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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第361話:霧の庭園の鍼灸往診、不老の肉体を「黄昏の鎮静鍼」で外科調律せよ

霧の庭園の最奥、シオンが鎮座する「薬草の王座」の直前。

そこには、百年前から時が止まったかのような、瑞々しい肌を持つ一人の老人が立っていました。かつてくるるに鍼の基礎を教え込んだ恩師、不老のトウマ。

シオンの薬「万年青おもと」によって、彼の細胞は一秒間に数百万回の分裂を繰り返し、物理的な「死」を完全に拒絶していました。しかし、その瞳には知性の光はなく、ただ過剰な生命力に突き動かされる「肉の塊」としての本能だけが宿っていました。


「(……。おやおや。……。トウマ先生。……。……。そんなにパンパンに細胞を膨らませて、……息苦しくはありませんか? ……。……。若さというのは、……次へ繋ぐための輝きであって、……そこに留まるための檻ではありません。……。……。ミナ、……ガストン。……。……。離れていなさい。……。……。今から私が行うのは、……この庭園に『冬』を呼ぶ往診です)」


枢先生の手には、通常の銀鍼よりも長く、鈍色に光る特殊鍼――**『落花らっか』**が握られました。

15時、昼下がりの往診。霧の庭園の鍼灸往診。

聖鍼師・枢。永遠の若さに、終わりという名の救いを与えます。

 傾き始めた太陽が、霧を黄金色に染め上げる。

 不老のトウマが動いた。その速度は、速いというより「瞬間的にそこに存在する」という、物理法則を無視した肉体の躍動であった。

 彼が振るう手は、鋭利な刃物となって空気の分子さえも切り裂き、枢のタキシードの袖を、一瞬で紙屑のように切り刻んだ。


 「(……。お、……。……おおおお……!!)」


 言葉にならない咆哮。トウマの肉体からは、絶えず古い皮膚が剥がれ落ち、その下からさらに強靭な新しい皮膚が再生し続けている。

 ガストンが魔導端末の数値を読み上げながら、悲鳴のような声を上げた。

 「(……。せ、……先生! ……。細胞分裂の速度が、……通常の数万倍です! ……。鍼を打っても、……ツボの穴が塞がるよりも早く肉体が再生して、……気が届かない! ……。これじゃ、……治療どころか、……触れることさえできない!)」


 「(……。ガストン。……。……。慌ててはいけません。……。……。再生の速度が速すぎるなら、……その再生のエネルギーを、……『燃焼』へ回してあげればいい。……。……。トウマ先生。……。……。教え子の技術、……とくとご覧あれ)」


 枢が、鈍色に光る長鍼『落花』を、自身の指先で高速回転させた。

 その瞬間、枢の周囲の温度が、急速に低下し始める。

 それは、周囲の熱を吸収し、相手の過剰な生命反応を「凍結」させるための、絶対零度の医気。


 トウマの猛攻が、枢の胸元に迫る。

 だが、枢はその攻撃を避けるどころか、自らその「肉の嵐」の中へと踏み込んだ。

 トウマの爪が枢の頬を掠め、鮮血が舞う。

 しかし、枢の表情は変わらない。先生の長鍼が、トウマの全身の細胞が生成される「源泉」――すなわち、下腹部の**『関元かんげん』を捉えた。


 ――ズシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 一刺し。

 超速再生のガソリンとなっている「原気げんき」の暴走を、一瞬で「冬眠モード」へと外科的……いえ、鍼灸的に強制変換した。

 二刺し、三刺し。

 肩の『肩井けんせい』と足の『湧泉ゆうせん』。

 枢の鍼が通るたび、トウマの瑞々しかった肌から、急速に水分が失われ、深い年輪のような「シワ」が刻まれていく。


 「(……。おやおや。……。そんなに驚かないでください。……。……。これは枯れているのではありません。……。……。あなたが、……百年の間、……忘れようとしていた『経験』が、……身体に戻っているだけですよ)」


 トウマの動きが、目に見えて鈍くなっていく。

 超速再生という名の「呪い」が、枢の『落花』によって、適切な「老化」へと書き換えられていく。

 トウマの瞳に、少しずつ、かつての賢者としての理性が戻り始めた。


 「(……。枢……。……。……君か。……。……。重い……な。……。……。身体が、……自分の重さを、……思い出して……いく……)」


 「(……。おしなべて、……命は重いものです。……。……。トウマ先生。……。……。若さという浮力で、……空に浮いてはいけません。……。……。ちゃんと大地を踏みしめて、……一歩ずつ、……死へと歩む……。……。それこそが、……私たち鍼灸師が守るべき、……自然のことわりではありませんか)」


