、完全にこの大地へと戻ってきたのだ。
「やりましたね、枢先生……! 古都アバランシュに、本当の春が来ました……!」
ネネが涙を拭いながら微笑む。
「ええ。どれほど厳しい冬であっても、人の体内に宿る『命門の火』を正しく温めれば、必ず春は訪れるのです」
枢は温かな春風が吹き抜ける古都の街並みを見つめ、優しく微笑むのだった。
第579話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、大氷結晶宮の最深部にて、絶血の氷帝・アルヴァが解き放った生命の根本を脅かす悪夢の病理「命門火衰(体内の原熱の枯渇)」に対し、枢先生が腰の最重要穴『命門』への温熱刺鍼(温針・お灸)によって生命の原熱を爆発的に蘇らせ、見事に絶陰のコアを粉砕して古都アバランシュの住民たちを解放する感動の決着劇をお届けいたしました!
さて、今回は作中でガストンさんや哭が襲撃され、枢先生が速やかに解決した「命門火衰(極度の冷えによる体力の衰弱・お腹や腰の底冷え・生命力の低下)」の病理に基づき、「冬場の厳しい底冷えや長年の冷え性によって、腰やお腹の奥が氷のように冷えて痛む、いくら服を着込んでも身体の芯から温まらない、下痢や頻尿に悩まされる、疲れが全く抜けずに全身が重く冷え切っている時」に、体内の生命のコンロ(原熱・腎陽)に一瞬で火を点け、腰とお腹の底から全身へ向けて熱い活力を湧き上がらせてポカポカにしてくれる最高峰の温補・回陽名穴をお届けします。
今回ご紹介するのは、腰の後ろ(へその真裏)にある、人体の根本的な熱源が宿る最重要穴『命門』です。
場所は、**腰の後ろ側(背骨の上)にあり、ちょうど「おへその真裏」にあたる背骨のくぼみ(腰を少し曲げた時に、背骨の突起と突起の間で指がすっぽり入るところ)**にあります。
東洋医学において『命門』は、「命の門」の名が示す通り、体内のすべての温かさとエネルギー(原気)を作り出す命のボイラー室です。厳しい冷えや加齢、激しい疲労によってこの『命門』の火が弱まると、人間は身体の芯から冷え切り、あらゆる不調を引き起こします。ここを適切に温め・刺激することで、作中の枢先生が温針で原熱を呼び覚ましたように、腰の奥から温かな熱気が全身へと駆け巡り、凍え切っていた心身が劇的に蘇ります。
ケアする場合は、手の中央(労宮)を重ねて『命門(へその真裏の腰骨)』に当て、摩擦で熱が出るようにゴシゴシと上下に30回ほど素早く擦るか、市販の貼るカイロをへその真裏のこの位置に1枚貼ってみてください。腰の奥からじわーっと強い温もりが広がり、極寒の絶陰を打ち破った枢先生たちのように、寒さに負けないポカポカと活力に満ちた強い身体を取り戻すことができますよ。
次なる第580話は、本日**7月27日(月曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております。
古都アバランシュを救った往診チーム。しかし、ガルフレイド大陸の奥深くで蠢く、真の黒幕の影とは……!? 新展開をどうぞお楽しみに!




