第452話:命の防衛線、異形なる病魔の猛威と枢の決死の穿刺
特別隔離室の扉を爆破し、ウイルスの邪気によって異形へと変貌してしまった元副院長。
彼が撒き散らす高濃度の毒霧は、リナたちの防衛結界すら容易に腐食させ、防衛本能そのものを麻痺させていきます。絶体絶命の医療崩壊の最前線で、一人の鍼灸師としての白銀の聖鍼が、命の防壁を底から引き上げる決死の穿刺へと向かいます。
「おやおや、元副院長さん。ウイルスの力に魂まで売り渡し、そのような歪んだ姿になっては、医師としてのあなたのプライドが泣いていますよ。リナさん、シオン、ガストン、恐怖に呑まれてはいけません。人間の身体には、どのような未知の病魔をも撥ね退ける、偉大なる『正気』が最初から宿っているのです。一人の鍼灸師として、私の銀鍼が今、その命の最強の盾を呼び覚ましてみせましょう」
12時、金曜昼の更新。命の防衛線、異形なる病魔の猛威と枢の決死の穿刺。
漆黒のウイルスが牙を剥く中、白銀の聖鍼が、絶望の淵で人間の免疫の砦を完全覚醒させる至高の穿刺を敢行します。
特別隔離室から激しい爆煙と共に姿を現した元副院長の肉体は、すでに人間のそれとは大きくかけ離れた、見るもおぞましい姿へと変貌を遂げていた。
全身の皮膚はドス黒いウイルスの結晶に覆われ、その背中からは、黒紫色の触手のような神経組織が何本も蠢き、大気を狂暴に威嚇している。
彼の琥珀色に濁った瞳には、かつて多くの患者を救ってきた高潔な医師の面影はどこにもなく、ただ最新医療への絶望と、すべてを破壊せんとするウイルスの邪悪な意志だけが爛々と輝いていた。
「グ、ガァァァッ……! 最新の魔導薬など、何の役にも立たぬ……! 人間など、この新しきウイルスの前に、ただ朽ち果てるだけの肉塊に過ぎんのだ……!」
副院長が咆哮を上げると同時に、彼の全身の毛穴から、周囲の鉄製の壁すらもジュクジュクと腐食させるほどの、猛烈な高濃度の黒い毒霧が病棟全体へと放出された。
ガストンが急いで防護バリアの出力を最大に引き上げたが、その白銀の光の膜は、ウイルスの邪気に触れた瞬間からバリバリと嫌な音を立てて侵食され、みるみるうちに薄くなっていく。
「だめだ、先生……! この毒霧、僕たちの肉体が持つ『病気と戦う防衛機能』そのものを、遺伝子レベルで直接麻痺させていくんだ……。バリアが破られたら、数秒で僕たちの免疫系は完全に崩壊しちゃうよ……!」
リナが短槍を構え、毒霧を振り払おうと鋭い突きを繰り出すが、実体のない霧を止めることはできず、彼女の健康的な肌にも、微かな悪寒と強烈な目眩が襲いかかり始めた。
シオンもまた、喉を急激な痛みに押さえ、激しく咳き込みながらその場に膝をつく。
大自然の脅威を遥かに超える、文明 of 闇が生み出した最凶の人工病魔。
一行の肉体が内側から防衛力を失い、ウイルスの侵入を許しかけたその時、枢だけは微塵も揺らぐことなく、その白銀の瞳に一人の「鍼灸師」としての絶対的なプライドを漲らせた。
「おやおや、元副院長さん。最新の科学に裏切られたからといって、人間が本来持っている生きようとする偉大な力を、そこまで侮っては困りますね。一人の鍼灸師として、私の目の前で命の盾を砕かれかけているこの子たちを、そのままにさせるわけにはいきません」
枢は流れるような所作で往診鞄の底へと手を伸ばし、中心から眩いばかりの純黄金の輝きを放つ、最も神聖なる「金鍼」を三本、神速の動きで指の隙間へと挟み込んだ。
まず彼が向かったのは、毒霧の直撃を受けて急激な免疫低下を起こし、倒れかけていたリナの元であった。
枢の親指が、彼女の足の脛の外側、膝の下から少し下がった場所にある、人間の防衛力を司る最大の拠点へと触れた。
「足の陽明胃経の、足三里を再び穿ちます。ですが今回は、内臓の鎮静ではなく、体内の『衛気(えき・肉体を守る免疫の盾)』を爆発的に増幅させ、ウイルスの侵入を根底から撥ね退けるための、最強の迎撃術式として用います」
枢の金鍼が、リナの足三里へと、完璧な角度と深度で刺入された。
純黄金の温かい気が彼女の経絡へと直接注入され、凍りつきかけていた彼女の肉体の防衛細胞が一瞬にして一斉に目を覚まし始めた。
それだけではない。枢は即座にリナの右手を取り、彼女の親指と人差し指の骨が合流する、全身の免疫と痛みを統括する最大の関門へと、二の刺しを電光石火の速度で滑らせた。
「続けて、手の陽明大腸経の合谷を刺激します。足三里の衛気増幅と、合谷の邪気排泄のルートを完璧に同期させることで、皮膚の毛穴を強固に密閉し、ウイルスの毒霧を体外へと一気に押し流しなさい!」
足三里と合谷という、東洋の医術における最高の免疫連携が施された次の瞬間、リナの全身から「ふぅぅっ!」と、肉体を侵食しかけていた黒いウイルスの邪気が、皮膚の毛穴から一気の白い水蒸気となって爆発的に排出された。
彼女の肌を襲っていた悪寒と目眩は一瞬にして完全に消失し、それどころか、彼女の身体の周囲には、ウイルスの毒霧を一切寄せ付けない、目に見えるほどの黄金の生命のオーラが立ち上り始めたのだ。
