第565話「湧出する清流と、湿熱の相克」
地下の排水セクターを支配する排泄統括ヴァルカンが放つ、すべてを沸騰させ腐敗させる「湿熱」の濁流。その直撃を受け、下腹部の急激な炎症と激痛に倒れたガストン。往診チーム全員がドロドロの熱気に行く手を阻まれる中、枢先生は水分代謝を司る腎経の合水穴『陰谷』の聖鍼を手に、この致命的な水毒のヘドロを一気に体外へ利尿・排泄させるための「清熱利湿」の神技に挑みます。
「ガストンさん、そのまま深く息を吐きなさい! 体内の熱を、息と共に外へ押し出すのです!」
枢の声と同時に、白銀の光を放つ聖鍼『陰谷』が、ガストンの左膝の裏、強張った二本の腱の隙間へと滑り込んだ。
寸分の狂いもない刺鍼。その瞬間、ガストンの下腹部で真っ赤に燃え上がり、経絡をドロドロに目詰まりさせていた「湿熱の邪気」が、まるで塞き止められていた水門が崩壊したかのように、一気に下方向へと流れ落ち始めた。
「……が、あ……っ!? お、お腹の、あの灼きつくような痛みが……急に、スーッと冷えていく……!」
ガストンの額から、信じられないほどの量の「黄色みがかった粘り気のある汗」が噴き出した。これこそが、彼の体内で暴れていた湿熱の水毒が、枢の鍼によって経絡から引き剥がされ、皮膚の毛穴から強制的に排泄された証であった。
東洋医学において、湿熱の治療は「熱を冷ます(清熱)」だけでなく、「水分を速やかに流す(利湿)」ことが鉄則である。枢の放った少陰腎経の合水穴『陰谷』は、体内の最も深い部分にある『水門』を完全に解放し、ドロドロに沸騰したヘドロを清らかな流水へと変え、排泄を促す絶大な効果を発揮したのだ。
「バカな!? 私の超高圧湿熱を浴びて、なぜ即座に経絡の炎症を収められる!? 人間の肉体は、システムが調合した毒水を自ら浄化できるようには作られていないはずだ!」
配管の上から見下ろすヴァルカンが、驚愕のあまり背中の高圧ホースを激しくガタつかせた。
「それは、あなた方が人間の身体を『ただの機械』としてしか見ていないからです、ヴァルカン!」
枢は立ち上がり、白銀の瞳で巨漢の執行役員をまっすぐに見据えた。
「人間の身体には、自然界と同じように、自らを清める『川の流れ(経絡)』が備わっています。どれほど濁った泥水が注ぎ込もうとも、川の源流を正し、水門を正しく開けば、命は自らの力で清流を取り戻すことができるのです!」
「ほざくな、余所者が! ならば、その川ごと、この排水セクターの全圧力で圧殺してくれるわ!」
ヴァルカンが鎧の胸部にある大型のレバーを強引に引き下げた。
ギガギガギガ、と不気味な駆動音が地下の空間に響き渡り、排水セクターを取り囲む数十本の巨大配管から、これまでの数倍の密度を持った「赤黒い沸騰廃水の弾幕」が、雨あられと往診チームへ向けて掃射された。
「 clinical に見て、あの物量はまともに受けたら肉が溶けるぜ! だが……お前が道を拓いたんだ、おっさんの盾(防壁)は伊達じゃねえよな!」
「おうよぉ! 身体が驚くほど軽いぜ! これなら、あのクソ熱い泥水なんぞ、一滴も通さねえ!」
復活したガストンが、完全に浮腫みの抜けた強靭な足腰で大地を蹴り、枢の前へと躍り出た。
彼が掲げた鉄盾からは、先ほどまでのカビ臭い湿気は完全に消え去り、大地の最も深い部分から湧き上がる「清らかな岩盤の気」が、強固な防護壁となって往診チームの前面を完全に遮断した。ヴァルカンの放つ湿熱の弾幕は、ガストンの清らかな気の壁に触れた瞬間、ジュウジュウと白い健全な水蒸気へと変えられ、無力化されていく。
「ジークさん、そして地下の皆さん! 私に力を貸してください。ヴァルカンの背後にある、あの超高圧の『排泄制御弁』を同時に破壊せねば、この湿熱の供給は止まりません!」
「合点承知だ、聖鍼師! 野郎ども、俺たちの命をゴミのように扱ってきた排泄統括に、地下の怒りを叩き込んでやれ!」
「おおおぉぉッ!!」
ジーク率いる地下の廃棄労働者たちが、一斉に声を上げて突撃を開始した。
彼らは先ほど枢の『温鍼』によって「湿邪」の呪縛から解放され、関節の痛みも浮腫みも完全に解消されている。地下の環境を知り尽くした彼らの動きは迅速そのものであり、ヴァルカンが放つ死角からの廃水トラップを軽々と回避しながら、プラントの支柱へと一気に取り付いた。
「ええい、この不良品どもが! 処理されたゴミの分際で、私に牙を剥くか!」
ヴァルカンが激昂し、ホースの照準をジークたちに向けようとしたその瞬間、彼の足元の「影」が、不気味に長く、そして鋭く跳ね上がった。
「 clinical に見て、あんたの目は泳ぎすぎだぜ、統括さんよ。――『影縫い・三陰交』ッ!」
哭の放った漆黒の影の棘が、ヴァルカンの巨体の足元――体内の水分と血液の巡りが交差する最重要の経穴の影へと、正確に突き刺さった。
「ぬ、おっ……!? 足が、動かん……! 影が、私の鎧の重量を……上回っているだと……!?」
「ただの影じゃねえ。地下の皆さんの、そして俺たちの『滞りを押し流す本物の巡りの気』がこもった影だ。そう簡単には引きちぎれねえよ!」
哭が不敵に笑い、短剣の柄を強く握りしめてヴァルカンの自由を完全に奪う。
その隙を見逃さず、ジークたちの放った工具の槍と、ガストンの放った戦斧の投擲が、ヴァルカンの背中に接続されていた高圧ホースの基部を、正確に次々と切断していった。
プシューーーーッ!!!!
