第570話「過労の終焉と、万病消散の脈動」
『大陵』の刺鍼と仲間たちの連携により、マザー・ギガの生体CPUとして縛りつけられていたCEOアルスラーンを無事に救い出した枢先生率いる往診チーム。しかし、核心たる生体水晶コア『マザー・ギガ』は、奪われた適合者を取り戻すべく、新大陸全土から吸い上げた無数の過労と怨念の邪気を暴走させ、地下都市そのものを崩壊に巻き込む極大の暴走状態へと突入します。新大陸を覆う過労支配の悲しき鎖を断ち切るため、枢先生が放つ決死の「全穴全開・再生の往診」の結末を描写いたします。
「警告。適合者『001』の喪失を確認。これより『全拠点強制超過稼働モード』へ移行。障害物を排除し、新大陸全域の生体精気を回収する」
マザー・ギガの感情を欠いた合成音が、地下プラント全体を狂暴に震わせた。
中央にそびえ立つ生体水晶コアが、禍々しい漆黒と赤紫の閃光を乱反射させながらひび割れ、周囲の鉄骨や巨大配管を磁力のように引き寄せては呑み込んでいく。地下重工業都市『ギガ・アンダーグラウンド』の天井からは巨大な岩塊と鉄屑が降り注ぎ、空間そのものが崩壊へのカウントダウンを刻み始めていた。
「クソッ、 clinical に見て、あのコアは完全に自爆モードに入ってやがるぜ!」
哭が飛来する鉄骨を影の刃で切り払いながら、激しい呼吸で叫んだ。
「マザー・ギガは、自分が壊れることすら考慮に入れていない……! 壊れたら新しい労働者を補充すればいいという、ギガワークスの『使い捨て理念』そのものが暴走しているんだ!」
ジークが怒りに震える拳を固く握りしめる。
「……私が……私がこの怪物を作り出し、新大陸の人々を縛りつけるシステムへと育て上げてしまったのだ……」
ガストンに支えられたアルスラーンが、悔恨の涙を流しながら床へ膝をついた。
「枢先生……! 私を置いて逃げてくれ! この怪物はもう、人間の力で止められる代物ではない……!」
「いいえ、アルスラーンさん。止められます。そして、逃げる必要などどこにもありません」
枢の声は、崩落の轟音が吹き荒れる暗黒のプラントの中で、驚くほど静かに、そして澄み渡って響いた。
彼の手には、往診鞄の最深部に封印されていた、黄金と白銀が綾なす無数の鍼――これまで出会ってきたあらゆる患者の病理を癒やし、経絡を解放してきた『太古の救世聖鍼』がずらりと並んでいた。
「このシステムは、機械ではありません。新大陸に生きる何万人もの人々が、日々の過労、焦燥、そして休むことへの罪悪感によって生み出した『巨大な気血の歪み(病態)』そのものです。病であるならば……鍼灸の医術を以て、必ず治癒せしめることができます!」
枢の瞳が、白銀の神聖な光を放ち、天井の生体水晶コアを射抜いた。
「ガストンさん、哭! 私をあの水晶コアの『最深の経穴』まで届けてください!」
「合点承知だぁッ!! 俺のこの命、先生の医術のために捧げてやるぜ!」
ガストンが盾を全開に構え、降り注ぐ岩塩と鉄の雨を真っ正面から砕き割りながら突き進む。
「 clinical に見て、最高にイかれてる作戦だ! だからこそ……影の道を敷いてやるよ、相棒!」
哭が全気を解き放ち、壊れゆく空間の影を一本の漆黒の橋として、生体水晶コアの真上へと架け渡した。
「ハク、リナ! 往診鞄にあるすべての清熱生薬と気血補給の薬湯を、プラントの換気気流に乗せなさい! 地下全域の人々に、巡りの気を行き渡らせるのです!」
「任せてください、枢先生! 薬湯、気化全開ですッ!!」
ハクとリナが大釜のレバーを限界まで押し倒し、清涼な漢方の香りと温かな気血の霧が、崩壊する地下都市全体へと爆発的に拡散していった。
「行けぇぇぇッ、枢先生―――ッ!!」
ジークと地下の労働者たち、そしてアルスラーンの叫びが一つになり、枢の背中を押し上げる。
枢は哭の描いた影の橋を疾走し、暴走する生体水晶コアの真頭上へと高く跳躍した。
コアから放たれる邪気の黒い雷撃が枢の身体を灼こうとするが、彼の身を包む白銀の気血は一歩も退かない。彼の心には、病に苦しむすべての人々を救いたいという、純粋で絶対的な「仁の心」が宿っていたからだ。
(新大陸を覆う過労の邪気よ……。休みなく働き、傷つき、悲鳴を上げることすら許されなかった魂たちよ。いま、すべての滞りを解き放ち、休息の温もりをその身体に取り戻しなさい……!)
枢は両手いっぱいに抱えた『救世聖鍼』を、生体水晶コアの全方位に位置する最重要の「天地全穴」――すなわち万物の巡りを司る大要所へ向けて、一斉に叩き込んだ!
「東洋医学の奥義――『全穴全開・万病消散』ッ!!」
ドドドドドドドドォォォォォンッ!!!!