「あ……、身体の奥から、ものすごい元気が湧いてくる……! 喉のイガイガも、頭の痛いのも、全部綺麗に消えちゃった! 先生、私、もうあの黒い霧なんて、全然怖くないよ!」
リナが元気よく短槍を振り回して立ち上がる中、枢はその神速の身のこなしを維持したまま、咳き込んでいたガストンとシオンに対しても、足三里と合谷への完璧な連続穿刺を完了させていった。
三人の周囲に展開された黄金の免疫の防壁は、副院長が撒き散らす黒い毒霧を完全にシャットアウトし、逆にその邪気を四方へと激しく押し戻していく。
副院長は手にした触手を激しく震わせ、信じられないという絶望の声を上げた。
「バカな……! 既存の医学のすべてを無力化した我がウイルスの毒霧が、ただの数本の鍼によって、完全に無害化されるというのか……! 貴様、一体どのような魔導薬を使った……!」
「薬など使っていませんよ、元副院長さん。私はただの鍼灸師です。薬で病魔を叩くのではなく、彼らの身体の中に眠っていた、未知の病を自ら撥ね退ける『正気』の力を、少しだけ引き出したに過ぎません。さあ、命の防衛線は整いました。今度は、あなたをその苦しみから救う番です」
枢が静かに金鍼を抜き取り、往診鞄へと収めたその時、地下の調剤室へと向かっていたハクからの通信が、激しいノイズと共に飛び込んできた。
霊薬の抽出は最終段階に入ったが、ウイルスの本体が副院長の心臓の魔導コアと完全に融合し、外側からの治療を拒絶する「絶対防壁」を展開し始めたというのだ。
一人の誇り高き鍼灸師としての技が、今度は副院長の肉体の最深部、ウイルスが巣食う心臓の経絡へと直接切り込む、新章最大の決死の治療劇へと突入しようとしていた。
つづく。
5月22日(金)12:00、命の防衛線。
鍼灸師・枢。足三里と合谷の術式で未知のウイルスの侵食を完全に防御し、病魔の化身の核心へと迫る。
本日21時、金曜夜の更新は、第453話「心経の覚醒、魔導コアの暴走とハクの放つ奇跡の薬効」へと突入します!
第452話「命の防衛線、異形なる病魔の猛威と枢の決死の穿刺」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
未知の変異ウイルスによって異形化してしまった元副院長との、文字通り一瞬の油断も許されない最前線での激闘描写、お楽しみいただけましたでしょうか!
最新の防護結界すら容易に腐食させる最凶の毒霧に対し、絶望することなく真っ向から立ち向かい、人間の肉体が持つ本来の強さを証明してみせる枢先生の姿は、まさに一人の「鍼灸師」としてのプライドと美学が最高潮に達した瞬間でしたね。
大地と大自然の驚威を乗り越え、今度は近代文明の闇に挑む枢先生が繰り出した、免疫力を爆発的に覚醒させる素晴らしい黄金の術式。
今回は、東洋医学において身体の防衛エネルギーである「衛気」を最高潮に高め、外部からのあらゆる邪気の侵入を完璧にシャットアウトする、非常に実践的な二つの経穴の流れを、読者の皆様へ向けて丁寧に解説させていただきます。
まず、膝の下にある胃経の要、足三里を穿つことで、前回の内臓安定とは異なり、今回は身体の底から病気と戦うための元気と防衛エネルギーを爆発的に増幅させ、ウイルスの侵食を水際で強力に食い止めました。
さらに続けて、手の親指と人差し指の間にある大腸経の合谷を刺激し、東洋の医術において「全身の邪気を体外へと排泄する最大の関門」とされる場所を完璧に開放することで、皮膚の毛穴をキュッと密閉してウイルスの侵入を防ぎつつ、すでに侵入しかけていた毒素を白い水蒸気として一気に体外へと押し流させ、リナさんたちの持つ本来の健やかな躍動感を取り戻させました。
この足三里と合谷の組み合わせは、現代における風邪の引き始めや、免疫力の低下による身体のだるさ、アレルギー症状、各種の痛みの緩和などにも非常に効果的な「四総穴」と呼ばれる最高峰の素晴らしい経穴であり、病院の組織や薬の力に一切頼らず、ただ「鍼灸師」としての職人の指先だけで未知の変異ウイルスの呪縛すら調律してみせる枢先生のプロとしての説得力には、読んでいて本当に胸が熱くなりましたね。
枢先生の圧倒的な免疫術式によって毒霧を完全に克服し、反撃の狼煙を上げた一行。しかし、地下のハクさんからの通信によって、ウイルスの本体が副院長の心臓の魔導コアと融合し、絶対防壁を展開したという、これまた息をもつかせぬ衝撃の引きとなりました。
次なる舞台は、黒い邪気の核心たる特別隔離室の最深部。副院長の命を救い、ウイルスを根絶するために、枢先生の白銀の銀鍼はどのような「心臓の経絡への穿刺」を魅せるのでしょうか。
次回の第453話は、本日【21:00】に更新予定です。
一日の仕事を終えて週末を迎えるホッとした夜のひとときに、さらにスケールアップしていく「聖鍼師・枢」の決死の治療劇の行方を、ぜひお楽しみに!




