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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第486話「蒸気都市の煤煙!喉を塞ぐ煙毒と少商の点刺」

不老の霊峰を越え、ネネちゃんという心強い仲間を加えた往診チームが次に辿り着いたのは、黒い煤煙と白い蒸気に包まれた、巨大な鉄鋼の都市「スチーム・ガルド」でした。

新しい一週間の始まりとなる月曜日のお昼休みに、往診チームを待ち受けていたのは、都市の中央煙突から漏れ出した、喉を激しく焼き尽くすような最悪の「煙毒えんどく」。

呼吸の関門である喉を完全に腫れ上がらされ、声すら失っていく都市の職人たち。

逃げ場のない煙の街で、新メンバー・ネネのすり鉢と、聖鍼師・枢先生の白銀の長鍼が、詰まった喉を一瞬で拓く、プロの「劇的治療」を披露します!


「鉄を鍛えるための炎が、人々の喉を、気道を焼き尽くそうというのなら、私の一鍼が、その燃え盛る『熱毒』を一瞬で外へと逃がしてみせましょう! ハクさん、ネネさん、喉を潤す清涼の調合を! 皆さん、蒸気都市の緊急往診、開始します!」


12時、月曜昼の更新。世界往診紀行編・蒸気都市編、開幕の第486話!

新しい一週間のスタートに、喉の奥がスーッと涼しくなるような、最高に鮮やかな救命治療劇をどうぞお楽しみください!

 何重にも絡み合う鉄パイプから白い蒸気が吹き出し、巨大な歯車が地鳴りを立てて回転する鉄鋼の都市「スチーム・ガルド」。

 不老の霊峰から次なる航路を進めていた魔導船がその港へと停泊した途端、往診チームを迎えたのは、太陽の光を遮るほどのドス黒い煤煙と、ツンと鼻を突く化学的な煙の臭気だった。


「ゲホッ、ゲホゲホッ!……うわ、何これ……! 空気の中に、喉をパチパチ刺すような、嫌な熱い粉が混ざってるよ……っ」

 ネネがハンカチで必死に口元を押さえながら、目をショボショボさせて激しく咳き込んだ。


「フん、都市の中央精錬所から漏れ出した、鉱石の『煙毒えんどく』だな。ただの煙ではない、熱を孕んだ微細な鉄粉が、人間の喉の粘膜を直接焼きにきている。呼吸器の関門が完全に炎症を起こしているぞ」

 ハクが片眼鏡の奥の目を鋭く細め、往診鞄から取り出した特殊な遮断布をネネの口元へと巻いてやる。


「ええ。東洋医学でいう『熱毒ねつどく』が、喉という肺の門戸もんこに急激に充満し、気道を塞ごうとしています。このままでは、都市の職人たちが窒息してしまうのも時間の問題です」

 枢が往診鞄を手に、ガス灯の並ぶ大通りへと足を進めると、そこには喉を掻きむしり、声すら出せずに悶絶している多くの職人たちが倒れ込んでいた。彼らの喉は赤黒く腫れ上がり、まるで火傷を負ったかのように熱を帯びている。


「あ、あぐ……っ、が……ッ……!」

 一人の若い鍛冶職人の男が、枢の白衣を掴もうとするが、喉が腫れすぎて声にならず、ただ苦しげに喉元を指差して涙を流した。


「大丈夫ですよ。喋らなくて結構です。……その喉の燃えるような熱、私が今すぐ全て抜き去ってみせましょう」

 枢が親方の男の手を優しく握り、安心させるように微笑む。彼の十指の間に、昼間の太陽を受けて妖しく煌めく、先端が鋭利に尖った特殊な三稜鍼さんりょうしんが滑り込んだ。


「ハクさん、ネネさん。喉の炎症を強力に鎮める『清肺潤喉湯せいはいじゅんこうとう』の準備を。その間に、私は喉の関門を文字通り『爆破』して拓きます」


「クク、新しい街でも相変わらず容赦のない手際だ。ネネ、大樹海の『氷晶ミント』の結晶をすり潰せ! 私が術式で揮発させ、この大気中の煙毒を吸着・沈殿させる!」


「了解! ウチの特製ミント、全力ですり潰すよ! みんな、この涼しい風を吸い込んで!」

 ネネがすり鉢の棒を猛烈な速度で回転させると、倒れ込んでいた職人たちの周囲に、氷のように冷たくて心地よい清涼な香気が広がり、大気中の煤煙がみるみると地面へと落ちていく。


「では親方、親指を私の方へ出してください」


 枢の鋭い視線が、親方の手の親指、爪の根元の外側(人差し指側)からわずか数ミリ離れた、肺の経絡の終着点へと注がれた。

そこは、肺に溜まった異常な熱を、外部へと直接一気に噴出させるための「安全弁」だった。


 チクリ。


「手太陰肺経の井穴――少商しょうしょうへと、点刺瀉血てんししゃけつを施します!」


 枢の鍼先が、親方の左右の少商の皮膚を、目にも留まらぬ速さでごく浅く突いた。

枢がその親指を軽く押し出すと、少商の穴から、ドス黒い、熱を持った数滴の血が「ポタ、ポタ」と石畳の上へと滴り落ちた。


「少商は、肺の経絡が最も体表近くで湧き出る『井穴せいけつ』であり、喉の急激な腫れや、燃えるような痛みを劇的に解消する究極の瀉熱しゃねつ・消炎の要穴です! この一鍼によって、経絡を塞いでいた『熱毒』を血とともに直接体外へと排泄させ、喉の腫れを一瞬で引かせて気道を劇的に拓きます!」


