第578話「大氷結晶宮の決戦!血脈凝固と太淵の脈動」
『陰陵泉』と『足三里』の刺鍼により、下半身を蝕む「寒湿の邪」を打ち破った枢先生率いる往診チーム。一行はついに、古都アバランシュの中心に君臨する『大氷結晶宮』の玉座の間へと足を踏み入れます。そこに待ち受けていたのは、ガルフレイド全土の『陽気(体温と原気)』を奪い尽くし、数百年間ものあいだ住民たちを仮死状態へと陥れてきた絶陰の四皇が一人――『絶血の氷帝・アルヴァ』でした。アルヴァが解き放つ「血脈凍結の魔波(血瘀寒凝)」に対し、枢先生の手首を走る名穴『太淵』が、全身の気血を再稼働させる奇跡の熱波を巻き起こします!
ギィィィィィ……ッ。
重厚な氷の扉がゆっくりと開き、往診チームの視界に広大な玉座の間が姿を現した。
天井からは青白い光を放つ巨大な結晶群が垂れ下がり、部屋の中央には、幾重もの氷の鎖で繋がれた黄金の玉座が鎮座している。
そこに深く腰掛けていたのは、白銀の髪と透き通るような青い肌を持つ美しい男――『絶血の氷帝・アルヴァ』。
彼が身に纏う寒気は、これまでの刺客たちとは一線を画していた。部屋に一足入っただけで、空気中のあらゆる水分が瞬時に氷晶へと変わり、肌の表面から直接体温が奪われていくのが分かる。
「……よくぞここまで辿り着いたな、異国の鍼師とその一行よ」
アルヴァの瞳が冷たく光り、その声はまるで耳元で吹雪が囁くかのように低く響いた。
「だが、ここで終わりだ。この大陸の人間どもは、すでに我が『凍血の陣』によって脈動を止められ、永劫の眠りについている。生命とは儚く、汚らわしい熱に溢れたもの……。すべてを凍てつかせ、静寂の中に固定することこそが、この世の至上の美なのだ」
「静寂の美、ですか……」
枢は一歩前へ歩み出ると、アルヴァの冷酷な瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「命とは、絶え間なく巡る気血の温もりであり、変化し続ける鼓動そのものです。体温を奪い、血脈を凍らせて動きを止めるのは美ではなく、単なる『死』に過ぎません。私は医療者として、あなたに奪われたこの大陸の人々の脈動を、絶対に諦めません!」
「口惜しい言葉を……! ならば、その温かな血肉ごと凍りつくが良い! 『絶血氷波』ッ!」
アルヴァが玉座から立ち上がり、右手を一閃した。
その瞬間、部屋全体を覆い尽くすほどの漆黒の「冷気波動」が波涛となって押し寄せ、往診チーム全体を呑み込んだ!
ガシィィィィンッ!!!!
「ぐっ……!? こ、これは……ッ!? 身体の表面じゃない……体内の『血液』が直接凍りついていくような感覚だ……ッ!」
ガストンが盾を構えたまま膝をつき、必死に自分の胸を押さえた。
彼の顔色からは一瞬で血気が引き、唇は痛々しいほどの紫黒色(紫紺)へと変色していく。
「 clinical に見て、やべぇ……ッ! 脈が……脈拍数が一気に落ちていく……! 腕の脈を触っても、細くて固い『伏脈・緊脈』がギリギリ打ち震えてるだけだ……!」
哭もまた、短剣を落としそうになりながら手首を押さえて歯を食いしばる。
「……東洋医学でいう『寒凝血瘀』の極致……! 寒邪が血脈の内部に侵入し、血液そのものを冷やして凝固させ、脈動を完全に停止させようとしています……!」
枢の指先も冷たく強直しかけていたが、彼は自らの霊力を『太陰肺経』へと集中させ、気血の巡りを限界まで高めた。
肺は「諸気(全身の気)を司り、脈を朝める」器官。血を巡らせるためには、まず気(動気)を強力に動かさなければならない!
「ハク、リナ! 血脈の凝固を解き、温めて巡らせる最高峰の活血化瘀生薬――『紅花』『桃仁』『丹参』を『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』の熱性蒸気として部屋中に拡散させなさい!」
「了解です、枢先生! 破凝活血・温経湯蒸気、限界展開ッ!!」
ハクとリナが大釜のレバーを引き抜き、赤く眩い温熱蒸気が噴き出した。
甘く香ばしい活血の香りが、アルヴァの解き放った黒い冷気波を押し返していく!
「ガストンさん、哭! いま、脈の根源を拓き、体内の血脈に熱いエンジンを掛け直します!」
枢が往診鞄から引き抜いたのは、太古の脈動を宿した白銀の長鍼――手首の太陰肺経の原穴であり、すべての血脈の巡りを集中的にコントロールする八会穴の一つ『脈会・太淵』!
「手太陰肺経の原穴――太淵に、補気の旋転刺を施します!」
シュッ――!!
枢の手技が冴え渡り、ガストンの手首の親指側――親指の付け根の下にある関節の凹み、脈がドクドクと打つ『太淵』へ、寸分の狂いもなく聖鍼が打ち込まれた!
ドクン……ッ!!!!
