第453話:心経の覚醒、魔導コアの暴走とハクの放つ奇跡の薬効
心臓の魔導コアとウイルスが融合し、絶対防壁を展開して自爆のカウントダウンを始めた元副院長。
病院全体が吹き飛ぶ寸前、地下から戻ったハクさんの特効薬と、枢先生の一人の鍼灸師としての白銀の聖鍼が、絶望の最深部で奇跡の融合を果たします。
「おやおや、ハクさん、実に見事な特効薬の調剤です。ですが、その薬効を暴走する心臓の奥底へと送り届けるには、彼自身の閉ざされた心の門を内側から開放しなければなりません。リナさん、ガストン、シオン、時間を稼ぎなさい。一人の鍼灸師として、私の銀鍼が今、命の源流たる心経の真の力を呼び覚ましてみせましょう」
21時、金曜夜の更新。心経の覚醒、魔導コアの暴走とハクの放つ奇跡の薬効。
暗黒の絶対防壁が渦巻く中、白銀の聖鍼が、薬師の奇跡と共に魂の調律を果たす究極の穿刺を敢行します。
特別隔離室の最深部にそびえ立つ元副院長の胸部からは、禍々しい黒紫色のエネルギーがドクンドクンと不気味な脈動を立てて溢れ出し、周囲の空間に、物理的な攻撃を一切寄せ付けない強力な「絶対防壁」の膜を形成していた。
魔導コアとウイルスの融合による、完全なるエネルギーの暴走。
ガストンが計測器の画面を見て、これまでにない悲鳴のような声を上げた。
「だめだ、先生……! 暴走のエネルギーが限界値を越えて、魔導コアの内部圧力が数分以内に臨界点に達しちゃう! このまま爆発したら、隔離病棟どころか、この中央病院全体が跡形もなく吹き飛んじゃうよ……!」
リナが槍を構えて防壁に突撃するが、黒紫色の衝撃波によって激しく弾き飛ばされ、シオンの放った氷結の魔導も、その防壁に触れた瞬間に虚しく霧散していく。
あらゆる外側からのアプローチを拒絶する、絶望の絶対防壁。
その時、病棟の背後の扉が勢いよく開き、全身を激しい息切れと薬草の香気で満たしたハクが、一本の美しい翡翠色の薬瓶を高く掲げながら飛び込んできた。
「ハァっ……、ハァっ……! 枢、待たせたな! 霊峰の翡翠冬虫夏草から抽出した、ウイルスの細胞を根底から消滅させる最高峰の特効薬――『翡翠万能煎』が完成したぞ! ……だが、クソッ、あの黒い防壁に阻まれては、患者の口に薬を流し込むことすらできん!」
ハクが悔しげに歯噛みする中、その絶体絶命の光景を前にしても、枢だけは驚くほど穏やかな足取りで一歩前へと踏み出した。
彼は、世界を統べる組織の肩書も権威も持たない、ただ一人の誇り高き「鍼灸師」としてのプライドをその白銀の瞳に宿し、往診鞄の奥から、月光のように優しく、しかし凛とした佇まいを持つ「素鍼」を二本、神速の動きで抜き放った。
「ハクさん、素晴らしい特効薬です。あなたの薬効が本物であるならば、一人の鍼灸師として、私の銀鍼がその薬の通り道を、今すぐ彼の心臓の最深部へと切り開いてみせましょう。……リナさん、ガストン、シオン、最後の時間稼ぎをお願いしますよ」
「任せて、先生っ! たぁぁっ!」
リナの短槍が、黄金の生命のオーラを纏って再び激しく閃き、霧大狼との戦いで培った俊敏なる身のこなしで、副院長から伸びる黒紫色の触手を次々と切り落としていく。
ガストンとシオンも残されたすべての魔導エネルギーを結集し、副院長の動きを数秒間だけ完全にその場に縫い止めた。
そのわずかな隙を突いて、枢の身体が光の矢となって絶対防壁のわずかな歪みへと滑り込んだ。
ウイルスの放つ黒い放電が枢の衣服を焦がすが、彼は微塵も怯むことなく、副院長の手首の内側、小指側の腱の際にある、人間の精神と心臓のエネルギーが最も深く交差する経穴へと正確に触れた。
「手の少陰心経の、神門を穿ちます。ここは心の神が宿る絶対の門であり、恐怖と絶望によって完全に閉ざされ、暴走しきった元副院長さんの『心の壁』を、内側から優しく解きほぐすための要の穴です」
枢の素鍼が、副院長の神門へと、衣服の上から完璧な角度と深さで刺入された。
月光のような清らかな気が彼の心経へと流れ込んだ瞬間、バリバリと空間を鳴らしていた黒紫色の絶対防壁が、まるでパズルのピースが崩れるかのように、内側からサラサラと光の粒子となって消滅していったのだ。
さらに枢は、彼の肘の内側、シワの端にある、心臓の熱を強力に冷ます究極の冷泉へと、二の刺しを電光石火の速度で穿ち込んだ。
「続けて、手の少陰心経の少海を刺激します。魔導コアの暴走によって、今まさに爆発しかけていた心臓の異常な熱をその場で劇的に冷却しなさい。ハクさん、今です!」
「おおぉぉっ! 届け、我が霊峰の奇跡よ!」
枢の叫びと同時に飛び出したハクが、絶対防壁の消え去った副院長の口元へと、翡翠万能煎を最後の一滴まで一気に流し込んだ。
神門と少海によって心臓の経絡が完全に覚醒し、暴走する熱が急激に冷却されていた副院長の肉体は、ハクの特効薬の成分を、乾いた砂が水を吸い込むかのような驚異的な速度で内臓の最深部へと吸収していった。
次の瞬間、副院長の胸の魔導コアから、まばゆいばかりの翡翠色の光が爆発的に放射された。
全身を覆っていたウイルスの結晶がサラサラと音を立てて剥がれ落ち、背中から蠢いていた黒紫色の触手は、光の中に完全に溶けて霧散していった。
