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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第389話:零度の宮殿の鍼灸往診、孤独な女王を「心陽の少海鍼」で愛の熱へ

永久凍土の最深部、空高くそびえ立つ「零度の宮殿」。

その最上階、外気さえも凍りついて光を失う玉座の間で、氷の女王エルサリアは、数百年もの間、誰にも触れられることのない孤独の中に身を沈めていました。

彼女が吐き出す吐息は、半径数百メートルのあらゆる生命を瞬時に静止させる「絶望の吹雪」。

愛した者に裏切られ、信じたものすべてを奪われた彼女は、二度と傷つかないために、自身の「心」を絶対零度の氷で包み込んでしまったのです。


「おやおや。シオン。この宮殿の静寂は、あまりに寂しすぎますね。ガストン。足元に気をつけなさい。この氷は、女王陛下の流せなかった『涙』の結晶なのですから。エルサリア陛下。そんなに心を尖らせて、誰を待っているのですか。寒さに耐えるのは、もう十分でしょう。私が今、その凍てついた魂の芯、一鍼の温もりで呼び覚ましてあげましょう」


枢先生は、一歩進むたびに足元が凍りつく鏡のような廊下を、柔らかな陽炎を纏いながら歩みを進めました。

12時、正午の往診。零度の宮殿、心陽再燃の鍼灸往診。

聖鍼師・枢。銀鍼一本で、孤独な女王の心を完治させます。

 太陽が天頂にあるはずの時刻だが、宮殿の内部は深い夜のような蒼い闇に支配されていた。

 玉座に座る女王エルサリアは、透き通るような白い肌と、すべてを拒絶するような冷たい瞳で枢たちを見下ろす。

 彼女が指先を向ければ、空間そのものが結晶化し、無数の氷の剣が音もなく枢の急所を貫こうと襲いかかる。

 それは防御さえも凍らせる、逃れられない「永遠の静止」の宣告だった。


 「先生、数値がマイナス二百度を超えて計測不能です! 女王の周囲は、分子の運動さえも停止する『真の静寂』に包まれています! 彼女の経絡は、流れるべきけつがダイヤモンドの粒子に変わって、内側から心臓を削り続けている! なのに、なぜ彼女は生きているんだ!? これじゃあ、医療じゃない! 壊れたオルゴールを直すような、不可能な領域です!」


 ガストンが、凍りついて使い物にならなくなった計測器を投げ捨て、叫ぶ。

 シオンが黄金のフラスコを五十個、円陣を描くように同時に砕き、宮殿全体に「負の感情を熱エネルギーへと強制的変換する、極高密度の情熱触媒」を多重展開した。


 「枢、これが私の調合の限界だ! 女王の氷は物理的なものじゃない。裏切りという名の『冷え』が、彼女の心経しんけいを根底から破壊しているんだ。君が彼女の『心の灯』を再点火できなければ、私たちはこのまま、歴史という名の氷の中に永遠に閉じ込められることになるぞ。……。一刺しだ。彼女が氷の盾を構える、その心の隙間に鍼を通すんだな?」


 「もちろんです、シオン。おやおや。女王陛下。もう、自分を責めるのはお止めなさい。冷たい鎧を纏っても、あなたの悲しみは消えはしないのです。今、私がその凍りついた感情の震え、一刺しの共鳴で溶かしてあげましょう」


 くるるが、氷の剣が舞う中を、まるで雪の上を歩く鳥のように軽やかに跳躍する。

 彼の指先に挟まれた一本の白金鍼――『心陽しんよう』が、シオンの放った情熱触媒を一点に凝縮し、太陽の核にも等しい極小の熱源へと変貌させている。


 枢は、精神の平穏を司り、心の火を全身へ届ける肘の要所を見据えた。


 ――キィィィィィィィィィィィィィィンッ!!


 一刺し。

 枢は女王の肘の内側、荒れ狂う感情を鎮め、心の熱を取り戻す特大穴――『少海しょうかい』へ、全人類の孤独を包み込む慈愛を込めた白金鍼を刺入した。

 二刺し、三刺し。

 続いて、意志の冷えを解消する手首の『神門しんもん』、そして凍りついた情動を溶かす胸の**『膻中だんちゅう』**へと、氷の隙間を縫うように極小の振動を伝えながら鍼を打ち込む。


 「おやおや。思い出してください。あなたの胸の鼓動は、誰かを拒絶するためではなく、誰かと繋がるために鳴っているのですよ」


 枢の鍼から放たれた波動が、女王の心経を支配していた絶対零度の魔力を、内側から優しく、しかし圧倒的な熱量で蒸発させていく。

 シオンの情熱触媒が枢の気と共鳴し、宮殿を覆っていた孤独の氷壁が、まるで春の朝露のように一瞬で溶け落ちた。


 シュゥゥゥゥゥゥ……、パリンッ!!