「――つ……ぐはぁぁぁぁぁッ!?!? 腕の奥から……ドクドクと熱い血の塊が突き上げてくるぅぅぅッ!!」
ガストンが叫んだ瞬間、彼の紫黒色だった顔色にサッと鮮やかな紅潮が走り、体内を走る血管が力強く浮き上がった!
「脈が……生き返ったッ!? 全身の冷え切っていた血が、一瞬でマグマみたいに熱く駆け巡り始めたぞぉぉッ!」
ガストンが豪快に叫び、盾を強く叩いてアルヴァを睨みつけた。
「『太淵』は、全身の脈が集まる『脈会』であり、肺の原気を一気に高める最高峰の要穴! 寒邪によって血液が凝固した時、この『太淵』を刺激することで胸と肺から強力な気の推進力を生み出し、固まった血脈(血瘀)を一気に解きほぐして全身へと血液を送り届けることができるのです!」
枢は間髪入れず、哭やガイル、ネネの『太淵』にも鮮やかな刺鍼を施していく。
チーム全員の体内に熱い脈動が蘇り、アルヴァの『絶血氷波』は完全に中和・無効化された!
「な……なに……!? 我が命を奪う絶血の冷気を、脈の一刺しで打ち破ったというのか……!?」
アルヴァが初めて動揺を見せ、後退りする。
「 clinical に見て、お前の冷たい氷より、相棒の温かい脈の方が百倍強いんだよッ! 影疾風・脈動一閃ッ!」
活血の熱気を取り戻した哭が滑空し、アルヴァの胸元を力強く切り払った!
「ぐわぁぁぁぁぁッ!? 絶影の……鍼師め……ッ!」
胸から黒い冷気を噴出させながら、アルヴァが玉座の奥の暗がりへと逃れ去る。
◇
玉座の間の冷気が和らぎ、周囲の氷の鎖が音を立てて砕け落ち始めた。
「凄まじい手際です、枢先生……! アルヴァの『凍血』を破ったことで、この古都の住民たちの脈動も、少しずつ温かさを取り戻し始めています!」
ガイルが周囲の氷床を見渡し、感極まった声で叫んだ。
「ええ。ですが、アルヴァはまだ『大氷結晶宮』の最深部――『絶対零度のコア』へと向かいました。この大陸全体を完全解凍するためには、彼との決着をつけなければなりません」
枢は手首の『太淵』を意識しながら、力強く往診鞄を締め直した。
往診チームの熱き命の脈動が、氷没古都アバランシュの最深部を打ち破るその時が、目前へと迫っていた――!
第578話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、古都アバランシュの王者に君臨する『絶血の氷帝・アルヴァ』の解き放つ、血液そのものを凍てつかせる悪夢の病理「寒凝血瘀」に対し、枢先生が手首の最重要穴『太淵』の刺鍼と活血化瘀の漢方蒸気によって全身の脈動を爆発的に復活させる、熱い決戦の幕開けをお届けいたしました!
さて、今回は作中でガストンさんや哭が襲撃され、枢先生が速やかに解決した「血脈の凝固(冷えによる血行不良・脈の乱れ・手足の強烈な冷え)」の病理に基づき、「冬場の激しい冷え込みや冷房の当たりすぎによって、手足の先が紫っぽくなって氷のように冷たい、血行が悪くて全身がゾクゾクする、胸の奥がキュッと圧迫されて息苦しい、あるいは緊張や疲労で脈が乱れて動悸や疲労感が抜けない時」に、肺と脈の根源から強力な推進力を生み出し、全身の血脈(血管)をポカポカと熱く巡らせて脈動を整えてくれる最高峰の活血・原気名穴をお届けします。
今回ご紹介するのは、手首にある、全身の脈が集まる太陰肺経の原穴『太淵』です。
場所は、**手首の内側(手のひら側)の横シワの上にあり、親指の付け根の下あたりで、ドクドクと脈が打っているのが触れる凹み(親指側の手首の角にある、押すとズーンと腕の奥まで気持ちよい響きがあるところ)**にあります。
東洋医学において『太淵』は、全身の気血の巡りを集中的に高める「八会穴の脈会」であり、太陰肺経の原気が集まる最重要拠点です。冷え(寒邪)によって血液が滞ったり、疲労やストレスで気血の巡りが弱まっている時、この『太淵』の脈動は細く弱くなっています。ここを適切に刺激することで、作中の枢先生が聖鍼『太淵』を打ったように、胸と肺から温かな「気」が押し出され、固まっていた全身の血流が一気に解きほぐされて巡り出します。
ケアする場合は、反対の手の親指の腹を『太淵(手首の脈が打つところ)』に当て、脈を感じながら息を細く吐きつつ、じわーっと優しく5秒間押し込むのを左右交互に5回ほど繰り返してみてください。冷え切った手足の先からサッと血気が戻り、寒邪の凍結を打ち破った往診チームのように、全身がポカポカと熱い温もりと活力に満たされるのを実感できますよ。
次なる第579話は、明日**7月27日(月曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております。
玉座の奥『絶対零度のコア』へと逃れたアルヴァとの最終決戦! 東方寒冷大陸を救う奇跡の温熱刺鍼の結末を、どうぞお楽しみに!




