第575話「氷脈の解凍と、奥地への極門」
『内関』の刺鍼によって心包の塞がりを拓き、絶陰の窒息感に苦しんでいた警備兵たちを救い出した枢先生率いる往診チーム。しかし、港町ノース・ヴェイルの熱を吸い上げていた『永久凍土の祭壇』の氷結晶コアは、壊滅間際に狂乱の暴走を開始します! だが、このコアの撃破は、極寒の大陸『ガルフレイド』を覆う巨大な寒邪の過酷な前哨戦に過ぎませんでした。港町の救出と、さらに深遠なる極寒の奥地へと続く新展開を描きます!
「警告。環境熱量の激減を検知。これより『絶対凍結モード』へ移行し、全熱量を中枢へ奪還する」
無機質で冷徹な機械音声が、地鳴りのような響きと共に祭壇全体を震わせた。
浮遊する漆黒の氷結晶コアが急速に肥大化し、その中心から「黒い吹雪」が渦を巻いて吹き荒れる。周囲の岩肌や頑丈な鉄柱が一瞬でガラスのように脆い氷塊へと変わり、空間そのものの温度が絶対零度へと叩き落とされていく。
「ぐあっ……!? な、なんだこの寒気は……ッ!? 港の周辺どころか、この部屋全体が凍りついていきやがるッ!」
ガストンが強烈な衝撃と共に盾を前に構え直すが、その頑強な腕先から霜がびっしりと走り始めていた。
「 clinical に見て、やべぇぞ相棒! このコア、単体で動いてるんじゃねえ! ガルフレイドの大陸奥深く……『永久凍土の大洞窟』の最深部にある【本核】から、膨大な冷気の供給を受けてやがるんだ!」
哭が短剣の影を広げ、襲い来る氷の刃をかろうじて相殺しながら叫んだ。
「なるほど……ノース・ヴェイルの港を襲っていたこのコアは、大陸全体に張り巡らされた巨大な冷気循環網の、単なる『末端冷却ノード(中継器)』に過ぎないということですね!」
吹雪の最前線へ躍り出たのは、白銀の医療着を激しく棚引かせる枢であった。
彼の手には、いまや太陽の輝きそのものを宿したかのような、黄金と紅蓮が交錯する奇跡の聖鍼――人体の根本たる「下焦(かしょう:腎と腰)」の原気を一気に爆発させる最高峰の温熱穴『関元』と『気海』の対鍼が握られていた。
「ハク、リナ! 往診鞄に保管されている最高級温熱生薬――『附子』『肉桂』『乾姜』を『四逆湯』の超高濃度蒸気として、このノードの吸引口へ流し込みなさい!」
「了解です、枢先生! 陽気奪還の大薬湯、限界突破噴射ッ!!」
ハクとリナが大釜の圧力を限界まで高め、解き放たれた温かな薬湯の蒸気が、黒い吹雪の真ん中へ向けて黄金の昇竜となって突き抜けた!
空間を包んでいた刺すような冷気が、漢方の熱気によって一瞬だけ緩む。
「ガストンさん、哭、ガイルさん! ノードの『吸引ライン』を暴き出し、私の道を切り拓いてください!」
「おうよぉぉぉッ!! 港の民の命門の火は消させねえ! 俺の熱い血気を見せてやるぜぇぇッ!」
ガストンが全身の筋肉を限界まで躍動させ、赤く加熱された身体で氷の嵐を突き破る。
「 clinical に見て、まずはこの港町を救うのが先決だッ! 影断・寒邪断絶ッ!」
哭の影の刃が、コアと周囲の空間を結ぶ不気味な黒い冷気ラインを次々と切断していく!
「私に……私に二度目の過ちは許されない! 我が命の火よ、往診チームの道となれぇぇッ!」
ガイルが巨大な戦槌をコアの防衛壁に叩きつけ、絶対零度の氷壁に大きな亀裂を作り出した!
「いまですッ!!」
仲間たちが命懸けで切り開いた真っ直ぐな「熱の軌道」を、枢が光となって疾走する。
彼は暴走する氷結晶ノードの真上へと高く飛翔し、コアの中心部に存在する「冷気の経穴」へと、両手に掲げた聖鍼を一心不乱に叩き込んだ!
「東洋医学奥義――『破陰回陽・大温脈動』ッ!!」
ドガァァァァァァァァンッ!!!!
聖鍼を通じて、枢の全身から解き放たれた「無窮の温かな陽気」が、漆黒の氷結晶ノードの最深部へと注ぎ込まれた。
それはただの攻撃ではない。ノードに溜め込まれていた莫大な冷気の鬱滞を内側から解きほぐし、滞っていた気血と熱の流れを劇的に再開させる、解凍の光であった!