 わずか数滴の黒い血が抜け出た、その瞬間――。


「――ぷはぁぁぁぁっっっ!!! す、吸える……! 空気が、喉の奥まで冷たく入ってくるぞ……っっ!!」


 さっきまで声すら出せなかった職人の親方が、大きな音を立てて新鮮な清涼気を取り込んだ。

 赤黒く鉄板のように腫れ上がっていた彼の喉の赤みが、みるみるうちに健やかなピンク色へと戻り、窒息の恐怖に歪んでいた顔に劇的な安堵の血色が戻っていく。


「信じられねえ……! まるで喉の中に直接冷たい水をぶっかけられたみたいに、あの焼けるような痛みが、一瞬で消え去りやがった……!」

親方が自分の喉を何度も撫でながら、信じられないというように声を張り上げる。


「手首の列缺が空気の通り道を広げる鍵なら、指先の少商は、その門を塞ぐ火事を一瞬で消し止める水。……ふん、いつ見ても見事な瀉血術だな、枢」

 ハクが満足そうに不敵な笑みを浮かべ、アルコール綿を枢へと手渡した。


「はい、みんな! ウチらの特製ミントのお薬だよ! これを飲むと、喉の奥がカラッと潤って、もう煙なんか怖くないからね!」

ネネがすり鉢から、透き通った青い薬湯を杯に注ぎ、周囲の職人たちへと次々に手渡していく。それを飲んだ人々は、喉の奥をスーッと通り抜ける快感に、次々と歓声を上げ始めた。


 枢の鮮やかな少商の一刺しと、ネネの中和薬によって、大通りを埋め尽くしていた職人たちは次々と呼吸を取り戻し、街には急速に平穏が戻り始めていく。


 しかし、人々が救われたその時。

 都市の中央にそびえ立つ、最も巨大な「第一蒸気煙突」のバルブが、何者かの手によって強制的に全開へと固定された。

 ギギギギギ……と不気味な軋み声を上げながら、先ほどの数倍もの密度を持った、禍々しい紫色の「特濃煙毒」が、街全体を完全に飲み込もうと、上空へと激しく噴出し始めたのだった――。

 第486話「蒸気都市の煤煙!喉を塞ぐ煙毒と少商の点刺」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 新章・蒸気都市編の開幕として、過酷な煙毒(熱毒)によって生じた急激な「喉の腫れ・窒息の危機」に苦しむ職人たちを、ハクさんとネネちゃんの「氷晶ミント」の空間中和から、枢先生の「少商しょうしょう」による劇的な瀉血消炎の一刺しによって救い出す、最高に鮮やかなスピード治療劇、お楽しみいただけましたでしょうか!


 月曜日のお昼休み、新しい一週間の始まりで少し緊張したお体に、喉の奥がスーッと晴れ渡るような往診チームの圧倒的なコンビネーションが、蒸気と鉄の映像美の中で鮮やかに描き出されましたね。


 今回は、急激な熱や炎症によって塞がれてしまった喉や気管支を根本から救うために枢先生が用いた、親指の爪の生え際にある非常に重要な名穴、少商しょうしょうの効能について解説させていただきます。


 東洋医学において「少商」は、手太陰肺経てたいいんはいけい井穴せいけつであり、体内の最も深い部分にある「肺の熱」を外部へと直接逃がすための、緊急用のデトックススイッチです。


 ここは、専門的には『点刺瀉血てんししゃけつ』という、数滴の血を出す技法を用いることでその真価を発揮し、喉の急激な腫れ、扁桃炎、声枯れ、高熱による意識の混濁などを、その場で劇的に更生させる圧倒的な消炎効果を持っています。


 現代における急性扁桃腺炎のケアや、風邪による激しい喉の痛みの更生、突発的な失声の緩和などにも臨床で最優先される、プロの鍼灸師にとってもこれ以上ないほど信頼の厚い至高の要穴です。この的確な一刺しで、職人たちの命の門戸を一瞬でこじ開けてみせる枢先生の臨床の冴えには、今回も深く感動させられましたね。


 見事に最初の危機を救い出した往診チームですが、都市の中央煙突からは、街全体を崩壊させかねない最悪の特濃煙毒が噴出し始めます。


次なる激闘と大往診の展開、第487話は、本日月曜日の【21:00】に更新予定です。

一日の仕事を終えてホッと一息つくリラックスタイムに、往診チームが蒸気都市の闇を切り裂く、熱き治療バトルの続きをぜひお楽しみに!

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