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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第六章:過労の覇権と再生の経絡】

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第547話「鋼の経絡と、点穴の閃光」

旧地下大水路へ潜入し、ギガワークスの防衛人形ゴーレムと対峙した枢先生たち。生身の肉体を持たない鉄鋼の敵に対し、聖鍼師の技はどのように通用するのか。哭の闇の技術、ガストンの剛腕、そして枢先生の点穴の理が絡み合う、緊迫の戦闘回をじっくりとお届けします。

 「ガシャイン! ドグォォォン!」


 地下大水路の湿った空気を引き裂き、防衛人形の巨大な鉄拳が石床を粉砕した。

 飛び散る石礫を、ガストンがその巨躯に似合わぬ俊敏さで紙一重に subterranean(地下)の闇へと回避する。その背後から、もう一体の人形が赤黒い魔導光を放ちながら、容赦のない追撃の横薙ぎを繰り出してきた。


 「おっと、そっちは俺の獲物だぜ!」


 影から躍り出た哭が、短剣の刃で人形の腕の関節を受け流す。金属同士が激しく擦れ合い、暗闇の中に鮮烈な火花が散った。しかし、人形の身体は超硬度の鉄鋼。哭の鋭い斬撃をもってしても、その表面に細い傷をつけるのが精一杯だった。


 「チッ、硬えな! clinical に見て、こいつらの装甲は通常の武器じゃ埒が明かねえぞ!」


 「ええ。ですが、彼らの動力源は魔導結晶です。そのエネルギーが四肢へと行き渡る『経路』は、必ず存在します」


 枢は白銀の瞳を凝らし、迫り来る人形たちの動きを凝視していた。

 彼の目には、単なる鉄の塊ではなく、中心核の赤黒い光から全身の関節へと脈動しながら流れる、不自然な「魔力の奔流」が見えていた。それこそが、人工的に作られた『鋼の経絡』だった。


 ガシャイン! と、一体の人形が枢を標的に定め、突撃してくる。風を切る猛烈な圧力が枢の髪を揺らした。


 「枢、下がれ!」


 ガストンが叫び、戦斧を盾のように構えて割り込もうとする。しかし、枢は一歩も引かなかった。それどころか、突進してくる人形の懐へと、自ら吸い込まれるように踏み込んだのだ。


 「――『大腸経だいちょうけい』に相当する、上肢の駆動流路。ここです」


 枢の身体が滑るように人形の右腕をすり抜ける。その刹那、彼の指先に挟まれた太い銀鍼が、人形の肘関節のわずかな隙間――人間で言う『曲池きょくち』の要穴に該当する、魔導回路の接合部へと正確無比に突き刺さった。


 バチバチバチッ!


 人形の腕から、激しい青白いスパークが弾けた。次の瞬間、勢いよく振り下ろされようとしていた鉄拳が、まるで糸の切れた人形のようにカクンと脱力し、虚しく空を切った。


 「なっ……!?」


 ガストンが驚愕の声を上げる。


 「生身の筋肉が過労でガチガチになるように、この人形たちもまた、効率を最優先した過剰な魔力供給によって、関節部の流路に限界以上の熱(邪気)が溜まっています。そこに鍼を打ち込み、回路を『短絡ショート』させて熱を逃がせば、一時的に駆動制御は完全に喪失します」


 枢は流れるような動作で鍼を引き抜くと、そのまま人形の胸元――中心核へと繋がる『膻中だんちゅう』の要穴に相当する術式節へと、二の矢となる鍼を放った。


 「――点穴、解放」


 ドスン、と低い音が地下水路に響き、一体の人形が完全に赤黒い光を失って、その場に物言わぬ鉄の塊となって崩れ落ちた。


 「ははっ! さすがは俺の相棒だ。鉄人形相手にも『往診』が通用するってわけだな!」


 哭が快哉を叫びながら、残る二体の注意を引きつけるために翻弄する。


 「ガストンさん、哭! 残りの二体も、関節の駆動部を狙って動きを鈍らせてください。私がすべての経絡を断ち切ります!」


 「応よ! 叩き壊すのは無理でも、動きを止めるくらいならお手の物だ!」


 ガストンが咆哮し、戦斧の腹を使って二体目の人形の足を強烈に薙いだ。バランスを崩した人形の隙を突き、哭が関節の隙間に短剣を突き立てて固定する。


 「そこです!」


 枢の白い医療着が闇に翻る。

 彼の放つ銀鍼が、一閃、二閃と地下の闇を切り裂き、残る防衛人形たちの要穴へと次々に吸い込まれていった。バチバチと響く魔力の破裂音と共に、すべてのゴーレムが静寂へと沈んでいく。

.

 静まり返った水路の奥から、ドク、ドクと、都市の地脈を蝕む不気味な機械音が、いよいよ大きく聞こえてきた。


 「ふぅ……。これで邪魔者は消えたな」


 哭が短剣を収め、汗を拭いながら奥の暗闇を見据えた。


 「ええ。この先に、ハザリアの血液を濁らせている『ろ過装置』があるはずです。行きましょう、この街の本当の朝を取り戻すために」


 枢たちは視線を交わし、さらに深く、澱みの中心へと足を進めるのだった。

 第547話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、意思を持たない鋼の防衛人形に対し、東洋医学の「流路の理」を応用して無力化する、枢先生ならではの緻密な戦闘描写をお届けいたしました。どれほど硬い装甲を持っていても、エネルギーが流れる以上は必ず「ツボ(要穴)」が存在するという、鍼灸の深遠さを感じていただければ幸いです。


 さて、今回は作中の防衛人形のように「過剰なエネルギーや熱が一部分に溜まりすぎて、関節がガチガチに強張ってしまっている時」や「イライラや焦燥感で頭が爆発しそうな時」に、体内の余分な熱を劇的に逃がし、リセットしてくれる特効穴をお届けします。


 今回ご紹介するのは、手のひらにある高ぶった神経を鎮めるツボ『労宮ろうきゅう』です。

場所は、手を軽く握った時に、中指の先と薬指の先が手のひらに当たるところの間にあります。


東洋医学において、ここは「しん」の経絡に深く関わっており、文字通り「労働の宮殿」――過労や精神的なストレスが最も溜まりやすい場所とされています。デスクワークで常に手を緊張させている人や、焦燥感で胸が苦しい時にここを刺激すると、作中の人形がスパークを起こして脱力したように、全身の余計な力みがふっと抜けていきます。


ケアする場合は、反対側の親指をツボに当て、手の甲に向かってじわーっと心地よい響きを感じる強さで5秒間押し込むのを左右交互に数回繰り返してみてください。押しながら深呼吸をすると、驚くほど心が落ち着き、ガチガチだった肩や腕の緊張が和らぐのを実感できますよ。


 次なる第548話は、本日**7月11日(土曜日)の【21:00】**に更新を予定しております。

いよいよ地下の邪気発生源へと到達する往診チーム。そこで待ち受けるギガワークスの最後の仕掛けとは!? どうぞお楽しみに!

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