第454話:次なる戦地、闇の医療ギルドの宣戦布告と枢の新たなる往診
中央病院の危機を救ったのも束の間、通信モニターに映し出されたのは、世界を裏から支配せんとする「闇の医療ギルド」の冷徹な姿でした。
次なる標的として選ばれた、砂漠の交易都市。そこで蔓延する、人々の肉体を乾燥させて滅ぼす未知の奇病に対し、枢先生たちは新たなる往診の旅への出発を決意します。
「おやおや、闇の医療ギルドの皆さん。命を人質に取り、金と権力を貪るために病を撒き散らすなど、一人の鍼灸師として決して見過ごすわけにはいきません。ハクさん、リナさん、すぐに往診の準備を整えなさい。どれほど過酷な砂漠であろうとも、私の銀鍼が、病に怯える人々の乾いた五臓に健やかなる命の泉を呼び覚ましてみせましょう」
12時、土曜昼の更新。次なる戦地、闇の医療ギルドの宣戦布告と枢の新たなる往診。
新たなる巨大な陰謀が動き出す中、白銀の聖鍼が、世界を救う往診の旅路を切り開く決死の穿刺を敢行します。
中央病院の総合統括室に設置された巨大な魔導モニターは、ノイズと共に不気味な黒い紋章を映し出し、画面の向こうからは、低く冷徹な男の声が空間を威圧するように響き渡っていた。
それは、世界中の医療利権を裏から牛耳り、あらゆる未知の病魔を人工的に作り出してはマッチポンプで暴利を貪る、伝説の闇組織「闇の医療ギルド」の幹部からの、明確な宣戦布告であった。
「ルミナリアの愚か者どもよ、今回の変異ウイルスを退けたからとて、調子に乗るのもそこまでだ。……我らの次なる実験場は、遥か南の大陸に広がる砂漠の交易都市サジタリア。すでに現地には、人間の水分代謝を内側から完全に遮断し、肉体を砂のように崩壊させる『乾燥壊死症』のウイルスを放った。神の領域に等しい我らの病魔を、貴公らの未熟な医学で防げるか、せいぜい足掻いてみるがいい」
通信が途絶えた瞬間、アルバート議長はその場に崩れ落ち、ガストンは即座に南の大陸の生体衛星データを検索し、その液晶画面に凄まじいデッドラインの警告を浮かび上がらせた。
「だめだ……、サジタリアの人口のすでに三割近くに、異常な脱水症状と、気の乾燥反応が出ているよ……。現地の魔導医師たちは、原因すら特定できずに全滅しかけているんだ……!」
シオンがその凄まじい規模の恐怖に息を呑む中、新たに往診チームに加わった薬師のハクが、腰の薬草袋を強く叩いて前に出た。
「砂漠の都市だと。……あそこはただでさえ乾燥が厳しく、人間の五臓の中でも『肺』の機能が常にダメージを受けやすい環境だ。そこにそんな悪質なウイルスを流されれば、一週間もしないうちに都市一つが文字通り全滅するぞ! 枢、すぐに私の魔導飛行船を出す。今すぐ現地へ往診に向かうぞ!」
「ええ、行きましょう、ハクさん。病がそこにあるならば、行く手を阻む理由はありませんからね」
枢は穏やかに微笑みながら、いつもの古びた往診鞄を手に取り、一人の誇り高き「鍼灸師」としての佇まいで静かに頷いた。
しかし、一行が病院の屋上にある飛行船のドックへと足を踏み入れたその瞬間、上空の濃厚な霧を切り裂いて、ギルドが放った暗殺用の魔導トラップ「呪詛の棘」が、迎撃バリアを強引に突き破って凄まじい速度で降り注いできた。
ドォン! と激しい爆発音が響き、黒い呪いの霧がドック全体を包み込む中、リナが槍を振るって棘を叩き落としたものの、その背後に漂う強烈な焦燥と恐怖のプレッシャーが、ガストンとシオンの呼吸器系を急激に圧迫し始めた。
「う、くっ……! 息が、うまく吸えない……。胸の奥がカチカチに強張って……、酸素が全然、身体に入ってこないんだ……!」
ガストンが胸を押さえて激しく咳き込み、シオンもまた、急激な過換気状態に陥って、その場に蹲ってチアノーゼを起こしかけていた。