「……あ、あぁ……。私は、一体……」
濁っていた副院長の瞳に、かつての高潔な医師としての優しい光が完全に戻り、彼は心臓の激痛から解放されて、静かにベッドの上へと横たわった。
計測器の自爆アラートが完全に停止し、隔離病棟全体を満たしていた不気味な黒い毒霧が、窓から差し込む美しい朝の光によって綺麗に浄化されていく。
ハクがハッと息を呑み、枢の持つ銀鍼と自身の空の薬瓶を交互に見つめ、一人のプロの薬師として、最高の敬意を込めて枢の肩を叩いた。
「私の薬の力を、百パーセント以上引き出してみせるとはな。鍼灸師・枢、お前と出会わなければ、私はこの街を救うことも、本当の医術の持つ調和の意味を知ることもできなかった。……改めて、私の負けだ。お前の往診の旅に、これからもこの薬師の腕を同行させてくれ」
「おやおや、ハクさん。勝ち負けなどありませんよ。あなたの特効薬がなければ、私も彼の心臓を救うことはできませんでした。プロの薬師の知識と、一人の鍼灸師の技が合わさったからこその、命の勝利です」
枢が穏やかに微笑み、ハクの手をしっかりと握り返したその時、病棟の奥のメインモニターに、ルミナリアを遥かに超えた先の未知の大陸から、巨大な国際医療組織のエンブレムを纏った謎の通信映像が突如として割り込んできた。
画面の向こうから響く、冷徹な支配者の笑い声。
このウイルスが、世界を牛耳る闇の巨大組織によって意図的に放たれたという、驚愕の事実が告げられたのだ。
パンデミックを乗り越えた枢先生たちの往診の旅は、ここからさらに、世界中の命を人質に取る「闇の医療ギルド」との、世界の運命を懸けた新たなる激動の大長編へと、その舞台を移していくのである。
つづく。
5月22日(金)21:00、心経の覚醒。
鍼灸師・枢。神門と少海の術式で魔導コア의 自爆を阻止し、ハクの特効薬と共に中央病院を救い出す。
次回、5月23日(土)12時、土曜昼の更新は、第454話「次なる戦地、闇の医療ギルドの宣戦布告と枢の新たなる往診」へと突入します!
第453話「心経の覚醒、魔導コアの暴走とハクの放つ奇跡の薬効」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
ウイルスの絶対防壁による自爆の危機という、これ以上ない絶体絶命の窮地を、地下から駆けつけた薬師ハクさんの特効薬と、枢先生の鮮やかなる銀鍼のコンビネーションによって打倒する、新章最初の最高潮のクライマックス描写、お楽しみいただけましたでしょうか!
最新の防御結界が破られ、誰もが諦めかけたその瞬間、戦うためではなく「副院長の閉ざされた心を救うため」に懐へと飛び込んでいく枢先生の姿は、まさに一人の「鍼灸師」としての圧倒的な誇りと慈愛に満ち溢れていましたね。
そして何より、ウイルスの邪気と魔導コアの暴走によって絶対防壁を展開し、心臓が内側から爆発しかけていた副院長さんを救うため、枢先生が繰り出した、心経のエネルギーを劇的に調律する素晴らしい連携術式。
今回は、東洋医学において精神の過度な興奮やパニックを劇的に鎮め、心臓の異常な熱を優しく冷却する、非常に高名な二つの経穴の流れを解説させていただきます。
まず、手首の小指側にある心経の要穴、神門を穿つことで、恐怖と絶望によって完全に閉ざされ、暴走しきっていた副院長さんの「精神の防壁(心の壁)」を内側から優しく開放し、外側からのハクさんの薬効を受け入れるための通り道を一瞬にして切り開きました。
さらに続けて、肘の内側にある少海を刺激し、東洋の医術において「心臓の熱を強力に冷ます冷泉」とされる場所を完璧に開放することで、魔導コアの暴走によって今まさに爆発臨界点に達しようとしていた心臓の異常な高熱をその場で劇的に冷却し、ハクさんの翡翠万能煎の持つ薬効を爆発的な速度で全身へ行き渡らせてウイルスの根絶に成功しました。
この神門と少海の組み合わせは、現代における過度な精神的ストレスによる動悸や不眠、パニック状態、胸の締め付け感、焦燥感の緩和などにも非常に効果的な素晴らしい経穴であり、病院の組織や派手な魔導の肩書に一切頼らず、ただ「鍼灸師」としての職人の指先だけで薬師の奇跡の薬効を完璧に導いてみせる枢先生のプロとしての美学には、本当に読んでいて深く感動いたしましたね。
枢先生の圧倒的な技量に魂を揺さぶられ、往診のパートナーとして同行を志願してくれたハクさん。彼という最高のプロフェッショナルを仲間に加え、中央病院のパンデミックを完全に見事解決した一行ですが、そんな彼らの前に現れたのは、世界中の命を脅かす「闇の医療ギルド」からの不気味な宣戦布告という、これまた週末に相応しい息をもつかせぬ衝撃の新展開の引きとなりました。
次なる舞台は、未知の病魔が渦巻く世界の大陸。新しく結成された最高の往診チームが、世界を支配せんとする闇の巨悪に対し、どのような「命の治療劇」を魅せるのでしょうか。
次回の第454話は、明日【12:00】に更新予定です。
お休み初日ののんびりとしたひとときに、世界規模へとさらにスケールアップしていく「聖鍼師・枢」の新たなる大長編の幕開けを、ぜひお楽しみに!




