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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第六章:過労の覇権と再生の経絡】

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第549話「強制再起動の影と、防人の結束」

地下の魔導ろ過装置を浄化し、ハザリアの地脈を本来の瑞々しい状態へと戻した枢先生たち。しかし、システムの異常を検知したギガワークス本営は、都市の強制再起動を目論み、冷酷無比な特務部隊の派遣を決定します。地上へと戻った往診チームを待ち受ける、新たな緊迫の局面を描写いたします。

 旧地下大水路の暗闇から地上へと帰還した枢たちの目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。


 東の空から差し込み始めた朝の光。それに照らされたハザリアの中央広場は、昨日までの焦燥感に満ちた灰色ではなく、どこか洗いたてのような、清澄な輝きを放っていた。地脈の毒が抜けたことで、大地の底から湧き上がる清らかな気が石畳を、建物を、そして街全体の空気を急速に塗り替えていたのだ。


 「――これは、一体……」


 第一経絡調整所の天幕の前で待機していた元監査官のベッカーは、自分の肌を撫でる朝風の優しさに目を見開いていた。いつも彼を苛んでいた、脳を強引に覚醒させるような魔導波の雑音が、完全に消失している。


 「ベッカーさん。地下のろ過装置の浄化は完了しました。もう、この街に焦燥の毒が流れることはありません」


 天幕に戻ってきた枢が、白い医療着の袖を整えながら告げた。その表情には地下での激闘による疲労が微かに滲んでいたが、白銀の瞳には確かな平穏が宿っている。


 「本当に……あの巨大なシステムを、その細い鍼一本で書き換えてしまったのか。東洋医学の理とは、これほどまでに土地の構造すら変えてしまうものなのか……」


 ベッカーは震える手で自身の胸元を押さえた。彼自身の経絡もまた、枢たちの手によって調和を取り戻しつつあり、深く息を吸い込むたびに、内側から「潤い」が満ちていくのを感じていた。


 しかし、枢の表情はすぐに引き締まった。


 「ですが、喜んでばかりはいられません。装置の深部から、ギガワークス本営の警告音声が響きました。こちらの動きは向こうに完全に察知されています。ハザリアを『強制再起動フォーマット』するため、特務部隊を派遣する、と」


 「強制再起動……!?」


 その言葉を聞いた瞬間、ベッカーの顔から一気に血の気が引いた。


 「まずい、それは最悪の選択肢だ。ギガワークスにおける『フォーマット』とは、単なる管理権限の初期化ではない。街の住民全員の脳に強制的な精神術式を流し込み、過去の記憶や自我を一時的に凍結して、純粋な『労働人形』へと作り変える大量洗脳措置のことだ!」


 「何だと? clinical に見て、そいつはただの精神破壊じゃねえか。効率を求めるあまり、ついに生身の人間であることを否定し始めやがったか」


 哭が短剣の刃を弄びながら、漆黒の双眸に冷徹な怒りを宿らせる。


 「ええ。本営が動かす特務部隊『黒鉄の執行官アイアン・レギュレーター』は、人間らしい感情を一切排除した、効率の権化のような奴らです。彼らが到着すれば、ハザリアは本当の意味で死んだ都市になる」


 ベッカーの警告に、天幕の中の空気が一気に張り詰める。

大地の経絡を正し、ようやく人々が本物の休息を手に入れ始めたこのハザリアを、再び、いや、以前よりも酷い地獄へと逆戻りさせるわけにはいかない。


 「だったら、その特務部隊とやらがこの街に一歩も立ち入らせなきゃいい話だろ?」


 天幕の入り口を跳ね上げ、堂々とした足取りで入ってきたのは、衛兵隊長のバルトだった。彼の後ろには、昨日まで過労で倒れ伏していたはずの、しかし今は見違えるほど生気に満ちた若き防人たちが、鋭い目つきで控えている。


 「バルト隊長、身体の具合は……」


 「おう、枢先生! 先生の打ってくれた鍼と、ハクたちが据えてくれたお灸のおかげでな、今までの人生で一番身体が軽いぜ! 筋肉の芯まで力がみなぎってやがる。街の連中もみんなそうだ。みんな、自分がどれほど異常な働き方をさせられていたか、ようやく気づいたのさ」


