第363話:空中要塞の鍼灸往診、双天才の「極光・合同執刀」で広域汚染を一斉浄化せよ
霧の晴れた庭園。しかし、夜空を見上げた一行の目に飛び込んできたのは、月を覆い隠すほど巨大な「浮遊要塞」の影でした。
真の黒幕が放つ、大地を枯らす黒い煤。それは吸い込んだ生き物すべての命を、一瞬で「灰」に変える最悪の広域感染兵器。
「(……。おやおや。……。せっかく庭園を掃除したばかりなのに、……。……。空からこんなに大量のゴミを降らせるとは。……。……。シオン。……。……。病み上がりで腰が重いかもしれませんが、……。……。私の鍼で、……あなたの薬を空の果てまで届けてあげましょうか)」
シオンは不敵に笑い、懐から黄金の薬瓶を取り出しました。
「(……。ふん、……。……。枢。……。……。私の薬は、……君の鍼がなければ、……ただの甘い水だよ。……。……。さあ、……始めようか。……。……。世界で最も贅沢な、……二人掛かりの往診を!)」
21時、本日最終。空中要塞の鍼灸往診。
聖鍼師・枢と薬師シオン。二人の天才が、絶望の空を完治させます。
静寂を取り戻したはずの庭園に、上空から重苦しい重低音が響き渡る。
雲を割り、姿を現したのは、古代遺物と魔導技術が融合した巨大な鉄の塊――空中要塞「パンドラ」。その船底から放たれた黒い煤の雨は、霧の庭園に咲く薬草たちを、触れる端から漆黒の炭へと変えていく。
ガストンが魔導端末の警告音に悲鳴を上げた。
「(……。せ、……先生! ……。シオン様! ……。この黒い煤、……ナノレベルの自己増殖型ウイルスです! ……。肺に入ったら最後、……三秒で細胞が石炭化する! ……。……。逃げ場なんて、……地上にはどこにも……!)」
「(……。ガストン。……。……。逃げる必要はありませんよ。……。……。おやおや。……。ウイルスも、……詰まるところは、……生命の設計図が少し『乱れている』だけです。……。……。シオン。……。……。準備はいいですか?)」
枢が銀鍼を十本、扇状に展開し、自身の気を指先に集中させる。
その隣で、シオンが黄金の薬瓶を天に掲げた。
「(……。枢。……。……。君の言う通りだ。……。……。私の作ったこの『万能中和触媒』を、……君の『気』で霧状に拡散し、……空中にある煤の核を撃ち抜けば……。……。この空は、……浄化の雨に変わる)」
「(……。ええ。……。……。では、……行きましょうか。……。……。ミナ、……。……。あなたの歌声に乗せて、……私たちの医術を、……天まで届けなさい!)」
ミナが、祈るように、そして力強く歌い始めた。
その歌声に呼応するように、枢の身体から翡翠色のオーラが、シオンの身体から黄金のオーラが立ち昇り、空中で二つの光が螺旋を描いて混ざり合っていく。
枢が、銀鍼を一本ずつ、夜空へ向かって「弾いた」。
それはもはや、投擲ではない。シオンが空中へ放り投げた薬液の滴を、枢の鍼が寸分違わず撃ち抜き、その衝撃波で薬をナノ単位の微粒子へと粉砕。さらに枢の「浄化の気」を乗せて、上空の黒い雲へと送り込む「超精密射撃」である。
――シュパァァァァァァァァンッ!!