ギルドの放った呪詛は、直接的な傷を負わせるのではなく、強烈な精神的ストレスによって人間の呼吸機能を内側から麻痺させ、出発そのものを阻止せんとする陰湿なトラップだったのだ。
ハクが焦って薬草を調合しようとするが、過呼吸による酸欠のスピードには到底間に合わない。
その絶体絶命の窮地にあっても、枢だけは流れるような身のこなしで二人の間へと滑り込み、手にした往診鞄から、深い翡翠の光沢を放つ「青鍼」を二本、神速の所作で抜き放った。
「ガストン、シオン、慌ててはいけません。恐怖と焦燥の邪気によって、あなた方の『肺』の気が完全に縮こまり、呼吸の下降運動が停止しています。一人の鍼灸師として、その胸の詰まりを今すぐ優しく解きほぐして差し上げましょう」
枢の白銀の瞳が、激しく喘ぐガストンの胸の真上、鎖骨の下にある呼吸器の最重要拠点へと正確に焦点を合わせた。
「手の太陰肺経の、中府へと穿刺します。ここは肺の気があつまる募穴であり、ストレスによって極限まで収縮してしまった気管支と横隔膜を瞬時に拡張させ、清らかな大気を五臓へと呼び戻す至高の名穴です」
枢の青鍼が、ガストンの胸の上部、中府へと、寸分の狂いもなく的確に刺入された。
さわやかな翡翠の気が彼の肺経へと流れ込んだ瞬間、ガストンの喉の引きつりが劇的に緩和され、ゼーゼーと喘いでいた呼吸が、嘘のように一気に深くなっていった。
さらに枢は、隣でパニックを起こしていたシオンの手首の内側、親指の付け根の骨の際にある、肺の原気を100%活性化させる究極の要穴へと、二の刺しを神速で穿ち込んだ。
「続けて、同じく肺経の原穴、太淵を刺激します。中府の気管拡張と、太淵の気血統括を完璧に同期させることで、恐怖による自律神経のパニックをその場で消失させ、体内の防衛エネルギーを最高調へと引き上げなさい」
二本の鍼による完璧な呼吸調律が施された瞬間、シオンの口から「はぁぁ……っ!」と、胸を圧迫していた黒い呪詛の気が、一気の大きな呼吸となって外へと吐き出された。
猛烈な酸欠と胸のパニックが一瞬にして消失し、お腹の底から、澄み渡る高原の風を吸い込んだかのような、圧倒的なうるおいと健やかさが全身へと満ち渡っていく。
ガストンは自身の胸を摩り、信じられないという表情で枢を見上げた。
「息が……楽に吸える……! 胸のつかえが、霧が晴れるみたいに消えていくよ……。先生、僕、もう全然苦しくない!」
「おやおや、良かったです。人間の身体は、どれほど邪悪な呪詛に脅かされようとも、適切な道筋さえ示してあげれば、自らの力で必ず呼吸を取り戻せるのですよ。さあ、ハクさん、私たちの往診船の舵を取りなさい。世界を脅かす闇のギルドに対し、私たちは鍼灸師と薬師の誇りを懸けて、本物の医術の力を見せつけてあげる番です」
枢が静かに微笑みながら二本の青鍼を抜いて往診鞄へと収めると、ハクは感動に震える瞳で大きく頷き、飛行船のメインレバーを力強く引き絞った。
ゴゴゴと重厚な音を立てて浮上する往診船は、未知の暗殺トラップを黄金の生命オーラで完全に撥ね退け、遥かなる南の大陸、砂漠の交易都市サジタリアを目指して大空へと一直線に飛び立った。
雲海を越えた先、赤茶けた無限の砂漠の彼方で待つ、肉体が乾燥して崩壊していくという最悪の奇病。
一人の誇り高き鍼灸師の技が、大自然の砂漠の過酷さと、闇の組織の陰謀が渦巻く新天地にて、世界の命を救うためのさらなる激動の死闘劇の幕を開けようとしていた。
つづく。
5月23日(土)12:00、次なる戦地。
鍼灸師・枢。中府と太淵の術式で呪詛の酸欠パニックを完全解除し、砂漠の大陸へ向けて往診船を出港させる。
本日21時、土曜夜の更新は、第455話「砂漠の交易都市、乾燥壊死症の恐怖とハクの焦燥」へと突入します!