 バルトは太い腕を組み、不敵に笑った。


 「ギガワークスの上が、この街をまた奴隷の巣窟に戻そうってんなら、俺たち防人が黙っちゃいねえ。先生たちが地下で命がけで戦ってくれたんだ、今度は俺たちが地上を守る番だろ?」


 「バルトさん……」


 ハクとリナが、救われた防人たちの力強い言葉に、熱いものを胸に込み上げさせる。


 「いい面構えだ。国境の防衛戦を思い出すな」


 ガストンが重厚な笑い声を上げ、巨大な戦斧の柄を叩いた。


 「ベッカーさん、特務部隊がハザリアに到達するルートは?」


 枢の問いに、ベッカーは地図を指差しながら即答した。


 「本営からの最短ルートは、北の『峻険なる渓谷街道』のみ。そこは道幅が狭く、軍勢を展開するには不向きな場所です。あらかじめ防衛線を築けば、数の不利を補うことができるはずだ」


 「分かりました。バルト隊長、防人たちを率いて北の渓谷の防備をお願いします。哭、ガストンさんも彼らのサポートに」


 「おいおい、お前はどうするんだ、枢? 主治医が前線に立たねえのか?」


 哭が眉をひそめて尋ねる。


 「私はここに残り、特務部隊との衝突で傷ついた人々をいつでも受け入れられるよう、医療体制を完璧に整えます。そして、ベッカーさんと共に、街に残されたギガワークスの『残存術式』を完全に中和する作業を進めます。前線が持ちこたえている間に、街の免疫力を最大まで高めるのです」


 枢の言葉には、一切の迷いがなかった。戦う者、守る者、そして癒す者。それぞれの役割が東洋医学の『五行ごぎょう』のように噛み合い、一つの巨大な「防衛の経絡」が、ハザリアの地に形成されようとしていた。


 「よし、野郎ども! 聖鍼師の先生から直々の往診命令だ! 俺たちの健やかな身体を、あの冷酷な組織に見せつけてやろうじゃねえか!」


 「おおお!!」


 バルトの号令とともに、活気を取り戻した防人たちが一斉に動き出す。

迫り来るギガワークス最強の特務部隊。ハザリアの存亡をかけた、都市の「自己免疫」による最大の拒絶反応が、今まさに始まろうとしていた。

 第549話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、浄化された地脈の恩恵を受けて復活した防人たちが、街を守るために立ち上がる熱い結束の場面を描写いたしました。ギガワークス本営の「強制再起動」という冷酷な脅威に対し、ただ怯えるのではなく、回復した生命力を武器に立ち向かう人々の姿から、医療がもたらす本当の強さを感じていただければ幸いです。


 さて、今回は作中の防人たちのように「未知の強敵やプレッシャーに立ち向かうために、身体の『防衛力(東洋医学における『衛気:えき』)』を極限まで高め、ウイルスや外敵(邪気)を一切寄せ付けない最強のバリアを張りたい時」に、免疫力を覚醒させる下半身の重要穴をお届けします。


 今回ご紹介するのは、足の太陰脾経にある、免疫と血流の要所『三陰交さんいんこう』です。

場所は、足の内くるぶしの最も高いところから、手の指幅4本分(人差し指から小指まで)上がったところの、すねの骨の後ろ側のくぼみにあります。


東洋医学において、ここは「肝」「脾」「腎」という、体内のエネルギーと血液を司る3つの重要な経絡が文字通り「交わる」最重要拠点です。ここに刺激を与えることで、体内の『衛気(外敵から身を守るバリアのような気)』が爆発的に増強され、精神的なプレッシャーによる自律神経の乱れをリセットし、下半身の冷えを劇的に解消して腰を据えさせる効果があります。


ケアする場合は、親指の腹を骨のキワに潜り込ませるように当て、すねの骨に向かって斜め上方向にじわーっと5秒間押し込むのを左右交互に7回ほど繰り返してみてください。押し終えた後に足元から全身へ向けて温かい血が巡り、ハザリアを守る防人たちのように、どんな困難にも負けない強い活力が身体の芯から湧き上がってくるのを感じられますよ。


 次なる第550話は、本日**7月12日(日曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております。北の渓谷で激突する防人たちと特務部隊、そして枢先生の次なる一手とは!? どうぞお楽しみに!

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