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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第六章:過労の覇権と再生の経絡】

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第548話「巨悪の濾過(ろか)器と、地脈の瀉法」

防衛人形の軍勢を、魔力流路の隙間を突く「鋼の点穴」によって無力化した枢先生たち。旧地下大水路のさらに奥、ハザリアの全エネルギーを吸い上げ、代わりに焦燥の毒を垂れ流していたギガワークスの巨大な心臓部――「魔導ろ過装置」へとついに到達します。都市の地脈を人為的に歪めるという最悪の病理を前に、聖鍼師の「瀉法しゃほう」の理が炸裂する、緊迫の超大ボリューム回をじっくりとお楽しみください。

 防衛人形たちが沈黙した地下大水路には、再び重苦しい静寂が戻っていた。


 だが、それは平穏な静けさでは断じてない。耳を澄ませば、地鳴りのような低い駆動音が、足元の石畳を絶え間なく震わせている。奥へ進むにつれて、空気の「澱み」は目に見えるほどのどす黒い霧となり、天幕でベッカーが語っていた「構造的な毒殺」の規模が、個人の想像を遥かに絶するものであることを物語っていた。


 「……おいおい、こいつは想像以上だな。 clinical に見て、このエリアの空気そのものが致死量の『邪気』で満ちてやがるぜ」


 哭が鼻をひくつかせ、短剣を構え直しながら嫌悪感を露わにする。


 彼の言う通り、そこはもはや人の立ち入るべき場所ではなかった。壁面を這うギガワークスの黒い配管は、まるで巨大な怪物の血管のようにドクドクと不気味に拍動し、すべての管が、大水路の最奥に位置する巨大な円形広場へと収束している。


 枢、哭、ガストンの三人がその広場に足を踏み入れた瞬間、目の前に現れた光景に、ガストンは思わず息を呑み、戦斧を握る手に強烈な力がこもった。


 「これが……ベッカーの言っていた、ろ過装置か……!」


 広場の中央に鎮座していたのは、見上げるほどに巨大な、むき出しの魔導機械だった。

 かつてハザリアの地を潤していたはずの清らかなエネルギーが湧き出る『龍穴』。その真上に、まるで巨大な寄生虫のように鋼鉄の装置が突き刺さっている。本来であれば清澄な大地の光を放つはずの地脈の奔流は、装置の内部に設置された何重もの黒い結晶盤を通過するたびに、赤黒い、悍ましい色へと染め上げられていた。


 装置の上部からは、濁りきったエネルギーが街の各所へと配管を通じて送り出され、逆に、本来の瑞々しい大地の恵みは、ギガワークスの中央魔導炉へと強引に誘導されている。


 「大地の息吹を吸い上げ、代わりに焦燥と不眠の毒を流す心臓……。これが、ハザリアを縛り付けていた病魔の本体ですか」


 枢の白銀の瞳が、怒りと共に冷徹な輝きを放った。

彼の卓越した診立て能力は、その巨大な機械の構造を、一つの「歪んだ生命体」として瞬時に解剖していた。これはただの機械ではない。大地の経絡を強引に圧迫し、人為的に「血瘀けつお」と「気滞きたい」を作り出す、まさに東洋医学の理に対する最大の冒涜だった。


 「枢、これを叩き壊せば終わりか? 俺の戦斧なら、この程度の鉄の殻、一撃で叩き割って見せるが!」


 ガストンが前に出ようとするが、枢は即座にそれを制した。


 「待ってください、ガストンさん。力任せに破壊してはいけません。この装置は、ハザリアの地脈と完全に同化してしまっている。今ここで強引に叩き壊せば、堰き止められた大量の邪気が一気に地上へと噴出し、ハザリアの住民全員の経絡を焼き尽くす大惨事になります」


 「チッ、壊しちゃダメってか。じゃあどうするんだよ、相棒。生身の人間ならお前が針を刺して一発だが、このデカブツ相手にどうやって治療オペを施すつもりだ?」


 哭が呆れたように肩をすくめるが、その視線は、枢が何かを成し遂げることを確信しているようだった。


 「人間も、土地も、流れるエネルギーの法則は同じです」


 枢は静かに歩を進め、装置の直前へと立った。

 猛烈な邪気の風が枢の白い医療着を激しくなびかせ、肌を刺すような悪寒が彼を襲う。だが、枢の運気は寸分の乱れもなかった。彼は腰の帯から、通常の治療では決して用いることのない、一本の「特製の長鍼」を取り出した。それは、純度の高い魔導銀で打たれた、人体の骨ほどもある太さと長さを持った聖鍼だった。


 「体内に余剰な邪気が満ち、破裂寸前になっている時……医者が取るべき手段は一つしかありません。――『瀉法しゃほう』を以て、その毒を安全に体外へと排出し、本来の流路へと還す」


 枢は精神を極限まで集中させた。

 彼の頭の中に、ハザリアの街全体の地脈の地図が立体的に浮かび上がる。この巨大な装置が「詰まり(実証)」を作り出しているのなら、そのエネルギーの結節点――人間で言う『合穴ごうけつ』に相当する、魔力の圧力が最も高まっている隙間を突き刺せばいい。


 「哭、ガストンさん。装置の四方にある魔力制御の補助バルブを、私の合図と同時に完全に破壊してください。地脈の圧力を一瞬だけ、この一点に集中させます」


 「了解だ。タイミングは外さねえよ!」


 「おう、任せとけ!」


 二人が影と化して装置の左右へと跳ぶ。枢は長鍼を両手で保持し、装置の基部、赤黒い光が最も激しく明滅する「魔力流路の収束点」を見据えた。


 「今です! やってください!」


 枢の鋭い号令とともに、ガストンの戦斧が補助バルブを叩き割り、哭の短剣が魔導回路を正確に切断した。

 ガガガガガ! と機械が異常な駆動音を立て、行き場を失った膨大な赤黒いエネルギーが、一気に中心部へと逆流し、破裂のエネルギーへと変わる。


 「――東洋医学の源流の理、地脈の淀みをここに瀉す!」


 枢は恐れることなく、そのエネルギーの渦中へと踏み込み、長鍼を装置の心臓部へと深く、深く突き刺した。


 バチィィィィン!!