 枢が最後の一鍼を、トウマの頭頂部――『百会ひゃくえ』**に、静かに押し込んだ。


 その瞬間、トウマの全身から、眩いばかりの光の粒子が霧となって放出された。

 シオンが植え付けた「不老の魔薬」が、枢の鍼によって、生命の輝きそのものへと昇華され、庭園を浄化していく。

 そこには、白髪を蓄え、深く、しかし穏やかなシワを顔に刻んだ、一人の気高い老鍼師の姿があった。


 「(……。バ、…….……。バカナッ!? 細胞の分裂速度を物理的に遅らせ、……さらに蓄積された百年の時間を一瞬で肉体に定着させてしまったというのか!! コレガ、……完全復活した枢の、……時間さえも調律する『刹那の往診』だというのか!!)」


 ガストンは、自身の魔導端末が示す「年齢:適正(推定120歳)」という驚愕の数値を見て、ただただ立ち尽くした。


 「(……。シオン。……。……。これで、……あなたの守護者は、……全員、……私の患者として退院しましたよ。……。……。おやおや。……。次は、……あなたのその、……歪みきった心臓を、……外科的に……いえ、……鍼灸師として、……正しく打ち直してあげましょうか)」


 枢が、王座に座るシオンを、真っ直ぐに見据えた。


 シオンは立ち上がり、自身の手に持っていた、黄金に輝く「薬師の天秤」を掲げた。

 「(……。ふふ、……。……。素晴らしいよ、枢。……。……。だが、……君が彼らを救えば救うほど、……この庭園の『毒』は、……全て私の天秤に、……代償として積み上げられていく。……。……。君の善意が、……私を史上最強の『魔薬師』へと完成させたのだよ)」


 シオンの背後から、庭園の全エネルギーを吸い上げた、巨大な死の門が姿を現した。


 「(……。おやおや。……。私の善意が、……あなたの毒の餌になりましたか。……。……。構いませんよ。……。……。ならば、……その毒ごと、……私が飲み干してあげましょう。……。……。ミナ、……。……。最後の往診、……付き合ってもらいますよ)」


 第361話。

 聖鍼師・枢。

 彼は不老の恩師に「秋の終わり」を教え、その魂を救い出した。

 しかし、シオンは枢の救済さえも計算に入れ、究極の毒の化身へと変貌を遂げようとしている。

 聖鍼師一行。

 霧の庭園での往診は、ついに親友であり宿敵であるシオンとの、命を懸けた「最終執刀」へと突入していく。

本日、5月2日(土)15:00、不老の呪いを解き、恩師を救い出す「黄昏の鎮静鍼」を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回、超速再生を停止させ、蓄積された時間を肉体に定着させるために枢先生が意識した術式を解説します。

まず、生命の源である「精」を蓄え、過剰な放出を物理的にコントロールするための起点とした**『関元かんげん』。下腹部にあるこの要穴に対し、枢先生は『落花』の冷たい気を送り込むことで、トウマの肉体に「休息という名の秋」を外科的……いえ、鍼灸的に施しました。


そして、全身の経絡を流れる過剰な「陽の気」を鎮め、筋肉の暴走を抑えるためのアンカーとした『湧泉ゆうせん』と『肩井けんせい』。これらのツボを刺激することで、枢先生はトウマの肉体を大地へと繋ぎ、浮き足立った不老の呪いを外科的に……経絡的に接地アースすることに成功したのです。

最後に、乱れた精神を統一し、かつての理性を呼び戻すための最終回路とした『百会ひゃくえ』。この往診を経て、枢先生は若さに呪われた恩師を、ただの「穏やかに余生を過ごす一人の老人」へと完治させました。


次回の第362話は、本日【18:00】**に更新予定です。


ついに直接対決となるシオン。彼は枢の救済の気を逆手に取り、庭園の全毒素を一身に集めた「死の薬師」となります。枢は、自身の「神の手」を賭けて、シオンの歪んだ心を撃ち抜く最後の一刺しを準備します。

「(……。おやおや。……。そんなに沢山の毒を背負って。……。……。腰を痛めますよ。……。……。私が今、……その重荷ごと、……外科的に……いえ、……鍼灸師として、……下ろしてあげましょう)」


18時、夕方の往診。霧の庭園の最終往診。

聖鍼師・枢。宿敵シオンとの、魂のぶつかり合い。どうぞお見逃しなく。

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