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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第497話「星海の針路!夜の帳(とばり)と安眠の養生」

土曜日、週末の夜にお届けするのは、新章『潮騒の交易島編』第497話です。

本日の12時更新では、特産の柑橘の香りで庁舎内の「気の滞り」を散らし、ガストンやシオンによる執務環境の改善、そして心の関所を守る名穴「内関」の養生を伝えた往診チーム。

今夜描かれるのは、交易島での最後の夜。

大きな危機を乗り越え、すっかり活気と笑顔を取り戻した島の人々に見送られながら、一行は次なる目的地へ向けて静かに夜の海へと帆を上げます。

一週間の疲れがじんわりと温まり、深い眠りへと誘われるような優しい余韻の物語をどうぞお楽しみください。

 夜の帳がすっかりと降りた交易島『サン・バルサ』は、昼間の喧騒が嘘のように、穏やかな波の音に包まれていた。

 港に停泊する魔導船のデッキからは、夜空にきらめく無数の星々と、波間に揺れる街の灯りが一望できる。潮風は日中の熱を帯びたものから、ひんやりとした心地よい涼しさへと変わっていた。


「ふぅ……。おいしいご飯もたくさんいただいたし、これでサン・バルサ島での往診も、本当の意味で一段落だね」

 ネネがデッキのベンチに腰掛け、夜空を見上げながら気持ち良さそうに伸びをする。

 先ほどまで、統理府のオルセンをはじめとする職人たちが、往診チームへの感謝を込めて、新鮮な海の幸をふんだんに使った温かいスープや地魚の料理を振る舞ってくれていたのだ。かつては土気色の顔で算盤を叩き殴っていた若者たちが、今夜は心底楽しそうに笑い、食事を楽しんでいた。


「ああ、実に良い夜だ。あの傲慢なギルドの連中も、二度と不当な契約は吹っかけてこられないだろうしね。おっさんたちの顔つきも、完全に生きた人間のそれに戻っていた」

 ハクが片眼鏡を外し、星明かりの下で愛用の天球儀を静かに磨いている。


「ええ。環境の改善と、一時間ごとの『凪の時間』が、さっそく職人たちの体内に良い循環を生み出しているようでした」

 シオンが傍らで魔導書の記録を整理しながら、満足そうに頷く。


「だけどよ、先生。おっさんたちの身体はひとまず安心だとして、俺たちの次の針路はどこに向かうんだ?」

 ガストンが大きな腕を組み、船首の向こうに広がる暗い海原を見つめた。


「次の目的地は、ここからさらに西へ進んだところにある孤島です」

 くるるが往診鞄の手入れをしながら、静かに答えた。

「ですが、その前に……。今夜は皆さんも、この数日間の緊張を一気に解きほぐし、深く眠るための養生をしておきましょう。西海を渡る旅は、まだ始まったばかりですからね」


「お、先生。俺たちにもお守りの鍼を打ってくれるのか?」

 ガストンが嬉しそうに丸太のような腕を差し出す。


「いえ、今夜は鍼ではなく、皆さんの手で簡単に行える『安眠の揉圧じゅうあつ』です」

 枢はそう言って、自身の耳の後ろ、ちょうど耳たぶの後方にある高くなった骨のふちから、少し後ろに下がったくぼみを指先で示した。


「耳の後ろにある、その小さなくぼみを、親指の腹で頭の中心に向けて、じわじわと痛気持ちいい強さで押し上げてみてください」


 ネネやリナ、そしてガストンたちも言われた通りに、自分の耳の後ろのくぼみに指をあて、ゆっくりと圧をかけていく。


「あ……、何これ。すごく奥の方にズーンと響いて、目が勝手にトロンとしてきちゃう……」

 リナが魔導銃を傍らに置き、気持ち良さそうにふにゃりと表情を緩ませた。


奇経八脈きけいはちみゃくの一つ、陰蹻脈いんきょうまくと深い関わりを持つ経穴――『安眠あんみん』です」

 枢の声は、夜の静寂に溶け込むようにどこまでも優しく響く。

「その名の通り、頭部に上った余分な気血を鎮め、昂ぶった神経を強制的に休ませて、深い眠りへと導く特効穴です。長旅による環境の変化や、精神的な緊張で、頭が冴えて眠れない夜に、ここを呼吸に合わせてゆっくりと5秒ほど揉みほぐすだけで、身体は自然と休息のモードに入っていきます」


「はぁ……。本当に、身体の力が抜けていくね……。ハクさん、なんだか星が二つに見えるよ……」

 ネネがベンチの背もたれに頭を預け、今にも眠りにつきそうな小さな声を漏らす。


「やれやれ、これでは夜間の見張り役は私一人が引き受けることになりそうだな」

 ハクが呆れたようにため息をついたが、その指先もまた、自らの耳の後ろの「安眠」を優しく押し揉んでいた。彼の口からも、長い航海の疲れを吐き出すような、深い安堵の息が漏れる。


「皆さん、今夜はもう船室に入り、温かくして横になってください。明日の朝、目が覚めたときには、サン・バルサ島の素晴らしい潮騒が、私たちの背中を力強く押してくれるはずです」


 枢が静かに立ち上がり、魔導船のランタンの火を少しだけ落とす。

 職人たちの誇りを取り戻した交易島を背に、星々が照らす広大な海原へと、船は音もなく滑るように動き出すのだった。夜の静寂に守られながら、往診チームの健やかな眠りと旅路は、どこまでも深く、穏やかに続いていく――。

 第497話「星海の針路!夜のとばりと安眠の養生」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

.

 新章『潮騒の交易島編』の締め括りとして、激動の数日間を駆け抜けた往診チーム自身の休息と、週末の夜にふさわしい、心身を深い眠りへと導くための優しいひとときを描かせていただきました。

 大仕事を終えた後の心地よい静けさと、次の旅への穏やかな予感を感じていただけていれば幸いです。


 今回、枢先生がメンバーに伝えた、頭部にある非常に実用的な名穴「安眠あんみん」の効能について解説いたします。


 東洋医学において「安眠」は、首の後ろにある「風池ふうち」と耳の後ろの「翳風えいふう」を結んだ直線のちょうど中間付近にある、文字通り不眠症や睡眠の質の改善に対して絶大な効果を持つ奇穴きけつです。


 ここは、日中に頭脳をフル回転させたり、パソコンやスマートフォンの画面を見続けて頭部に熱や緊張がこびりつき、「布団に入っても頭が冴えて眠れない」「途中で何度も目が覚めてしまう」といった状態のときに、非常に優れた鎮静効果を発揮します。

 ここを親指の腹でじわじわと(呼吸に合わせて5秒ほど、3〜5回)優しく揉みほぐしてあげることで、首回りの大きな筋肉の緊張が和らぎ、自律神経が交感神経からリラックスの副交感神経へとスムーズに切り替わります。


 土曜日の夜、一週間の疲れが溜まり、明日からの休息に向けてしっかりと睡眠をとりたい現代の皆様にとっても、お布団の中やお風呂上がりにご自身で手軽に行える、最高のご褒美養生の一つです。ご自身の安眠のツボを優しくほぐしながら、どうぞ心地よい眠りをお迎えください。


 サン・バルサ島を旅立ち、次なる孤島へと針路を向けた往診チーム。そこでは一体、どのような新しい病巣とドラマが待ち受けているのか。


次なる第498話は、明日日曜日の【12:00】に更新予定です。

週末日曜日の昼、新しい海の旅の始まりをどうぞお楽しみに!

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