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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第362話:霧の庭園の最終往診、宿敵シオンの孤独を「慈愛の回帰鍼」で外科昇華せよ

霧の庭園は、沈みゆく夕陽によって血のような赤に染まっていました。

薬草の王座に立つシオンは、黄金の天秤を天に掲げ、これまでの往診でくるるが浄化した「毒」をすべて自身へと引き受けていました。その姿は、神々しくもあり、同時にこの世で最も孤独な死神のようでもありました。


「(……。おやおや。……。シオン。……。……。一人でそれだけの毒を背負って、……一体どこへ行こうというのですか。……。……。あなたの背骨が、……あまりの重さに悲鳴を上げていますよ。……。……。ミナ、……ガストン。……。……。ここから先は、……言葉はいりません。……。……。かつて共に学んだ、……『医の心』だけで語り合いましょう)」


枢先生は、これまでのタキシードを脱ぎ捨て、その下に着込んでいた「聖鍼師の正装」――真っ白な狩衣のような往診服を露わにしました。

18時、夕方の往診。霧の庭園の最終往診。

聖鍼師・枢。親友シオンの「孤独」を、一鍼で鍼灸的に救済します。

 燃えるような夕映えが、二人の男の影を長く引き伸ばす。

 シオンの持つ天秤が、不気味な黒光りを放ち、周囲の空間そのものを歪ませていた。彼が生成した「究極の魔薬」は、吸い込むだけで精神を崩壊させ、強制的に絶望の底へと叩き落とす。


 「(……。ふふ、……。……。見ろよ、枢。……。……。君が救った連中の『悪意』は、……こうして私の元へ集まった。……。……。光が強ければ影も濃くなる。……。……。君が人を救えば救うほど、……私は強く、……そして邪悪になれるのだ! ……。……。さあ、……この『世界の絶望』を、……君の鍼で救えるかな!?)」


 シオンが天秤を振ると、黒い結晶の礫が、流星のごとく枢へと降り注いだ。

 一粒一粒が、国を滅ぼすほどの病原菌を含んだ、死の種子。


 ガストンが必死にシールドを展開するが、黒い礫は魔導障壁さえも腐食させ、突破してくる。

 だが、枢は、自身のポーチから、極細の銀鍼を十本、扇状に展開して構えた。


 「(……。ガストン。……。……。退いていなさい。……。……。これは物理的な攻撃ではありません。……。……。彼の『寂しさ』が形になったものです。……。……。シオン。……。……。あなたは昔から、……そうやって自分を悪役に見せることで、……誰かに止めてほしかったのではないですか?)」


 枢の指先が、目にも留まらぬ速さで銀鍼を弾いた。

 飛来する黒い礫の「中心点」を、銀鍼が次々と射抜いていく。

 驚くべきことに、鍼が触れた瞬間に、黒い礫は美しい桜の花びらへと姿を変え、風に舞った。


 「(……。なにっ!? ……。……。私の毒を、……一瞬で『中和』したというのか!? ……。……。バカな、……理論上、……この毒に抗える抗体など存在しないはずだ!)」


 「(……。抗体など必要ありませんよ。……。……。おやおや。……。シオン。……。……。あなたの毒の成分は、……百分の一の野心と、……九十九分の『自己犠牲』でできています。……。……。あなたが本当に世界を滅ぼしたいなら、……毒はもっと、……もっと冷たかったはずだ)」


 枢が、一歩ずつシオンへと近づいていく。

 シオンは取り乱し、自身の血管に「超活性剤」を直接注入した。彼の肉体が膨れ上がり、背中からは漆黒の翼のような骨が突き出す。


 「(……。来るな! ……。……。私は、……神を超える医師になるのだ! ……。……。誰も救えなかった死を、……私が『支配』してみせる!)」


 シオンの猛攻。それは、かつて枢と共に磨き上げた「点穴てんけつ」の技術。

 二人の天才が、霧の中で、音を超えた速度で鍼を打ち合う。

 ガキン、ガキン、と金属音が響き、散る火花が夕闇を照らす。


 枢の銀鍼がシオンの肩を貫き、シオンのメスが枢の脇腹を裂く。

 だが、枢は笑っていた。


 「(……。シオン。……。……。良い手技です。……。……。ですが、……あなたの打つ鍼には、……『愛』が足りません。……。……。患者の痛みを知ることを恐れ、……心を閉ざしている。……。……。そんな震える指先で、……誰を救えるというのですか)」