第454話「次なる戦地、闇の医療ギルドの宣戦布告と枢の新たなる往診」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
中央病院の危機を乗り越えたのも束の間、世界を裏から支配する巨大組織「闇の医療ギルド」からの不気味な宣戦布告、そして広大な砂漠の大陸を舞台にした新章「砂漠の死闘と乾いた五臓編」の圧倒的な幕開け、お楽しみいただけましたでしょうか!
出発を阻止せんとするギルドの陰湿な暗殺トラップに対し、一切の恐怖を抱くことなく、銀鍼一本で仲間の呼吸の砦を完璧に死守してみせる枢先生の姿は、まさに一人の「鍼灸師」としての圧倒的な品格と凄みが最高潮に達した瞬間でしたね。
そして何より、暗殺呪詛のプレッシャーと急激な焦燥によって呼吸器系が完全に麻痺し、猛烈な酸欠と過呼吸パニックを起こしかけていたガストンくんとシオンさんを救うため、枢先生が繰り出した、肺の機能を劇的に覚醒させる素晴らしい経穴の術式。
今回は、東洋医学において精神的なストレスによる息苦しさや胸のつかえを劇的に解消し、深い呼吸を取り戻すための、非常に高名な二つの経穴の流れを解説させていただきます。
まず、胸の上部にある肺経の募穴(気の集まる場所)、中府を穿つことで、ストレスによって過度に収縮しきっていた気管支や横隔膜をその場で劇的に拡張させ、ガストンくんを襲っていた猛烈な息苦しさを瞬時に緩和しました。
さらに続けて、手首の際にある肺経の原穴、太淵を刺激し、東洋の医術において「肺の機能を100%活性化させる最大の拠点」とされる場所を完璧に開放することで、シオンさんの脳を支配していた自律神経の過興奮を劇的に鎮め、体内に冷たく健やかな大気を深く巡らせて肉体本来の落ち着きを取り戻させました。
この中府と太淵の組み合わせは、現代における過度な緊張による息苦しさや、慢性的な咳、喘息の諸症状、自律神経の乱れによる胸の圧迫感の緩和などにも非常に効果的な素晴らしい経穴であり、組織の肩書や薬の力に一切頼らず、ただ「鍼灸師」としての職人の指先だけで未知の呪詛の呪縛すら調律してみせる枢先生のプロとしての説得力には、本当に読んでいて鳥肌が立ちましたね。
枢先生の圧倒的な免疫連携によってピンチを脱し、新しく仲間になったハクさんの操縦する魔導飛行船で砂漠の大陸へと飛び立った一行。しかし、彼らが向かう交易都市サジタリアでは、すでに人間の肉体を乾燥させて滅ぼすという恐怖の奇病「乾燥壊死症」が猛威を振るっているという、これまた週末に相応しい息をもつかせぬ衝撃の引きとなりました。
次なる舞台は、赤茶けた大砂漠の彼方に佇む交易都市。乾ききった大地と病魔に対し、枢先生の白銀の銀鍼はどのような「水分の代謝を調律する素晴らしい穿刺」を魅せるのでしょうか。
次回の第455話は、本日【21:00】に更新予定です。
本日21時、熱風と砂嵐が渦巻く砂漠の交易都市の門の前にて、再び読者の皆様とお会いできることを心より楽しみにしております!




