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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第360話:霧の庭園の鍼灸往診、音の死神を「無音の拍動」で一斉沈静せよ

霧の庭園の最深部、死の睡蓮が咲き誇る池の畔。そこには、一切の風の音さえも消えた「絶対静寂」の空間が広がっていました。

シオンの第三の守護者、静寂のラグナ。彼はシオンの薬によって、聴覚を数万倍にまで研ぎ澄まされ、周囲の空気の振動をすべて「死の旋律」として視認していました。

心臓の鼓動一つ、衣擦れの音一つ。それが彼にとっては、くるるを切り裂くための「楽譜」となります。


「(……。おやおや。……。音を立ててはいけない、……ですか。……。……。ガストン、……。……。震えるのはおやめなさい。……。……。あなたの膝の震える音が、……彼には爆音として聞こえていますよ。……。……。ミナ、……。……。あなたは、……ただ、……心の声だけで歌っていなさい。……。……。私が今、……この喧しい『静寂』を、……外科的に……いえ、……鍼灸師として、……穏やかな微睡みに変えてあげますから)」


枢先生の指先が、音もなく三本の銀鍼を保持しました。

12時、昼の往診。霧の庭園の鍼灸往診。

聖鍼師・枢。無音の死神を、静かなる一鍼で外科沈黙させます。

 太陽が真上に位置し、影が足元に消える刻。

 死の睡蓮が浮かぶ水面は、鏡のように静止している。ラグナは、その水面に座したまま、銀色の糸が張られた医療用メス――「音叉メス」を構えていた。

 彼にとって、この世は雑音に満ちた地獄であった。シオンの薬「超聴覚剤」の副作用により、全細胞が震え、常に脳が爆発しそうなほどの情報量に晒されている。


 「(……。……。……。……。見つ……けた。……。……。そこ……だ……)」


 ラグナが指先でメスの弦を弾いた。

 パシィィン、という、耳には聞こえないほどの高周波。

 しかし、その振動は空気の分子をドミノ倒しのように震わせ、不可視の刃となって枢の喉元を切り裂かんと迫る。


 ガストンは、自身の魔導端末が「音波兵器:致死量」を検知した瞬間、恐怖で声を上げそうになった。

 だが、枢はその声を出す前に、ガストンの首筋のツボを音もなく突き、彼を強制的な「仮死状態トランス」へと導くことで、その存在を世界の音から切り離した。


 「(……。ミナ。……。……。私に、……あなたの『無音の呼吸』を合わせなさい。……。……。私が行うのは、……音を消すことではありません。……。……。彼の脳に直接、……『心地よい旋律』を書き込む作業です)」


 枢が、一歩、踏み出した。

 驚くべきことに、その足が地面に触れた瞬間、埃一つ舞わず、音さえも発生しなかった。

 枢は、自身の脚のツボ――**『足三里あしさんり』と『太渓たいけい』に事前に鍼を打ち、筋肉の収縮に伴う振動を、自身の「気」で完全に相殺していたのである。


 「(……。な、……。……消えた……!? ……。……。鼓動さえ……聞こえない……!?)」


 ラグナが狼狽し、四方八方へ向けて音波の刃を乱射する。

 シュン、シュン、と空気が切り裂かれる音が、庭園の植物を粉砕していく。

 だが、枢は、その刃の「隙間」を、まるで風に舞う木の葉のように、優雅に、そして無機質にすり抜けていく。


 「(……。おやおや。……。そんなに闇雲に音を振り撒いて、……頭痛がさらに悪化してしまいますよ。……。……。ラグナさん。……。……。あなたの耳に聞こえているのは、……世界の声ではありません。……。……。シオンが植え付けた、……『死の幻聴』です)」


 枢の姿が、ラグナの背後に、幽霊のように現れた。

 ラグナが反射的に音叉メスを振りかぶるが、それよりも早く、枢の銀鍼が、彼の耳の裏にある秘穴――『翳風えいふう』を捉えた。


 ――スゥ、と。


 一刺し。

 暴走していた聴神経の過剰な伝達を、翡翠色の気によって「麻痺」させるのではなく、正常な「音のフィルター」へと外科的……いえ、鍼灸的に再構築した。

 二刺し。

 脳内で響き続ける耳鳴りの根源、『耳門じもん』**を突き、溜まった血熱を一気に放出させた。


 「(……。あ、……。……。あ……。……。)」


 ラグナの手から、音叉メスが滑り落ちた。

 彼の世界を支配していた、あの刺すような喧騒が、一瞬にして消え去った。

 代わりに聞こえてきたのは、遠くでさえずる小鳥の声、風に揺れる葉の音、そして――。


 「(……。おやおや。……。ようやく、……私の声が届きましたか。……。……。世界は、……あなたが思っているよりも、……ずっと静かで、……優しい場所なのですよ)」


 枢の穏やかな、しかし芯の通った声が、ラグナの脳に「本物の音」として響いた。

 ラグナの目から、光が失われていたはずの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。


 「(……。静か……だ。……。……。こんなに、……穏やかな音を……聞いたのは、……いつ以来……だろう。……。……。枢……。……君の、……打つ鍼は……。……歌……のようだ……)」