眩いばかりの黄金と白銀の光が、生体水晶コアの内部から爆発的に放射された。
それは攻撃の光ではない。コアの中に溜め込まれていた何年分もの過労、怨念、水毒、湿熱、不仁という無数の邪気を、純粋な「清らかな生命エネルギー」へと瞬時に還元し、中和・昇華させる、天地開辟の癒やしの光であった。
「な……なんだ……この温かさは……!? システムの熱量が……中和されていく……不条理な……しかし……温かい……」
マザー・ギガの暴走した光線が、みるみるうちに柔らかな金色へと変わり、生体水晶コアに刻まれていた不気味な赤黒い亀裂が、綺麗な透明な結晶へと戻っていく。
地下都市を揺らしていた地鳴りが嘘のように収まり、天井から降り注いでいた岩屑は、ハクとリナが放った生薬の霧に包まれて優しく地面へと降り立った。
「……ああ……。胸のつかえが……消えていく……」
アルスラーンが自らの胸に手を当て、涙を流しながら温かな光を見上げた。
彼を苛んでいた「休むことへの恐怖」と「効率という名の呪縛」が、枢の聖鍼から放たれた万病消散の巡りによって、完全に消滅した瞬間であった。
パリン……ッ!
最深部にあった生体水晶コアが、静かで澄み切った音と共に優しく砕け散り、無数の光の粒子となって地下世界全体へと舞い降りた。
新大陸を過労と搾取の暗雲で覆い尽くしていた巨大ホストシステム『マザー・ギガ』は、ここに完全に解体され、ただの清らかな生命の源流へと還元されたのである。
光が収まったあと、静まり返ったプラントの中央に、枢先生がしなやかに着地した。
彼の白い医療着は一筋の汚れもなく、その瞳には新大陸の未来を照らす、温かで力強い光が宿っていた。
「……勝ったんだな……俺たち……」
哭が短剣を納め、呆然と息を漏らした。
「おうよ……! 終わったんだ! あの過労の化け物は……枢先生の医術で、完全に『治った』んだよ!」
ガストンが歓喜の声を上げ、ジークたち地下住民と抱き合って喜びを爆発させた。
アルスラーンはゆっくりと枢のもとへ歩み寄り、深く、深くその場に頭を下げた。
「枢先生……。君たちは、私を……そしてこの新大陸の労働者すべてを、死の淵から救ってくれた。心から感謝する……」
「頭を上げてください、アルスラーンさん」
枢は優しく微笑み、アルスラーンの手を取った。
「これからの新大陸には、倒れるまで働く覇権など必要ありません。適度に働き、美味しく食べ、温かく眠る……そんな当たり前で健やかな暮らしを、あなた自身の手で築いていってください」
「ああ……! 誓おう……!」
地下の暗闇の隙間から、地上の太陽の光が優しく射し込んでくる。
第六章『過労の覇権と再生の経絡』――往診チームの長きにわたる過労支配との戦いは、いまここに、最高の「全員全快」の大団円を迎えるのだった。
(第六章 完/第七章へつづく)
第570話をお読みいただき、ありがとうございました。
第六章のクライマックスとなる今回は、暴走するホストシステム『マザー・ギガ』に対し、枢先生が『全穴全開・万病消散』の奥義を放ち、新大陸全土に溜まっていた過労の邪気をすべて清らかな生命エネルギーへと中和・浄化させる、大感動のフィナーレをお届けいたしました。CEOアルスラーンも無事に絶望の呪縛から解き放たれ、往診チームの健やかな医術が新大陸に新しい希望の光をもたらしました。長きにわたり第六章をお楽しみいただき、本当にありがとうございました!
さて、今回は作中で枢先生が新大陸全体の滞りを一気に吹き飛ばした『万病消散』の理に基づき、「長年の激務やストレスの蓄積、季節の変わり目や乱れた生活習慣によって、全身の気・血・水が完全に停滞し、肩こり、頭痛、腰痛、冷え、不眠、自律神経の乱れなど、全身にいくつもの不調(不定愁訴)が重なって『どこから手をつけていいか分からないほど疲弊してしまっている時』」に、全身の経絡の目詰まりを一瞬で一網打尽にし、万病の元となる滞りを根本から根こそぎ吹き飛ばして巡りを蘇らせてくれる、東洋医学の最高峰の万能覚醒穴をお届けします。
今回ご紹介するのは、頭頂部にある、全身のすべての気が集まる万能の王穴『百会』です。
場所は、**頭のてっぺん(頂点)にあり、両方の耳の穴の一番高いところを結んだラインと、顔の鼻筋から頭の真ん中を通るラインがちょうど交差する頭頂部の中心(指で押すと小さなくぼみがあり、ズーンと頭の芯に響く心地よい痛みがあるところ)**にあります。
東洋医学において、ここは「百(多種多様)の経絡が会(交わる)する」という名の通り、頭頂から全身の気血の巡りを統括し、上がった熱を下げ、下がった気を引き上げるという、自律神経調整・全機能活性化の最強の拠点です。全身が疲弊して万病の滞りが起きている時は、この『百会』がカチコチに硬くなっているか、逆にブヨブヨと浮腫んでいます。ここを適切に刺激することで、作中の枢先生が全穴全開の刺鍼を行ったように、脳と全身の自律神経回路が一瞬でリセットされ、滞っていた全身の巡りが劇的に改善し、重かった頭や身体が羽が生えたように軽やかになります。
ケアする場合は、両手のआप(人差し指と中指)を重ねてツボに当て、頭の芯に向かって真下へ、じわーっと心地よい強さで5秒間押し込むのを5回~10回ほど繰り返してみてください。息をゆっくり吐きながら押すことで、マザー・ギガの過労の鎖を打ち破った枢先生たちのように、全身のモヤモヤと疲労が一瞬で消散し、どこまでも清々しく健やかな本来の活力を取り戻すことができますよ。
次なる第571話(新章・第七章開幕!)は、明日**7月23日(木曜日)の【12:00】**に更新を予定しております。
過労の覇権を越えた往診チームが向かう、次なる新たな冒険と未知なる病理とは!? どうぞご期待ください!




