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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第七章:東方寒冷大陸と絶命の寒邪(かんじゃ)】

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第574話「絶陰の祭壇と、内関の清心」

陽陵泉ようりょうせん』の刺鍼によって筋膜と関節の凝固を解き放ち、傀儡師フレイザの「寒邪収引の糸」を力任せに打ち砕いた枢先生率いる往診チーム。一行はついに、大陸すべての熱(陽気)を吸い上げる巨大な元凶――氷鎖連峰の最奥に鎮座する『永久凍土の祭壇』へと到達します。そこに待ち受けていたのは、熱を奪われて凍てつく祭壇の核心部と、激しい胸の圧迫感(胸悶)と動悸によって意識を失いかけている「凍血病」の最終段階に苦しむ領民たちの悲惨な姿でした。

 地表を揺るがす地鳴りと共に、往診チームの目の前に巨大な氷の扉が開かれた。


 そこは、氷鎖連峰の最奥に位置する『永久凍土の祭壇』の内部――。

見上げるほど巨大な「漆黒の氷結晶コア」が中央に浮遊し、周囲の空間からあらゆる熱エネルギーを掃除機のように強烈に吸引している。空気そのものが重く沈殿し、息を吸い込むだけで胸の奥がキリキリと引きつるような、絶対的な絶陰ぜついんの領域であった。


 「……見ろ……祭壇の周りに……大勢の人が倒れている……!」

ジークがランタンの光をかざし、息をのんだ。


 そこには、祭壇の防衛線として強制徴用され、熱を限界まで吸い上げられたガルフレイドの警備兵や領民たちが、折り重なるように倒れていた。

彼らは全身が紫黒色に変色しているだけでなく、激しい胸の圧迫感(胸悶)に悶絶し、爪が食い込むほど自分の胸元を掻きむしりながら、必死に浅い息を繰り返している。


 「は……ハァ……っ! む、胸が……押し潰される……ッ! 心臓が……壊れる……ッ!」


 「ただの冷え(外寒)ではありません……! 寒邪が経絡の最深部である『心包(しんぽう:心臓を護る膜)』にまで侵入し、気血の巡りを完全に塞き止めています(寒凝心脈)!」

枢は速やかに倒れている青年の傍らへ膝をつき、彼の脈拍に指を当てた。


 脈は極限まで細く、硬く結ばれている(伏脈・緊脈)。

心臓へ通じる経絡が極度の冷えによって凍りつき、血液が巡らなくなったことで、心臓が悲鳴を上げて暴走しかけていたのだ。このまま胸のつかえが続けば、数分と持たずに心臓の鼓動が停止してしまう。


 「 clinical にみて、完全に心筋が窒息しかけてやがる……! 相棒、急がねえと全員の脈が止まるぞ!」

哭が短剣を握り締め、焦燥の表情を浮かべる。


 「大丈夫です! 胸の鬱熱と塞がりを拓き、心臓の巡りを蘇らせる『関門』があります!」


 枢が往診鞄の最深部から抜き放ったのは、氷のような冷気を透かしながらも、内側に温かな紅蓮の脈動を宿した聖鍼――『内関ないかん』!


 「ガストンさん、ガイルさん! 倒れている患者たちの身体を起こし、気道を確保してください!」


 「任せときな、枢先生! 兄ちゃん、苦しいだろうが今すぐ楽にしてやるからな!」

ガストンとガイルが力強い腕で警備兵たちの身体を支え、胸を圧迫しない姿勢を完璧に保持する。


「ハク、リナ! 鬱滞した胸の巡りを拓く『蘇合香丸そごうこうがん』の温熱生薬を気化させ、鼻から吸入させなさい!」


「了解です! 芳香開竅ほうこうかいきょう生薬、噴射します!」


ハクとリナが放った甘く清涼な生薬の香りが、苦しむ人々の鼻腔を通って胸の奥へと届く。

絶望的な窒息感の中で、ほんの少しだけ彼らの呼吸に隙間が生まれた。その絶妙な一瞬を、枢の指先が見逃さなかった。


(内関は心包経の絡穴であり、八脈交会穴として陰維脈に通じる……。胸、心臓、胃のすべての塞がりを拓き、狂った脈動を劇的に整える最高峰の清心穴……!)


シュッ――!!


枢の指先から放たれた『内関』の聖鍼が、青年の前腕の内側――手首の横シワから肘に向かって指3本分上った、2本の太い腱(長掌筋腱と橈側手根屈筋腱)の間に刺入された!