「な……温かい……光……!? 港の冷えが……引き散らされていく……」
漆黒に染まっていた氷結晶ノードが、みるみるうちに美しく透き通った黄金色の水晶へと変化し、静かに砕け散った。
祭壇を埋め尽くしていた漆黒の氷や黒い吹雪がスーッと溶け去り、ノース・ヴェイルの港周辺に、穏やかで優しいポカポカとした暖気が戻っていく。
「……あ……暖か……い……」
倒れていた警備兵や領民たちがゆっくりと瞳を開き、手足の末端まで血が巡る温もりに歓喜の涙を流した。
◇
だが、安堵の息を漏らしたのも束の間。
崩壊したノードの奥の壁が激しく砕け散り、その背後に「途方もなく広大な氷の縦穴(大裂溝)」が姿を現したのだった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
その漆黒の縦穴の底から吹き上げてきたのは、先ほどまでのノードとは比べものにならない、地殻の底から噴き出すような「不気味で重厚な寒邪の絶叫」であった。
「な……なんだこの地響きは……!? 港のノードを壊したのに……奥からさらに凄まじい冷気が吹き上がってきてるぞ!?」
ガストンが身構え、縦穴の底を見下ろして息をのんだ。
「……ガイルさん、これは……?」
枢が静かな、しかし厳粛な目つきで尋ねる。
ガイルは青ざめた顔で縦穴を見つめ、震える声で語り始めた。
「……ノース・ヴェイルの港を襲っていたのは……このガルフレイド大陸を侵食する寒邪の『ほんの一滴』に過ぎない……。この縦穴の先には……永遠の氷に閉ざされた『氷没古都アバランシュ』……そして寒邪の真の源流である『絶陰の四皇』が眠る、未踏の大洞窟が広がっているのだ……!」
「絶陰の四皇……! つまり、この大陸全体の体温を奪い、領民たちを『凍血病』に陥れている真犯人たちが、この奥深くに潜んでいるということですね!」
枢は往診鞄のベルトを力強く締め直し、縦穴の底から吹き荒れる極寒の風をしっかりと正面から受け止めた。
「 clinical に見て……港町を救ったのは、本当の冒険の『プロローグ』ってわけか。面白くなってきたじゃねえか、相棒!」
哭が不敵な笑みを浮かべ、短剣を構え直す。
「おうよ! どんな深遠な氷の洞窟だろうが、俺たちの熱い魂と枢先生の鍼で、全員叩き起こして解凍してやるぜ!」
ガストンが胸を叩いて豪快に言い放つ。
港町ノース・ヴェイルに束の間の温もりを取り戻した往診チーム。しかし、東方寒冷大陸『ガルフレイド』の真の闇と絶望は、いま始まったばかりであった。
一行は、さらなる未知の病理と極寒の強敵が待ち受ける「永久凍土の大洞窟」へ向けて、新たな決意の足を踏み出すのだった――!
第575話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、港町ノース・ヴェイルの冷気ノードを撃破し、港の住民たちに温もりを取り戻したのも束の間、それがガルフレイド大陸全体を覆う巨大な寒邪のほんの「序章(前哨戦)」に過ぎず、その奥深くにさらなる大冒険の舞台『氷没古都アバランシュ』と『絶陰の四皇』が眠っているという、第七章の本格的な拡大・深化の展開を描写いたしました。港町を救い、いよいよ真の極寒の奥地へと挑む往診チームの熱き戦いにご期待ください!
さて、今回は作中で枢先生がノードの激しい爆発冷気を抑え込み、体内の根本たる原気(陽気)を爆発的に生み出した理に基づき、「冬場の厳しい底冷えや冷房の当たりすぎ、あるいは生まれつきの極度の冷え性や下半身の著しい冷えによって、お腹や腰が冷えて痛む、手足が冷たくて夜眠れない、下痢をしやすい、さらには体力が激しく低下して全身がゾクゾクと寒気に苛まれている時」に、体内の生命の原動力(原気・腎陽)を一瞬で湧き立たせ、お腹の底から全身へと熱い温もりを巡らせてポカポカにしてくれる、下半身の最高峰の温熱名穴をお届けします。
今回ご紹介するのは、おへその下にある、人体の生命力と原気が集まる最重要穴『関元』です。
場所は、**おへその中心から真っ直ぐ真下に向かって、指幅4本分下がったところ(お腹の中心線上にあり、指で深く押すとズーンとお腹の奥まで心地よい温かみと響きを感じるところ)**にあります。
東洋医学において、ここは「丹田」とも呼ばれ、人体の根本的なエネルギー(原気)を蓄え、下焦(腎・お腹)を温める東洋医学の絶対的要所です。冷え(寒邪)に侵されて体力が低下している時は、この『関元』のあたりが冷たく凹んでいます。ここを適切に温め・刺激することで、作中の枢先生が聖鍼で陽気を呼び覚ましたように、お腹の底から温かな熱が湧き上がり、冷えて固まっていた全身の血流が劇的に巡り出します。
ケアする場合は、手のひらの中心(労宮)を『関元(おへその下指4本分)』に当て、ゆっくりとお腹を温めるように円を描いてマッサージするか、市販の貼るカイロをおへその下のこの位置に1枚貼ってみてください。お腹の奥からじわーっと全身へ温もりが広がり、極寒の寒邪に立ち向かう枢先生たちのように、寒さに負けないポカポカと活力に満ちた健やかな心身を取り戻すことができますよ。
次なる第576話は、本日**7月25日(土曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております。縦穴の先で待ち受ける『氷没古都アバランシュ』と、新たな寒邪の病理とは!? どうぞお楽しみに!