 枢が、シオンの放った最後の一撃を、自身の左手で敢えて受け止めた。

 肉を貫く音。しかし枢は、その隙に、右手の最大出力を込めた極太の長鍼を、シオンの胸の奥――**『巨闕こけつ』へと突き立てた。


 ――ズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


 一刺し。

 シオンが抱え込み続けた、数十年に及ぶ「精神的疲弊」を、翡翠色の気が一気に貫通した。

 二刺し。

 孤独を司る秘穴、『内関ないかん』**を突き、張り詰めた心の糸を、外科的……いえ、鍼灸的に切断した。


 「(……。あ、……。……。……ぁぁぁ……!!)」


 シオンの目から、黄金の光が消え、漆黒の翼が霧霧と崩れていく。

 天秤は砕け散り、シオンはただの一人の、疲れ果てた男として枢の胸の中に倒れ込んだ。


 「(……。おやおや。……。やっと、……熱が下がりましたね。……。……。シオン。……。……。もう、……一人で背負わなくていいのですよ。……。……。あなたの隣には、……私がいるではありませんか)」


 枢の穏やかな声が、庭園の静寂に溶けていく。

 シオンは、枢の肩を掴んだまま、子供のように声を上げて泣き始めた。


 「(……。枢……。……。……。私は、……。……。君のように、……笑って人を救いたかった。……。……。でも、……私には、……君のような『光』がなかったんだ……! ……。……。だから、……闇になるしかなかった……!)」


 「(……。光など、……なくてもいいのですよ。……。……。私たちは、……暗闇の中で、……一筋の灯火を探すために、……鍼を打っているのですから)」


 枢はシオンの背中を、優しく叩いた。


 「(……。バ、…….……。バカナッ!? 世界を滅ぼすほどの毒の塊を、……ただの『心労』として処置し、……史上最悪の魔薬師を、……一瞬で元の『一人の弱き人間』へと治療してしまったというのか!! コレガ、……完全復活した枢の、……魂のひずみさえも矯正する『救済の往診』だというのか!!)」


 ガストンは、夕陽に照らされた二人の姿を見て、涙を拭った。


 「(……。ミナ。……。……。これで、……庭園の患者さんは、……全員完治です。……。……。さあ、……。……。温かいお粥でも作って、……みんなで食べましょうか)」


 枢は、泣き疲れて眠ったシオンを背負い、霧が晴れ始めた庭園を、ゆっくりと歩き出した。


 しかし、その様子を、遥か上空の魔導船から見つめる影があった。

 万能の祭壇、真の支配者。マスター・リッチを操っていた「黒幕」が、ついに動き出そうとしていた。


 「(……。ふふ、……。……。枢。……。……。友情ごっこは、……そこまでにしなさい。……。……。次は、……あなたのその『慈愛』が、……世界を滅ぼす引き金になるのだから)」


 第362話。

 聖鍼師・枢。

 彼は宿敵シオンの心を、銀鍼一本で救い出した。

 しかし、平和な時間は長くは続かない。

 聖鍼師一行。

 次なる舞台は、空飛ぶ要塞。

 枢は、今や「協力者」となったシオンと共に、真の悪へと立ち向かう。

本日、5月2日(土)18:00、宿敵シオンとの魂の和解を描く「慈愛の回帰鍼」を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回、シオンの溜め込んだ毒(絶望)を排出し、その心を本来の清らかさへ戻すために枢先生が意識した術式を解説します。

まず、心に溜まった鬱屈としたエネルギー(邪気)を一気に解き放ち、深い安らぎを与えるための起点とした**『巨闕こけつ』。みぞおちにあるこの要穴に対し、枢先生は自身の「陽の気」を全開で送り込むことで、シオンの冷え切った心を内側から温め、外科的……いえ、鍼灸的に解凍しました。


そして、過剰な自意識と孤独感を鎮め、他者を受け入れる心の余裕を取り戻させるためのアンカーとした『内関ないかん』。手首にあるこのツボを刺激することで、枢先生はシオンの「心包しんぽう」を外科的に……経絡的に再編することに成功したのです。

最後に、失われた正常な涙腺の働きを促し、感情を素直に出せるようにするための最終回路とした『晴明せいめい』。この往診を経て、枢先生は悲しき天才を、ただの「友人の助けを必要とする一人の男」へと完治させました。


本日最終、次回の第363話は、本日【21:00】**に更新予定です。


シオンが仲間に加わり、最強の布陣となった聖鍼師一行。しかし、黒幕が放つ「空中要塞」からの無差別爆撃が始まります。枢とシオン、二人の天才による「合同往診」が、空を舞台に繰り広げられます。

「(……。おやおや。……。シオン。……。……。病み上がりで申し訳ありませんが、……。……。次は空の上で、……合同手術(往診)といきましょうか)」


21時、本日最終。空中要塞の鍼灸往診。

聖鍼師・枢。シオンと共に、空の病を完治させます。どうぞお見逃しなく。

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