ドクン……ッ!!!!


「――つ……ぐあぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?」


手首の『内関』から注ぎ込まれた聖鍼の温かな波動が、凍りついていた心包の経絡を一気に突き破り、心臓へと直通する血脈の扉(関門)を力強く押し開いた。

胸の奥で固まっていた強烈なつかえと苦しみが、まるで氷が温湯に溶けるようにスーッと消え去っていく!


「はぁぁぁぁぁっ……! 息が……息が吸える……ッ! 胸の重い岩が……消えた……!?」

青年がガバッと起き上がり、涙を流しながら自らの胸を何度も確かめた。

紫黒色だった彼の顔色にサッと血色が戻り、狂ったように乱れていた脈動が、静かで力強い正常なリズムを取り戻したのだ。


「『内関』は、心を包んで護る『心包』の最重要拠点。冷えやストレスで心臓が締め付けられ、激しい動悸や胸悶が起きた時、このツボを刺激することで心臓の巡りを蘇らせ、自律神経の乱れを一瞬で鎮めることができるのです」


枢は次々と倒れている警備兵たちへ駆け寄り、鮮やかな手さばきで『内関』へ刺鍼を施していく。

一人、また一人と、絶望の窒息感から救い出されていく人々。祭壇に満ちていた重苦しい死気が、枢の医術によって瞬く間に温かな希望の空気へと塗り替えられていった。


『――愚かな人間どもめ。我が吸い上げた冷気の檻から、逃れられると思うな……』


その時、中央の漆黒の氷結晶コアが激しく明滅し、祭壇全体が崩落を始めるほどの巨大な「絶対零度の吹雪」が牙を剥いた。

熱を奪い尽くす寒邪の元凶たるホスト核との、最終決戦の時が迫る――!

 第574話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、永久凍土の祭壇にて、寒邪の最深部侵入による激しい胸の圧迫感(胸悶)と動悸に苦しむ人々に対し、枢先生が手首の名穴『内関ないかん』への刺鍼によって心包の塞がりを打ち破り、絶望の窒息から命を救い出す劇的な救命劇を描写いたしました。いよいよ次回、大陸の熱を奪う寒邪の元凶との最終決戦を迎えます!


 さて、今回は作中で枢先生が警備兵たちの胸の窒息感を劇的に解放した『内関』の理に基づき、「冬場の激しい冷え込みや冷房の当たりすぎ、あるいはストレスや自律神経の乱れ、激しい緊張によって、胸が締め付けられるように息苦しい(胸悶)、急な動悸や胸のバクバクが止まらない、胃のむかつきや吐き気、不安感で胸が押し潰されそうな時」に、胸と心臓を護る関門を一気に開いて呼吸を楽にし、乱れた脈動と心を静かで穏やかな状態へ戻してくれる最高峰の清心名穴をお届けします。


 今回ご紹介するのは、手首の内側にある、心臓と胸を護る絶対的関門『内関ないかん』です。


場所は、**手首の内側(手のひら側)の横シワの中央から、肘に向かって指幅3本分上がったところにあり、腕を軽く握った時に浮き出る2本の太い腱(長掌筋腱と橈側手根屈筋腱)のちょうど間のくぼみ(押すとズーンと胸や手のひらまで心地よく響くところ)**にあります。


東洋医学において、ここは「手厥陰心包経てけついんしんぽうけい」の絡穴であり、八脈交会穴はちみゃくこうかいけつとして胸・心臓・胃のすべての滞りを解き放つ超重要拠点です。冷えやストレスで心臓が圧迫されている時は、この『内関』が固く突っ張っています。ここを適切に刺激することで、作中の枢先生が聖鍼『内関』を打ったように、胸の奥のつかえがスーッと拓け、激しい動悸や胸の苦しみ、胃の不快感が一瞬で鎮まります。


ケアする場合は、反対の手の親指の腹をツボに当て、腕の芯に向かって、じわーっと深く優しく5秒間押し込むのを左右交互に5回〜7回ほど繰り返してみてください。急な動悸や緊張、息苦しさを感じた時にここを優しくマッサージするだけで、寒邪の絶望を打ち破った枢先生たちのように、胸がすうっと晴れ渡るような穏やかで健やかな呼吸を取り戻すことができますよ。


 次なる第575話は、明日**7月25日(土曜日)の【12:00】**に更新を予定しております。暴走する氷結晶コアとの最終決戦! 枢先生が解き放つ、東方寒冷大陸を救う最後の温熱刺鍼とは!? どうぞお楽しみに!

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