一刺し。
上空千メートル。黒い煤の「母核」となる経絡に対し、シオンの中和剤を外科的……いえ、鍼灸的に注入した。
二刺し、三刺し。
枢の銀鍼が、空気の層を次々と貫き、滞った大気の流れを正常化していく。
「(……。あ、……。……見てください! ……。……。空が、……空の色が……!)」
カサンドラが叫んだ。
漆黒に染まっていた夜空が、枢の鍼が通るたびに翡翠色に輝き、黒い煤が美しい「光の粉」へと分解されていく。
死の雨は、瞬く間に、生命を育む「恵みの光」へと姿を変え、枯れかけていた庭園の植物たちを、瞬時に再生させていった。
「(……。おやおや。……。シオン。……。……。あなたの薬の純度、……少し落ちましたか? ……。……。一刺しだけ、……気の伝導が遅れましたよ)」
「(……。ふん、……。……。君の鍼が速すぎるんだよ、枢。……。……。だが、……おかげで私の計算以上の『浄化効率』だ。……。……。これなら、……空中要塞の動力源そのものも、……外科的に沈黙させられそうだぞ)」
二人の天才が、背中を合わせ、微笑みを交わす。
かつてのライバルであり、今は無二の協力者。
二人の力が合わさった時、それはもはや医療を超えた「神業」へと昇華されていた。
「(……。バ、…….……。バカナッ!? 広域汚染兵器を、……鍼と薬のコンビネーションだけで『光の肥料』に変えてしまったというのか!! コレガ、……完全復活した枢と、……再起したシオンによる、……神話級の『合同往診』だというのか!!)」
ガストンは、自身の魔導端末が示す「大気汚染度:マイナス100(浄化状態)」という異常な数値を見つめ、腰を抜かした。
しかし、空中要塞パンドラから、一筋の赤い閃光が放たれた。
それは、中和された空気さえも焼き尽くす、魔導収束砲。
黒幕は、浄化を良しとせず、力ずくで地上を消し去ろうとしたのである。
「(……。おやおや。……。外科手術の途中で、……暴れる患者さんは困りますね。……。……。シオン。……。……。麻酔の準備はいいですか?)」
「(……。ああ。……。……。とびきり強力なやつを、……その鉄の塊に打ち込んでやろう)」
枢は、ポーチから最大級の太さを誇る「大金鍼」を取り出した。
シオンは、自身の全ての魔力を込めた、紫色の「鎮静薬」を鍼の先端に塗り込む。
「(……。行きますよ。……。……。これが、……私たち二人の、……本当の『退院祝い』です!)」
枢の大金鍼が、赤い閃光を真っ向から切り裂き、空中要塞の「動力核」へと一直線に飛んでいく。
第363話。
聖鍼師・枢と、薬師・シオン。
二人の天才は、絶望の雨を希望の光へと変えた。
しかし、空中要塞には、まだ真の支配者が待ち構えている。
聖鍼師一行。
次なる舞台は、墜落し始めた要塞の内部。
枢とシオンは、共に「最終往診」へと、空を翔ける。
本日最終、5月2日(土)21:00、宿敵シオンとの「合同往診」という熱い展開を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回、広域の汚染ウイルスを中和し、空中要塞の暴走を鎮めるために枢先生とシオンが意識した術式を解説します。
まず、シオンの薬液を微粒子化し、空間全体の「気の乱れ」を整えるための起点とした、上空への**『百会』投影。枢先生は、空そのものを巨大な患者の頭部に見立て、そこへ鍼を打ち込むイメージで薬を散布し、外科的……いえ、鍼灸的に大気を「解熱」させました。
そして、空中要塞から放たれる熱エネルギー(魔導砲)を受け流し、その勢いを逆利用して「鎮静薬」を送り込むためのアンカーとした『曲池』。熱を逃がすこの要穴を狙うことで、枢先生は要塞の過剰な攻撃性を、強制的な「外科的シャットダウン」へと導くことに成功したのです。
最後に、汚染された大地に再び活力を与え、植物を蘇生させるための最終回路とした、地上全域への『湧泉』共鳴。この往診を経て、枢先生とシオンは、一国を滅ぼしかねない危機を「ただの肥料散布」へと完治させました。
墜落する空中要塞の最深部で待つのは、自らを「全知全能の医師」と称する、黒幕の正体。枢とシオン、二人の前にあるのは、最も困難で、最も残酷な「救済」の選択でした。
「(……。おやおや。……。自分を神だと思い込む病気は、……少し根が深そうですね。……。……。シオン。……。……。徹底的に、……外科的に……いえ、……鍼灸師として、……治療してあげましょう)」
朝の往診。空中要塞内部の鍼灸往診。
聖鍼師・枢。シオンと共に、最後の敵を「完治」させます。どうぞお見逃しなく。