 地下大水路全体が真っ白な閃光に包まれた。

 長鍼を通じて、装置内部に溜まっていた「焦燥の邪気」が、枢の身体を迂回し、彼が大地に設定した安全な『排毒の経絡』を通って、地下の岩盤の奥深くへと吸い込まれていく。強烈な反動が枢の腕を襲い、骨が軋むような衝撃が走るが、彼は白銀の瞳を見開いたまま、一歩も退かずに鍼を押し込み続けた。


 「おおおおお!」


 枢の気迫に応えるように、長鍼から放たれた銀の光が、装置の黒い結晶盤を次々と貫き、浄化の波動となって広がっていく。

 濁っていた赤黒い魔力が、みるみるうちに本来の、瑞々しいエメラルドグリーンの輝きへと上書きされていく。ギガワークスが何年もかけて作り上げていた歪んだシステムが、東洋医学の正確無比な一撃によって、根底からひっくり返されていく瞬間だった。


 パキィン、と美しい音が響き、装置の中央の制御盤が完全に砕け散った。

 同時に、配管を流れていた不気味な振動がピタリと止まる。代わりに、龍穴からは、冷涼で心地よい、本物の大地のエネルギーが切々と湧き出し、地下大水路を満たしていった。


 「はっ……、やりやがった。本当にあのデカブツを『治療』しちまいやがったぜ」


 哭が呆然とした表情で、光を取り戻した龍穴を見つめる。


 「うむ、さすがは枢先生だ。空気の重苦しさが、完全に消え去ったな」


 ガストンも戦斧を収め、深く息を吸い込んだ。その表情には、先ほどまでの疲労感はなく、大地の浄化された気が身体を癒していくような心地よさが満ちていた。


 枢は静かに長鍼を引き抜き、自身の呼吸を整えた。その顔には疲労の色があったが、白銀の瞳には、確かな達成感が宿っていた。


 「これで、ハザリアの根腐れは止まりました。これからは、大地が本来の力で街を癒していくはずです」


 しかし、喜びも束の間、砕け散った制御盤の奥から、一つの小さな魔導投影機が起動し、虚空に不気味な紋章を映し出した。それはギガワークスの「中央最高幹部」のものだった。


 『――地脈のろ過装置の停止を確認。不穏分子の排除、およびハザリアの【強制再起動フォーマット】のため、これより特務部隊を派遣する――』


 冷酷な機械音声が響き渡る。

装置を破壊したことで、ついにギガワークス本営の「真の脅威」が動き出そうとしていた。だが、枢たちの心に恐れはなかった。地脈を取り戻したハザリアは、もう、かつての無力な街ではない。都市の真の再生と、迫り来る決戦に向けて、往診チームの戦いは新たな局面を迎えるのだった。

 第548話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、ハザリアを支配していた病魔の根源である「魔導ろ過装置」に対し、枢先生が東洋医学の「瀉法」を用いて、都市全体の地脈を浄化・解放するカタルシス溢れる展開をお届けいたしました。力で破壊するのではなく、流路を正して毒を逃がすという、聖鍼の真骨頂を感じていただければ幸いです。


 さて、今回は作中の枢先生たちが「膨大な邪気の圧力に耐え、それを安全に体外へと排出した時」のように、体内に溜まりに溜まったストレスや、暴飲暴食による胃腸の熱(毒素)を強力に下へと押し流し、全身のデトックスを促してくれる究極の「瀉血・排毒ツボ」をお届けします。


 今回ご紹介するのは、足の経絡にある、体内の悪いものを強力に吐き出させるツボ『内庭ないてい』です。

場所は、足の甲側にあり、足の人差し指と中指の間の付け根の、ぷっくりとしたみずかきのキワにあります。


東洋医学において、ここは「胃」の経絡の熱を強力に冷ます拠点であり、体内に溜まった「湿熱(過労やストレス、暴飲暴食で生まれるドロドロとした毒気)」を効率よく体外へ瀉す(排泄する)効果があります。作中で枢先生が長鍼で装置の毒を抜いたように、現代人が日々のプレッシャーで胃がキリキリしたり、口内炎ができたり、顔に吹き出物が出たりする時は、この『内庭』に邪気がパンパンに詰まっています。ここを刺激することで、上へのぼった熱が一気に下へと引き下げられ、全身の気の巡りが劇的にクリアになります。


ケアする場合は、親指の先をツボに当て、足の裏側に向かってつまむように強くジワジワと7秒間押し込むのを、左右交互に5回ほど繰り返してみてください。少し痛みを伴うことがありますが、押した後にスーッと頭や胸が軽くなり、体内の澱みが洗い流されるような爽快感を実感できますよ。


 次なる第549話は、明日**7月12日(日曜日)の【12:00】**に定期更新を予定しております。ギガワークス本営が放つ特務部隊の影に対し、新生したハザリアの防人たちと往診チームはどう立ち向かうのか。どうぞお楽しみに!

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