第418話:光の彼方の再会、崩壊する廃都と聖鍼師の行方
紫電の嵐が去り、静寂だけが支配する荒れ果てた「サンダー・ゴースト」の廃墟。
そこには、枢を失った喪失感に打ちひしがれるシオンとガストン、そして己の犯した罪(裏切り)の重さに絶望し、ただ涙を流すリナの姿がありました。
将軍ボルトの傲慢は完治され、彼は一人の老いた無力な男として瓦礫の中に座り込んでいましたが、その代償はあまりにも大きく、枢のいた場所には、折れた一本の銀鍼だけが虚しく残されていました。
「おやおや。シオン。……。……。そんなに下ばかり見ていては、せっかく晴れたこの美しい星空が見えませんよ。リナさん。……。……。その涙は、もう私の経絡を焼きはしません。ガストン。……。……。私の脈、……まだ、……。……聞こえているはずですよ」
虚空から響く、聞き慣れた穏やかな声。
廃都の瓦礫の下から、黄金と白銀の光が混ざり合い、人の形を成していく。
18時、夕暮れの往診。消失の先にある景色。
聖鍼師・枢。死を越えた「再誕の完治」が、今、成し遂げられます。
夕闇が廃都の瓦礫を包み込み、紫電の残滓が蛍のように空中に舞う、静謐な刻。
将軍ボルトを完治させたあの巨大な閃光が収まった後、広場には巨大なクレーターだけが残り、枢の姿はどこにもなかった。
シオンは膝をつき、枢が最後に手放した、半分に折れた「太古の琥珀鍼」を震える手で拾い上げた。
「枢、……。……。馬鹿な奴だ。……。……。自分の存在そのものを『気』に変えて、あんな男の傲慢を浄化するために使い切るなんて! 私の錬金術でも、……。……。消滅した魂を再構成することなど、……できはしないんだぞ……!」
シオンの目から、黄金の涙が溢れ出し、琥珀鍼に滴り落ちる。
ガストンは、計測器が「生存反応:零」を示し続けているのを見て、声を上げて泣きじゃくっていた。
そしてリナは、自らが枢を刺したその右手をじっと見つめ、ただ狂おしいほどの後悔の中に沈んでいた。
「私が、……私が枢を殺した。……。……。あんなに優しくしてくれた人を、……私のこの手が……」
その時だった。
廃都の地下、かつてボルトが電力を吸い上げていた巨大な「地脈の穴」から、見たこともない透明な「気の奔流」が噴き出した。
それは、砂漠で、孤島で、泥の沼で、枢が救ってきた万人の「完治した喜び」が、地脈を通じてこの地に集結した、世界規模の感謝の共鳴。
シュアァァァ……、ドクンッ、ドクンッ!!
光の粒子がシオンたちの周囲で渦を巻き、一箇所に集まっていく。
その中心に、透き通った姿のまま、穏やかに微笑む枢が立っていた。
「おやおや。……。……。皆さん、……。……。そんなに悲しまないでください。……。……。私は消えたわけではありません。……。……。ただ、……。……世界中の皆さんの『健康な気』と、……。……。少しだけ、……同化していただけですよ」
枢の言葉と共に、彼の透明な肉体が、実体を持って再構成されていく。
それは、自ら施した『心経・極』による自己蘇生と、地脈から届けられた万人の「気」による強制再起動。
「せ、先生……!? 生存反応が……。……。一、……十、……百、……。……。測定不能! 先生の命が、……。……。地球そのものの脈動と同期しちゃってる! 先生、……生きてる、……生きてるんだね!」
ガストンが叫びながら枢に飛びつき、シオンもまた、安堵のあまり折れた鍼を握りしめたまま、小さく笑った。
枢はリナの元へ歩み寄り、彼女の震える肩を優しく抱き寄せた。
「リナさん。……。……。あなたの手は、人を傷つけるためのものではありません。……。……。私を刺したあの瞬間の痛みさえ、……。……私にとっては、……あなたの『生きたい』という悲鳴として、……しっかりと届いていましたよ。……。……。さあ、もう一度、……。……。笑ってみてください」
枢の指先がリナの眉間の**『印堂』にそっと触れる。
彼女の心にこびりついていた「裏切りの罪悪感」という名の心のシコリが、枢の温かな気によって一瞬で溶け出し、彼女は子供のように枢の胸で泣き崩れた。
一方、瓦礫の端で呆然としていたボルト将軍は、枢の「再誕」を目の当たりにし、腰を抜かしながら震えていた。
「バ、バカナッ。……。……。存在を消滅させてなお、……。……世界そのものの力を借りて完治して戻ってくるというのか。……。……。聖鍼師、……貴様は、……神にでもなったというのか……」
「おやおや。……。……。将軍。……。……。私はただの、……。……往診専門の鍼灸師ですよ。……。……。さあ、あなたの残りの余生、……。……。静かに、……。……誰かのためにその手を使えるよう、……。……。最後の調整をしてあげましょう」
枢はボルトの元へ歩み寄り、彼の手のひらにある『労宮』**へ、慈愛の鍼を打ち込んだ。
かつて雷を放っていたその手からは、今、凍えた誰かを温めるような、柔らかな微熱が宿り始めていた。
第418話。
聖鍼師・枢。
彼は死の淵から戻り、さらなる高みへと辿り着いた。
廃都サンダー・ゴーストは、今や「再生の都」へとその名を変え、一行は次なる地へと向かう準備を始める。
しかし。
枢の再誕を見つめる、遥か上空の「月の影」から、一つの不気味な視線が注がれていた。
「……ほう。……。……。万人の気を集めて再構成したか。……。……。だが、枢。……。……。お前が癒やせば癒やすほど、……。……。この世界の『因果の歪み』は、……。……私をこの地上へと呼び寄せることになるぞ」
それは、この世界の理を司る、真の黒幕の囁き。
つづく。
5月13日(水)18:00、崩壊の廃都、再誕の往診。
聖鍼師、復活。
21時、夜の往診は、第419話「月の影の訪問者、因果の歪みと枢の決意」へと突入する。
5月13日(水)18:00、枢先生が万人の気を得て奇跡の復活を遂げた「再誕の往診」を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回、枢先生が行った「自己再構成」およびリナさんへのケアについて解説します。
まず、枢先生が用いたのは、自身の消えゆく気を地脈(大地の経絡)へと一時的に預け、それを逆流させる**『地脈還流』の奥義です。これは聖鍼師が長年の往診で築き上げた「土地と人々との信頼関係」があって初めて成立する術であり、まさに「徳」を力に変える完治の極致と言えます。
次に、リナさんの罪悪感を完治させた眉間の『印堂』への処置。
ここは精神の安定と洞察を司る「奇穴」です。枢先生は自らの蘇生に使った温かな気をそのままリナさんへと分け与え、彼女を蝕んでいた「自分を許せない心」を内側から解きほぐしました。
そして、将軍ボルトの手のひら『労宮』への一刺し。
ここは心の熱を冷まし、手先の器用さや「与える力」を司る場所です。かつて破壊のために使われた彼の手を、今後は創造と奉仕のために使えるよう、枢先生はその根源的なエネルギーの方向性を書き換えたのです。
次回の第419話は、本日【21:00】**。
廃都の夜空に浮かぶ不気味な月の影。そこから現れるのは、この世界の「病」の根源を握る存在でした。
「おやおや。……。……。月が、……。……。今日は、……。……少しばかり、……。……泣いているように見えますね。シオン。……。……。いよいよ、……往診も、……。……佳境に入りそうですよ」
21時、夜の往診。因果の果て。
聖鍼師、真の敵との対峙。
お待ちしております!