制御を失った赤黒い廃水が、ヴァルカンの鎧の隙間から激しく逆噴射した。
「ば、馬鹿な……! マザー・ギガの排泄システムが、この私が……逆流を、起こしているだと……!」
ヴァルカンは自らが放った湿熱の水圧に耐えかねて、配管の上から鉄板の床へと、轟音を立てて転落した。
その巨体の前に、枢先生が静かに歩み寄る。彼の右手には、体内の澱んだ熱を完全に鎮静化させるための、青く透き通ったもう一本の聖鍼が握られていた。
「ヴァルカン。あなたの業務はここまでです。これより、あなたの暴走した経絡を『清熱利湿』し、その頑なな心を潤します」
暗黒の地下世界に、清らかな水の精気が満ちていく。
第二の最高幹部ヴァルカンを完全に追い詰めた往診チームは、マザー・ギガの心臓部へ向けて、さらなる決定的な一歩を踏み出すのだった。
第565話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、排泄統括ヴァルカンの圧倒的な「湿熱」の猛攻に対し、枢先生が聖鍼『陰谷』によってガストンの水毒を瞬時に劇的利尿・排泄させ、さらに哭の影と地下住民たちの絆の連携によって、ヴァルカンの高圧システムを内側から完全に逆流・機能停止に追い詰める、大爽快の「清熱利湿」の逆転劇をお届けいたしました。
さて、今回は作中のガストンのように「急激な湿気と熱(湿熱)によって、下腹部や骨盤の周りが灼熱するように激しく痛み、尿の出が極端に悪くなって残尿感やピリピリとした炎症(尿路感染や急性膀胱炎の症状)に襲われたり、足腰が熱を持って重だるく強張って一歩も動けなくなってしまった時」に、下半身の『水門』をさらに強力に突き動かし、こびりついた湿熱のヘドロをおしっことして劇的に体外へ排泄・濾過して、内臓の炎症を瞬時に鎮めてくれる、足の最も高名な水分代謝の超重要穴をお届けします。
今回ご紹介するのは、内くるぶしの上にある、三つの陰の経絡が交わる大要所『三陰交』です。
場所は、**足の内側にあり、内くるぶしの最も高いところに小指を当て、指幅4本分(人差し指・中指・薬指・小指)をあてた上の端で、すねの骨のすぐ後ろ側のキワ(指で押すと非常に強いズーンとした痛みがあるところ)**にあります。
東洋医学において、ここは「足の太陰脾経」「足の厥陰肝経」「足の少陰腎経」という、体内の水分、血液、生命エネルギー(精)を司る三つの重要な経絡が文字通り『交わる』、東洋医学を代表する万能の名穴です。下半身に湿熱の毒が溜まって炎症を起こしている時は、この『三陰交』の周囲が熱を持ってパンパンに硬く腫れ上がり、軽く触れるだけでも飛び上がるほどの激痛が走ります。ここを適切に刺激することで、作中で哭がヴァルカンの動きを止めたように、滞っていた血液と水分の巡りが劇的に改善され、膀胱や大腸の熱(炎症)が速やかに尿として排出され、下腹部の激しい痛みや下半身の熱い浮腫みが劇的に解消されます。
ケアする場合は、親指の腹をツボに当て、すねの骨の裏側に骨を押し上げるように、じわーっと優しく、しかし確実な圧で5秒間押し込むのを左右交互に7回ほど繰り返してみてください。冷えやむくみ、女性特有の不調にも絶大な効果を誇るこの『三陰交』を優しくケアすることで、ヴァルカンの湿熱の弾幕を打ち破った枢先生たちのように、体内の不要な澱みと熱を綺麗に洗い流し、どこまでも軽やかで清らかな心身を取り戻すことができますよ。
次なる第566話は、本日**7月20日(月曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております。
倒れたヴァルカンの口から語られる、ホストシステム『マザー・ギガ』の真の正体、そして地下世界を統括する「第三の最高幹部」とは!? どうぞお楽しみに!