 ラグナは、そのまま死の睡蓮の上に横たわり、深い、深い眠りへと落ちた。

 それはシオンの薬による狂乱から解き放たれた、心からの休息であった。


 「(……。バ、…….……。バカナッ!? 音波そのものを気の振動で相殺し、……さらに脳内の聴覚プログラムを鍼一本で書き換えて、……殺人鬼を聖人のような顔で眠らせてしまったというのか!! コレガ、……完全復活した枢の、……物理法則をも従える『静寂の往診』だというのか!!)」


 仮死状態から目覚めたガストンが、魔導端末が検知した「周辺ノイズ:ゼロ」という数値を見て、震える声で叫んだ。


 「(……。ミナ。……。……。音を操る者は、……誰よりも繊細なのです。……。……。その繊細さを、……シオンは『武器』にしようとした。……。……。ですが、……私はそれを、……『癒やし』に戻しました。……。……。さて、……。……。残る守護者は、……あと一人)」


 枢が霧のさらに奥、シオンが立つ「薬草の王座」の直前を見据えた。


 そこには、かつて枢の右腕として、数千の往診を支えた伝説の鍼師、そしてシオンの薬によって「肉体の老化」を完全に克服した老人、不老のトウマが、無数の鍼を手にして立っていた。


 「(……。ふふ、……。……。枢、……成長したな。……。……。だが、……トウマの『神の手』は、……君の知るそれとは違う。……。……。彼は今、……自分自身の細胞を、……一秒間に百万回再生させ続けている。……。……。君の鍼が届く前に、……彼の肉体は君を、……外科的に同化してしまうよ)」


 シオンの挑発が、霧を震わせる。


 「(……。おやおや。……。トウマ先生。……。……。お久しぶりですね。……。……。若返りすぎて、……自分を失ってしまったのですか。……。……。その溢れすぎた『若さ』。……。……。私が、……適切な『老い』として、……外科的に……いえ、……鍼灸師として、……整えてあげましょう)」


 第360話。

 聖鍼師・枢。

 彼は音の死神を、静寂のメロディで完治させた。

 しかし、次なる相手は、かつての恩師であり、永遠の命を手に入れた不老の怪物。

 聖鍼師一行。

 霧の庭園での往診は、命の時間さえも操作する「不老長寿の執刀」へと突入していく。

本日、5月2日(土)12:00、無音の死闘を鍼灸の極致で制する「静寂の往診」を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回、過敏すぎる聴覚を正常化し、脳内のノイズを消去するために枢先生が意識した術式を解説します。

まず、耳の周囲の神経過敏を鎮め、音の伝達を物理的にコントロールするための起点とした**『翳風えいふう』。耳たぶの裏にあるこの急所に対し、枢先生は自身の冷たい気を送り込むことで、ラグナの脳に「静寂という名の麻酔」を外科的……いえ、鍼灸的に施しました。


そして、脳内に溜まった興奮物質を排出し、長年の不眠と耳鳴りを解消するためのアンカーとした『耳門じもん』と『聴宮ちょうきゅう』。これらのツボを同時に刺激することで、枢先生はラグナの聴覚機能を外科的に……経絡的に再起動リブートすることに成功したのです。

最後に、全身の緊張を解きほぐし、深い眠りへと誘うための最終回路とした『安眠あんみん』。この往診を経て、枢先生は音に呪われた狂戦士を、ただの「静かな昼下がりを楽しむ患者」へと完治させました。


次回の第361話は、本日【15:00】に更新予定です。


不老のトウマとの対決。細胞の超速再生により、どんな傷も瞬時に治る怪物に対し、枢は「老化」を促進させる特殊な鍼、『落花らっかの鍼』**を使います。

「(……。おやおや。……。永遠に若くありたいだなんて。……。……。枯れる美しさを忘れた花など、……ただの造花に過ぎませんよ。……。……。私が今、……あなたに『秋』を、……外科的に届けてあげましょう)」


15時、昼下がりの往診。霧の庭園の鍼灸往診。

聖鍼師・枢。命の時間を操る「不老の呪い」をどう解くのか。どうぞお見逃しなく。

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