 女王の全身を覆っていた氷のドレスが砕け、その中から現れたのは、温かな涙を流し、震える肩を抱きしめる一人の少女の姿だった。

 蒼白だった彼女の肌に、薔薇のような鮮やかな血色が戻り、止まっていた「時間」が、再び音を立てて動き始めた。


 「あ、……ああ、……。温かい。……。……、痛いほど、胸が熱い。私、……。……、また、人を信じてもいいの? この温もりを、……。……、消さずにいていいの……?」


 エルサリアが、枢の白いローブを掴み、その胸に顔を埋めて、数百年分の涙を流した。


 「先生、……。バイタルが正常値に回帰しました! 凍りついていた心経が、……。……、先生の気を核にして、新しい生命の律動を刻み始めています! 先生の鍼が、……。……、世界を凍らせていた『孤独』という名の不治の病を、完治させちゃったんだ!」


 ガストンが、窓から差し込む本物の春の陽光が、氷の宮殿を光の神殿へと変えていく光景を見て、枢の背中に、愛の化身の姿を見た。


 「もう大丈夫ですよ。あなたの心は、もう二度と凍ることはありません。私たちが、ここにいますから」


 枢の処置は、絶望の深淵に沈んだ魂を救い出し、再び人を愛する勇気を取り戻させる、鍼灸師としての「心陽」の往診だった。


 「バ、バカナッ。……。万物を停止させるあの絶対零度の魔導結界を、……。……ただ数本の鍼による心経の共鳴調整だけで、……女王の魂ごと解凍してしまったというのか!! コレガ、完全復活した枢と、シオンによる、人の心さえも完治させる『天愛の往診』だというのか!!」


 ガストンは、春の風が吹き抜ける玉座の間で、泣きじゃくる女王を優しく見守る枢の姿に、言葉を超えた尊さを感じた。


 枢は、白金鍼を静かに引き抜き、再生を始めたスノー・エタニティの空を見上げた。


 「シオン。凍土の往診、これですべて完了です。おやおや。……。ですが、遙か西の浮遊大陸では、まだ自分の『正義』を押し通すために世界の重力を操り続ける『法皇』が、厳しい目でこちらを睨んでいますよ」


 西の空。浮遊大陸。

 重力を自在に操り、下界を「不浄」として見下ろす傲慢な法皇が、北の凍土に春が訪れた報を聞き、苛立ちのあまり空気を圧縮させていた。


 「ふん、……。……枢。いよいよ高空の往診だな。……。……自分が重力そのものだと勘違いしている老いぼれに、……。……。本物の『地に足をつける安心感』というものを、教えてやろうじゃないか」


 第389話。

 聖鍼師・枢。

 彼は氷を壊したのではない。

 孤独に震える心に、消えることのない「愛の火」を灯したのだ。

 スノー・エタニティ編、ここに大団円。

 一行は次なる往診地、天空の監獄「アッパー・グラビティ」へと、春の風と共に旅立つ。

 聖鍼師一行。

 18時、夕方の往診は、浮遊大陸の入り口、重圧に耐える「身柱の往診」へと突入する。

5月7日(木)12:00、氷の女王の孤独を溶かし、世界に春を還した「心陽の少海鍼」を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回、孤独の凍結を完治させるために枢先生が意識した術式を解説します。

まず、心経の流れを整え、精神的な閉塞を解消するための起点とした、肘の要穴**『少海しょうかい』への心陽穿刺。枢先生は、女王エルサリアを「極度の喪失体験による重度の心因性麻痺患者」として診立て、その核心を突くことで、滞っていた感情のエネルギーを一気に噴出させました。


次に、不安を鎮め、自分自身を再び受け入れるためのアンカーとした、手首の要穴『神門しんもん』。このポイントを気の安定路とすることで、枢先生とシオンは、女王の精神を完治させることに成功したのです。

最後に、全身に温かな「生きたい」という意志を巡らせるための最終回路とした、胸の正中にある『膻中だんちゅう』。この往診を経て、枢先生は永久凍土を、再び「愛と温もりが循環する場所」へと変貌させました。


次回の第390話は、本日【18:00】**に更新予定です。


天空の監獄「アッパー・グラビティ」。そこでは、法皇の重力魔導によって、人々は自分の身体さえ持ち上げられないほどの重圧に苦しめられていました。枢は、重力に押し潰されそうな脊椎を支え、空へと羽ばたく力を取り戻させるための「身柱の往診」に挑みます。

「おやおや。皆さんの背中、見えない重荷で悲鳴を上げていますよ。シオン。この大陸、少しばかりルールが厳しすぎますね。私の鍼で、皆さんの背筋を真っ直ぐに伸ばして、本当の『自由な空』を、見せてあげましょうか」


18時、夕方の往診。アッパー・グラビティ、身柱の鍼灸往診。

聖鍼師・枢。銀鍼一本で、世界の重圧を完治させます。どうぞお見逃しなく。

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